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次の日の朝、俺はいつになく緊張した面持ちで、家を出ようとしていた。
「よし、行くけど…大丈夫なんだよな?」
「うん、術が切れちゃったみたいだね。ひろとに見えてないってことは大丈夫そう。もときにだけ、会わないようにしなきゃ。」
スズカは今俺の服を着ているはずだが、全く見えなくなってしまって、声しか聞こえない。
「…もときに、急にいなくなってごめんって言っとかなきゃ…」
「終わった後に?」
「うん、全部が終わった後に。」
「…そっか。」
全部終わるってことは多分スズカの恋人だった、もときの片割れを殺した後。ほんとにそんなことしなきゃいけないんだろうか、他に方法はないんだろうか。
でも、俺が考えたところで解決はしない。今 俺は目の前のことに集中すべきだ。
そう思うもやはり苦しく、晴れない気分のまま、見えないスズカの隣を歩きながら、慎重に、今日の仕事場へと向かった。
車が止まり、外へ出ると、すぐにメモアプリをたち上げる。人がいる所でスズカと話すのは危ない。だからメモでメッセージを書いて、それをスズカが読めば伝わる。昨日話し合って決めた。
今もときはこの建物にいない、途中から来るけど。そして涼ちゃんは別の仕事で来ている。 こんなチャンスなかなかない。メモアプリで手早く打ちこんでいく。
『俺も涼ちゃんも今日は奥側の建物にいるから、手前側に待機してて。俺が呼び出してくるから俺の近くを見てて。』
先程車を運転してくれたスタッフさんに聞いた情報。今日涼ちゃんは別館に行かない。
だからスズカを別館で待機させておいて、 俺と涼ちゃんが本館と別館をつなぐ廊下の前を通りかかれば、涼ちゃんにばれず、一瞬だけど スズカが涼ちゃんを見ることができるはず。
耳元で小さい、了解、という声を開いてから、俺は再び歩き出した。
「それでそんとき私が~、~…」
「へぇ~、そうなんすか。すげえっすね。」
生返事をしながら、少しずつ焦りと苛立ちが募っていく。涼ちゃんの仕事はそろそろ終わる。 俺はもう終わった。そこで涼ちゃんを呼びにいこうと意気ごんだはよかったが、
補まってしまった…この人誰だったかなぁ、
たしかどっかで前会ったような気がするけど…。向こうは俺のことを知っていそうだが、あいにく俺は、名前も分からない。ニコニコと楽しそうに自分の成功話ばかり聞かせられている。今すぐ放って走り出したいが、 この業界は人とのつながりが大切な財産だ。耐えるしかない。
「そこで〇〇のやつは〜、」
長え。まじで長い。もうすぐ元貴が来ちまう。何分しゃべってると思ってんだ、あとちょ っとで30分経つぞ?
「〜。この話には続きがあってですね、私が家に帰ると、
ーーおっと、もうこんな時間か。すみませんねぇ、長々と。私この後仕事があるんでした。 まだまだ話し足りませんが…また後日にしましょうか。すみません、では失礼します!」
俺は心の中でガッツポーズをしながら、精一杯残念そうな顔をして、見送った。
相手の姿が見えなくなると、猛スピードで歩き出した。
やばいやばい、スズカ見つかってないかな。 今涼ちゃんどこにいるんだろ。まだ楽屋いるかな。
焦る気持ちで、ついつい小走りになる。
何個目かの角を曲がったとき、求めていた人物を捉えた。
「っ涼ちゃん!」
ピクッと肩を震わせてこちらを見た。目線の先には小走りにより息が上がっている俺。
やべぇ、どう説明しよう…
「若井?どうしたの?」
涼ちゃんが少し心配そうに言った。
「…いや、 お、俺らこの後同じ場所じゃん? 一緒に行こうかなって思って…」
「それで走ってきたの?」
「うん、涼ちゃん終わったらすぐ行っちゃうか
と思って。」
「ふーん、そっかぁ、…」
腑に落ちないながらも何とか納得してくれたようだ。言い訳が苦しすぎて冷や汗がでてきた。いや、走ってきた汗かな、分からん。
息を少々整えながら、涼ちゃんの隣に並んで歩きだす。このままうまく誘導していかなければ。、と思っていた矢先、涼ちゃんは俺と反対に曲がってしまった。
「んあっ!涼ちゃん!今日はこっちから行かない? さっきその道、撮影中みたいで通れなかったんだよ。」
お?これは中々いい感じじゃないか?
涼ちゃんもすぐ納得してくれて、素直についてきた。なんだか涼ちゃんを騙してるみたいで胸が痛い。実際騙してるのか。
…よし、もうすぐだ。涼ちゃんより少し前を歩いて、ちらりと廊下の先にいるはずのスズカを見る。ちゃんと俺の服を着ているスズカと目が合った。分かりやすいように姿を現しておいてくれたらしい。
ポケットにつっこんだ手はやけに手汗で湿っていて、涼ちゃんの何気ない動作に緊張していく。
いつも通り会話できてるだろうか。 俺変な挙つな動してないかな。
…ついに、通る。
進むのがやけにゆっくりに感じて、思わず涼ちゃんの方をふり返ってしまう。
よし、あと一歩。
スズカの方が壁で見えなくなるうとする その瞬間、
涼ちゃんは、まるではじかれたように、スズカの方へ 勢いよく振り向いた。
まずい、と思ったときには、涼ちゃんはもう動き出していた、スズカの方へ向かって。スズカは微動だにしない。
ーーごめん、スズカ…失敗した…
どうしよう、どうしようと必死に頭を回しているうちに、涼ちゃんはスズカの元へと辿りついてしまった。 そして、しばらくスズカを眺めた後、いつもの涼ちゃんとは似ても似つかないような、薄く口角を上げて、艶やかに笑った。その姿にぞわぞわと鳥肌がたった。
涼ちゃんはゆっくりと口を開くと、
「久しぶりだね。」
と、そう言った。
聞き取った瞬間耳を疑った。これは…ほんとに涼ちゃんか…?
「お、前…!!アオキ…!!」
え?誰…?
「ひろと、こいつりょうかじゃない…もときの片割れ、アオキだ…」
「は…?」
「お前!いつ入れ替わったんだよ!?りょうかの身体返せよっ!」
スズカが掴み掛からんとする勢いで涼ちゃんをまくしたてる。どちらも全く同じ顔、り、涼ちゃんと涼ちゃんが喧嘩してる…
「怒るなよ、スズカ。久しぶりの恋人同士の再会じゃないか。」
「…お前なんかアオキじゃない…、俺はスズカなんて名前じゃない…」
「そんなこと言うなよ。」
涼ちゃんに入ったアオキとやらがスズカに一歩距離をつめ、顎を掴んで無理矢理自分の方に向けさせた。その目はドロリと黒くて、まるで生気を感じなかった。
スズカがその綺麗な形の唇を噛む。
「また、言えないようにしてやろうか?」
スズカの目に恐怖が浮かんだのを見て、ふと我に返って、深く考えずに二人の間に割り込んだ。
「ひ、ひろと」
「ひろと、って名前?お前が口出す権利ある?」
「あ、る。お前のその身体は俺の大切な人だし、スズカのことも大切に思ってる。その身体から出てけよ、」
いつもと違う涼ちゃんに恐怖を覚えながらも必死に睨みつけた。アオキは俺のことをしばらく見つめた後、
「じゃあ、今日のところは帰ってあげるよ。この身体の持ち主も結構抵抗してくるし、この後絶対にお前は俺のところに来ることになるしね。」
「お前、りょうかに何もするなよ。」
「どうだろうねー、じゃあ、」
そう言った瞬間、濁っていた瞳が元に戻り、涼ちゃんが少々ぼーっとしたまま、会議室の方へ歩いて行った。
「え?涼ちゃん、大丈夫なの?なんか焦点合ってないし、歩いてっちゃったけど、」
「大丈夫。多分身体を乗っ取られてた副作用、あと少し経てば元に戻るよ、」
スズカはそれだけ言うと、膝から崩れ落ちてしまった。
「大丈夫!?スズカ、」
「ごめん、ごめん、ひろと…りょうかが、」
「スズカが謝ることじゃないだろ。どうにかして、あのアオキってやつを追い出さなきゃいけないんだろ?」
「うん、そう…ごめんね、ひろと…俺、怖いよ、どうしよう、アオキのことが怖い」
ポロポロとスズカの目から涙が零れ落ちていく。
「大丈夫、大丈夫だよ…」
俺はそう言って、スズカの背中を撫でてやることしかできなかった。そして、スズカを安全なところまで連れて行った後、多少の遅れは覚悟しながら、会議室へと走った。
またもやご本人様の名前をもじってオリキャラを名付けました…決してバカにしたりしているわけではありませんが、不快に感じた方、申し訳ございません🙇