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一方、遊撃部隊は、個々の戦闘が嵐の様に往々と繰り広げられていた。
中でも、次々に複製体を消滅させて行くのは、鳥取支部副隊長、雨滝流泉。
「視界が悪くなる……後ろに下がっていろ……」
雨滝の異能『時雨』。
雨滝は、異能力で自身の前方数メートルを雨天に変えることができる。
そして、寺生まれ寺育ちの純粋な異能は、邪気と化してしまった霊魂の魂を丸ごと浄化させられる。
異能祓魔院の中で、トップクラスの胃能力の持ち主として有名だった。
そして、その効果は邪神のオーラを纏わせる “愚者” の複製体にも有効で、一度に沢山消滅をさせた。
次に、京都支部副隊長、伏見辰巳。
伏見の異能『龍門』。
伏見が構えを取り、オーラの流れを変えることで、様々な龍のオーラを放つことが出来る。
直線的だったり、樹々を綺麗に切り倒さずに滑らかに操作したり、変幻自在の龍気を操る。
そして、オーラで創られた龍に触れた邪気を祓うことが出来る為、伏見の技の前にいる複製体は瞬時に消えていってしまった。
次に、京都支部隊員、嵐山悠雅。
嵐山の異能『嵐雅』。
嵐山は嵐を巻き起こすことができ、その嵐の中には無数の牙が複製体を襲った。
複製体は土で軽く、一度に沢山の複製体を消滅させる。
この三人が、特出して多くの複製体を消滅させていた。
「やはり関西圏の祓魔師はレベルが高いですね……」
「そうだな。ほとんどの関西圏の祓魔師は、養成施設から鍛えて来た者が多い。オーラの扱いが関東圏の祓魔師よりも上手いのは、仕方がないことだ」
「今回の任務……まだ終わっていないですけど、参加させてもらえてよかったと、今は思えます。きっと、大神官を倒して、皆さんと帰りたいです!」
逸見が周りに影響され、自身の実力を更に引き伸ばせるのではないかと、昂っている中、雨滝は顔を曇らせた。
「そうだな……。何事もなければ……いいが……」
鳥取支部は、大神官 “愚者” との戦いで、複数人と死者を出してしまっている。
残ったのは、たった三人。他県からの精鋭を集め、遊撃部隊も一切の油断もなく、むしろ会話をする余裕すらある中ではあるが、一抹の不安を感じていた。
それは、雨滝は “愚者” を知っているからだった。
「なあ、逸見くん。何故、奴が “愚者” と呼ばれているか、知っているか?」
「いや、知らないですね……。大神官にはそれぞれ、〜者と言った、二つ名があるのは知っていますが……」
「そうだな、まず一に、奴は『痛み、苦しみ』と言うものが好きで、それらを感じることを喜びとしている。自分にも痛みや苦しみを与えること、その感情は、他の幸せ、や、嬉しい、よりも鮮明だから、奴は好むらしい。そして、その明確な感情こそが、神へ授けられるものだと思っているんだ」
「は、はあ……。痛みや苦しみ、ですか……」
「ピンと来ていない様子だな。つまり、”愚者” は、己にダメージが入ると喜ぶ。しかし、奴の異能により、複製体を生み出し回復してしまう。奴が “愚者” と呼ばれ、恐ろしいところは、自ら『死にたい』『死ぬことで神に恩返しをしたい』と狂気的に思っているところなんだ」
「つまり、この複製体は、”愚者” が、死にたくなくて発現しているのではなく、『本当は死にたいのに、勝手にこの数の複製体が量産されてしまっている』と言うことですか……?」
「そう言うことだ。だから、俺たちは確かに、こうして複製体を倒すことで、奴を確実に追い詰めているはずなのに、奴からしたら嬉々とすることなんだ」
「だから……着いた二つ名が…… “愚者” ……」
一方、八幡と白兎は、本体のいる小さなボロい古城へと足を踏み入れていた。
「ふふ、見つけました。相変わらずの姿ですね」
”愚者” 本体は、鎖で拘束され、両手両足が折られ、身体に巻き付けられている姿をしていた。
そして、八幡たちを前にしても微動だにしない。
「八幡さん、複製体の数が一定数まで消滅したら、新道より影をこちらに移し、本番となります」
しかし、白兎は未だに迷っていた。
何故なら、今回の編成は全て、白兎ではなく、八幡による指揮の下で動いていたからだ。
そして、白兎の役目は、胃能力『白霧』で、八幡と “愚者” のみの空間を作り出すこと。
戦闘は、八幡が一人で行うと言うのだ。
「心配ですか? 白兎隊長」
「分かってしまいますか……。現役最強の祓魔師と言われている貴女の言葉を疑っている訳ではありません。しかし、この目で何人もの祓魔師が奴にやられた。それも、外傷は一切なく……」
「そうですね、彼の神技は精神を削るもの。邪神の力で物理攻撃は一切効かない。だからこそ、私の異能が彼には効果的なんです」
相変わらず、朗らかに八幡は笑っていた。
その瞬間、
ズガガガガガガ!!!!
「うおああああああ!!!!」
大地は勢い良く唸り、発狂と共に、“愚者” の影と新道たち囮部隊が、八幡たちの前に現れた。
「お前たち……! どうしてここに……!!!」
驚愕に唖然とする白兎。
新道はニヤニヤと答えなかった。
「あれ……八幡隊長……?」
半分混乱気味の睦月は、八幡を見て虚な目を向けた。
「あらあら……」
そして、鎖に繋がれた “愚者” の目が光る。
「さあ、僕に至福を与えなさい……祓魔師よ……」
すると、新道はニヤニヤと “愚者” の前に出て、グラグラと更に地震を発生させ、ドォン! と、大きな音を立て、古城を崩壊させてしまった。
「ぼ……僕の……思い出の城が……ああ……」
悲壮の声を上げる “愚者” 。
「苦しい……胸が苦しい……。ああ……思い出の……ずっとここで暮らしてきたのに……あああ……気持ちいい……!!!!」
「でしょう……? だから言ったんですよ、アハハハ!!」
新道は、足を地面に、バンバン!! と、何度も大きな地震を発生させた。
崩壊させる度に、”愚者” は悲痛の声を上げて喜んだ。
「貴方は良い人だ……。恩を返さなければ……」
「いえいえ、お互い刺激を求める者同士、いいんですよ。恩返しなんて……」
新道は “愚者” を前にニタニタと笑っていた。
「作戦はダメですね〜。私の異能、他の人がいたら使えないんです」
「使えない……?」
「ああ、正しくは……。全員死ぬので」
白兎は、驚愕に声を失った。
「ありがとう……祓魔師。君の名前は……?」
「新道です。新道寛司」
「新道寛司……繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧」
そして、言葉ではない謎の言語を発する。
「新道さん!! 逃げてください!!」
その瞬間、初めて八幡は声を荒げた。
しかし、時は既に遅かった。
新道は、言葉を聞いた後、暫く静止し、口から泡を吹き出し膝を突くと、そのまま白目を剥いて倒れた。
「ありがとう……感謝しています……」
そして、”愚者” は新道に涙を溢した。
「は、八幡さん……今のは……」
睦月は、呆然としながら新道を見続けていた。
「今のが “愚者” の神技……『死の祝詞』です……」
その場の全員に、改めて緊張が走った。
”愚者”
・異能『複製』
・神技『死の祝詞』
邪神の力
・物理攻撃無効
・唯一の勝機、八幡の異能は、二人きりでないと使用できない為、禁じられた。