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第二章:灯火のそばで
「こちらです。遠慮なく使ってください」
案内されたのは、思っていた何倍も広くて綺麗な部屋だった。柔らかい灯りの行灯が揺れ、襖の向こうには中庭の紅葉が見える。
「いやいやいや!俺ここ泊まっていいの!?絶対俺より偉い人が寝る部屋じゃん!!w」
「ふふ、そんなことありませんよ。むしろ、まだ足りないくらいです」
燈華は、どこか楽しそうに微笑む。
この屋敷は、紅月家──この土地を治める有力な家柄らしい。
「でもさ、俺ほんと何も持ってないし…ここでどうやって生活すんの?」
不安を隠しきれずに言うキヨ。燈華は少し驚いたように、だがすぐに優しく言葉を返した。
「私が…お世話します。だから、心配しなくても大丈夫です」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「ありがとう、燈華」
名を呼ぶと、彼女は一瞬ぴくりと肩を揺らし、頬がわずかに赤く染まった。
「……いえ。どういたしまして」
それから数日。キヨは江戸の暮らしに慣れようと必死だった。
刀を避けながら通りを歩いたり、うっかり配信の単語を出して、また首をかしげられたり。
でも──
帰れば燈華がいた。
「今日も無事に帰ってきたんですね。よかった」
ただその声を聞くだけで、安心できた。
一方で燈華も、キヨの話を聞くのが好きになっていた。理解できなくても、知らない世界の話は楽しくて…
何より彼の笑顔を見ると、嬉しくなった。
ある夜。縁側に並んで腰掛け、月を眺める二人。
「なんで俺を助けてくれたの?」
キヨの問いに、燈華は言葉を選ぶように空を見つめる。
「分かりません。けれど──あなたを見た瞬間、”会いに来てくれた”と思ったんです」
「俺が…?」
「はい。ずっと…探していた気がして」
胸が強く掴まれるような感覚。記憶にはないのに、懐かしさが溢れて止まらない。
言葉が出ないキヨに、燈華は少し俯きながら続けた。
「あなたが笑ってくれると、私まで幸せになるんです。そんな人…初めてです」
──惹かれている。
自分でも分かるほどに。
キヨは静かに言葉を落とした。
「…俺、燈華のこと──」
「紅月様ーーーっ!!!」
突然の怒号に遮られた。
振り返ると、家臣たちが慌ただしく走り寄ってくる。
「今はお戻りください!お客様と二人きりはいけません!」
燈華は小さくため息をついた。
「…ごめんなさい。また後で」
そう言って去っていく後ろ姿を見送りながら、
キヨは確信する。
この時代に来たのには、理由がある。そしてそれは、燈華と深く繋がっている。