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昼過ぎ。
出久はかっちゃんの隣で、届いたばかりの任務書類をじっと眺めていた。
「……んー」
「何だ、それ」
「任務の依頼だよ。情報を集めて、指定されたデータを持ち帰ってほしいんだって」
「ふーん」
かっちゃんは興味なさそうに返事をしたものの、出久の手元を覗き込んだ。
「……で、誰が行くんだよ」
「僕!」
「……は?」
即答だった。
かっちゃんの顔から、すっと表情が消えた。
「……今、何つった?」
「え? 僕が行くって!」
「聞こえてんだよ。何でお前が行くんだっつってんだ」
「だって、情報収集なら僕にもできるし! 今回は戦闘が主な任務じゃないみたいだから、僕でも大丈夫だと思うんだ」
出久は得意げに笑った。
無個性の自分でも、頭を使えばできることはある。
そう思って引き受けようとしたのだが、かっちゃんの反応は予想と違った。
「駄目だ」
「……え?」
「行かせねえ」
「ええっ!?なんで!?」
「危ねえからに決まってんだろうが!!」
「で、でも、危険度は低いって書いてあるよ!?」
「その書類に書いてあんなら絶対安全だってのか!?」
かっちゃんの声が部屋に響く。
出久はびくっと肩を揺らした。
それに気づいたかっちゃんは、すぐに口を閉じた。
「…………」
「……かっちゃん?」
「……悪い。怒鳴りてえわけじゃねえんだ」
かっちゃんは額に手を当て、深く息を吐いた。
出久を怖がらせたいわけじゃない。
けれど、出久が自分の目の届かない場所へ行く。
その事実だけで、胸の奥がざわざわする。
もし敵に見つかったら、もし逃げられなくなったら。
……もし、帰ってこなかったら。
考えたくもない想像ばかりが頭をよぎる。
「……出久」
「……うん」
「お前、自分がどんだけ危なっかしいか、わかってんのか」
「……わかってるよ」
「わかってねえだろ」
かっちゃんは出久の前にしゃがみ、目線を合わせた。
「お前は無個性だ。正面から戦うのは得意じゃねえ。逃げ道を塞がれたら、簡単には抜け出せねえだろ」
「……うん」
「俺がいりゃ、どんな奴が来てもぶっ飛ばしてやれる。けど、俺がいねえところで何かあったらどうすんだよ」
出久は唇を結んだ。
「……僕だって、何もできないわけじゃないよ」
「……ああ」
「僕だって、ちゃんと役に立ちたいんだ」
その言葉に、かっちゃんは黙り込んだ。
出久は視線を落としながら続ける。
「いつもかっちゃんに守ってもらってばっかりだから……。僕も、かっちゃんの役に立ちたいんだよ」
「…………」
「僕だって、かっちゃんの隣にいたい。守ってもらうだけじゃなくて、かっちゃんを支えられるようになりたいんだ」
かっちゃんは出久を見つめた。
その目は真剣だった。
ただ甘えたいだけじゃない。
自分も大切な相手の力になりたいのだ。
そんな出久の気持ちまで、否定するつもりはなかった。ー
……けれど。
「……お前はもう、十分役に立ってんだよ」
「……え?」
「情報集めも作戦考えるのも、お前がいるから俺は動きやすい。お前がいなきゃ、今までの任務だってもっと面倒だった」
かっちゃんは出久の手を握った。
「だから、自分の価値を証明するために危ねえことすんな」
「……っ」
「俺にとって、お前は使えるかどうかで隣に置いてる奴じゃねえんだよ」
出久の目が、ゆっくりと見開かれた。
「……かっちゃん」
「お前が何もできねえ日だって、俺はお前が好きだ。何も頑張れねえ日だって、隣にいてほしいと思ってる」
「…………」
「だから……頼むから、自分を危ねえ場所に放り込むような真似すんな」
最後の言葉は、怒鳴り声ではなかった。
むしろ、いつもよりずっと弱々しかった。
出久は握られた手を見つめ、それからかっちゃんの顔を見た。
「……かっちゃん、怖いの?」
「……あ?」
「僕が帰ってこなくなるのが、怖い?」
かっちゃんは答えなかった。
その沈黙だけで、出久には十分だった。
「……そっか」
出久はそっと手を伸ばし、かっちゃんの頬に触れた。
「……ごめんね。かっちゃんを不安にさせたいわけじゃなかったんだ」
「謝んな。俺が勝手に怖がってるだけだ」
「……でも、僕はかっちゃんと一緒にいたいよ」
出久は微笑んだ。
「ちゃんと帰ってくる。かっちゃんのところに」
「……簡単に言うんじゃねえよ」
「簡単じゃないよ。僕だって、かっちゃんがいないところでずっとひとりでいたいわけじゃないもん」
そして、出久は少しだけ首を傾げた。
「……ねえ、かっちゃん。一緒に来てくれない?」
「…………は?」
「かっちゃんと一緒なら、危険も減るでしょ? 僕が情報を集めて、かっちゃんが周りを警戒してくれたら……」
「……最初からそう言えや!!」
「ひゃっ!?」
かっちゃんは思わず出久を抱き寄せた。
「お前ひとりで行くって言うから、こっちは心臓止まるかと思っただろうが!!」
「ご、ごめんってばぁ!」
「ったく……!」
そう言いながら、かっちゃんは出久の頭を何度も撫でた。
「……一緒に行く。絶対に俺から離れんなよ」
「うん!」
「勝手な行動すんな。何かあったらすぐ俺を呼べ。危ねえと思ったら任務なんざ放り出して逃げるぞ」
「わかった!」
「……本当にわかってんだろうな」
「わかってるよ、かっちゃん!」
出久は嬉しそうに抱きついた。
「えへへ、かっちゃんと一緒に任務だぁ!」
「……お前、楽しそうだな」
「だって、かっちゃんと一緒だもん!」
かっちゃんは一瞬だけ言葉を失い、それから出久の頬をむにっとつまんだ。
「……ほんっと、お前って奴は」
「んにゃ?」
「……かわいすぎんだよ、馬鹿」
「えへへ♡」
出久はかっちゃんの胸に頬をすり寄せた。
「……かっちゃん、大好き!」
「俺もだ。大好きだよ、出久」
かっちゃんは優しく抱きしめながら、心の中で何度も繰り返した。
一緒に行く。
絶対にひとりにはしない。
出久がどれだけ賢くても、どれだけ頑張り屋でも、危険がなくなるわけじゃない。
だからこそ、自分が隣にいる。
敵が現れたら自分が倒す。
出久が逃げる必要があるなら、自分が道を作る。
そして、任務が終わったら。
誰よりも早く抱きしめて、帰ってきたことを確かめる。
「……なあ、出久」
「なあに?」
「任務が終わったら、何してえ?」
出久は少し考えてから、にこっと笑った。
「……かっちゃんと一緒に帰って、ぎゅーして、いっぱい甘えたい♡」
かっちゃんは満足そうに笑った。
「よし。じゃあ、さっさと終わらせて帰るぞ」
「うん!」
「……俺のそば、離れんなよ。絶対だからな」
出久は繋いだ手をぎゅっと握り返した。
「……うん。僕、かっちゃんの隣にいるよ♡」
コメント
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お疲れさまです、編集の寺島です📚 第3話、読ませていただきました。 かっちゃんの「行かせねえ」の一言から始まる一連のシーン、すごく胸にきました。怒鳴ってからの「悪い」と謝るところに、出久を思う気持ちの大きさが滲んでいて。「お前はもう十分役に立ってる」って言えるかっちゃん、めちゃくちゃかっこよかったです。 そして「怖いの?」と聞く出久の優しさと、それに答えられないかっちゃんの不器用な愛情…ふたりの距離感が本当に愛おしかったです。一緒に任務に行く流れも自然で、にやにやしながら読み終えました。続きが気になります🌷
出久推し
262
ひま
47
さくち
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