“昨日人を殺したんや”
君はそう言っていた
梅雨どきずぶ濡れのまんま部屋の前で泣いとった
夏が始まったばっかなのに、君はひどく震えとった
_そんな話で始まる、あの夏の日の記憶。
夏の訪れを感じさせる蒸し蒸しとした空気
肌を突き刺すような眩しくて仕方ない太陽光
うるさいと思うほどの蝉の声
ぽたぽたと零れ落ちる汗
そういえば過去最高気温とかテレビで言ってたな
去年も言ってた気がするけど
そんな世とは反対に、体を震えさせ
今にも崩れてしまいそうな君がいた
隣に座って、そっか、なんて軽く話しかけると小さく震える声でポツポツ話し出した
[……殺したんは隣の席のいつもいじめてくるあいつ]
「おん」
[…..もういやなって肩突き飛ばしたら…..]
「うん」
[……打ちどころが悪かったんや]
「………」
[……もうここにはいられないと思うしどっか遠いとこで死んでくる…]
そんな君に俺は言った
「それじゃ俺のことも連れてってくれや」
紗緒:何持ってったらええんや?
天乃:財布とか、ナイフとか、
紗緒:携帯とかゲーム機持ってこー、暇なるんいややわ
天乃:せやな
紗緒:モバイルバッテリーやろ、まぁ服とか
天乃:家にあるお菓小とかもってくか
紗緒:そうしよ
天乃:要らんもん捨ててくる
紗緒:わかった
あの写真も あの日記も
今となっちゃもういらない
価値なんてないのだ、ただの、紙切れに過ぎないのだ
天乃:24時くらいに家抜け出そ、いつもの路地裏集合な
紗緒:了解
鞄を持って部屋の窓から外に出る
今日は熱帯夜だ、風が温い
[いこか]
「おん」
握ったこいつの手は少し震えていた
人殺しとダメ人間の君と俺の旅
そして俺らは逃げ出した、この狭い狭いこの世界から
家族もクラスのやつらも何もかも全部捨てて君と2人で
遠い遠い誰もおらんとこで2人で死ぬんや
もうこの世界に価値なんてあらへん
人殺しなんてそこら中湧いとるやんか
お前はなんも悪ないんやで、ホンマに悪ないんや
「…..あっついなぁ」
日中よりも日差しが差さない分、暑さは多少緩和されるが、それでも暑い
全身から滲み出る汗は体を這うようにして伝う
[せやなぁ…..]
「結構歩いたし野宿できるとこ探そうや、そろそろ疲れた…」
[そうしよか]
「ここええやん」
[お、ええなここにしよか]
草むらを適当にかき分け、シートを敷く
[腹減っとらん?]
「大丈夫やで」
シートの上にごろっと寝転び空を見上げる
雲が星々に覆いかぶさる
[あー眠いわ…おやすみ]
「…..おやすみぃ…」
蛙と蝉の鳴き声がうるさいほど響く
あぁ、夏が始まったんだ
早朝、体を揺さぶられ目が覚める
橋の下で寝ていてよかった、太陽の下だったら焼肉になるところだった
[おーはよー]
「んー…..おはよー」
[はよ起きて行こや]
「…おん」
[川で顔洗い行こ、あとついでに水も汲み行くで]
「おん…」
ゴシゴシと目を擦り、寝ぼけ眼を覚ます
穏やかに流れる川の水を両手で掬い、顔を洗う
[はぁ?冷た]
横にバシャッと水をかけると
水がかけ返される
「うわぁっ」
[ざーこ]
「やったなこんにゃろ?」
[発端はお前やからな!]
「ちょ!タンマタンマ!体力の無駄遣い!」
[あ、逃げた]
「め、飯食おや!」
[はいはい…..]
「おもろいなぁ…..なんか野宿とかしてんの…ゲームみたいやな!」
[んふっ…せやな]
昨日の夜適当に掴んでカバンに入れた菓子パンをかじる
「なぁ、遠いところってどこ行くん?」
[…..せやなぁ、どこやろ]
[バレるまでどこにでも、住んどったところはたぶんもう警察官が捜索しとるやろし]
「…せやな、行ける所まで行ったるか」
[おん]
少しだけ口角をあげて笑う
[よし、そろそろ行こか]
「せやな」
荷物をまとめて、なるべく人気の少ないところを歩いていく
そんな俺たちを太陽光は容赦なく照らす
「…..そういやなんで俺らって仲良くなったんやっけ」
[…結局、俺ら誰にも愛されへんかったから、やろ]
「そんなくだらん嫌な共通点で信じあってきたんやっけ」
[たぶん、せやで]
「へー」
手を握ると、握り返してくる
手を握った時微かな震えも既になくなっとって
誰にも縛られないで2人で線路の上を歩いた
「お金もそんなないなぁ」
[盗めばええやん]
「心無っ」
[今更や]
「ついに認めた、倫理観バグったんちゃう?」
こんな状況じゃなかったら、最後じゃなかったらきっと認めなかった、いつもみたいに心あるわ!って言ってでかい声で騒いでいた、それを見て笑っていた
そんなふざけた退屈でつまらないただの日常が続くもんだと思ってた
「あ、あそこ盗めそう」
[ふはっ…行くか]
「バレへんようになぁ」
[バレたらダッシュな]
「おけ」
金を盗んで
「あ☆バレた☆」
即落ち二コマ
[バカ!走れっ]
でかい声で体が脊髄反射で動く
“そこのガキ!!!止まれ!!”
後ろからの怒声に耳もくれず
前だけを見てひたすら走った
[あそこの路地裏入ればバレへんやろ!]
「了解!」
2人で逃げて
「ふぅ…ここまで来たらバレへんやろ…」
路地裏に入って一息つく
[せやな…w…]
「もう少し離れいく?」
[おん、今バレたら元も子もあらへん]
「せやな!」
周りを警戒しつつ路地裏を出て
橋の下に身を潜める
どこにでも行ける気がしたんや
今更怖いものが僕らにはなかったんや
額の汗も、落ちた眼鏡も
今となっちゃどうでもいいさ
あぶれ者の小さな逃避行の旅や
「大収穫や〜」
[せやな…]
広げたシートの上に盗んだものを広げる
[はー…結構とってたんや…]
「バレたらどうなるんやろ!学校名聞かれたり親の電話番号聞かれたりすんのかな?」
[w…..親ね]
「俺親電話してもすぐ来れるとこおらんわぁ」
[俺もやなぁ]
「学校の先生とか呼ばれんのかな…w」
[…かもなぁw]
[今日はここに野宿しよか]
「せやな、日も落ちてきたし」
「なぁ…」
[おん?]
「…いつか夢見た優しくて、誰にも好かれる主人公ならさ、汚くなった俺たちも見捨てずにちゃんと救ってくれるんかな」
[はぁ?…何言っとんねん、そんな夢なら捨てや、だって現実を見てみシアワセの、4文字すらなかったんやで]
[今までの人生で思い知ったやん?]
「…せやな」
[…..自分は何も悪くねぇと、誰もがきっと思っとる]
「…..自分は何も悪くないって、自分に言い聞かせとるんやろな」
[そういうことや]
見上げた星空は、昨日よりは綺麗だった
雲で、月が見えない
_旅が始まって、1週間
[おい…!起きろ…!]
「んー…?」
[捜索このへんも危ないかも知らん…早めに出よや]
「ほんま…!?はよ移動しよや」
[荷物大丈夫か…?]
「おん…大丈夫…!いこ」
[おう…]
寝起き早々、危機
荷物の入った鞄を掴み
茂みの中を、隠れながら走る
「あー゛暑い…熱中症なってまう…」
[顔あっかっ…水飲めとりあえず]
「ロボロも顔真っ赤やんけ…」
「結構離れたし日陰行こや…..」
[せやな…..]
路地裏に入る
[あー…少し涼しい…..]
「ちょっと…だけ…」
[氷あらへんかな…]
「氷は売ってる…てか…盗むの難いしな」
[…..そろそろ限界かなぁ……]
「あ、なんか遠くから声がぁ…..」
[逃げるぞ〜?]
「うーっし」
頭がクラクラする
気持ち悪い
視界もぼやける
宛もなく彷徨うセミの群れに
水もなくなり揺れ出す視界に
迫り来る鬼たちの怒号に
「ふはははっ…..wもう無理やー…w」
[せやなぁ手遅れやなぁ…w心も体も限界や…]
限界だった、全て
体力も、金も、生きる力も、精神も、何もかもが
バカみたいにはしゃぎ合い
ふと
君はナイフを取った
[お前が今までそばにいたからここまで来れたんや]
[だからもうええよ、もうええんや]
[死ぬのは俺一人でええよ]
そして君は首を切った
あかあかとした血が容赦なく吹き出る
目の前にいたはずのお前が俺の視界から消える
どれだけ声を上げても、どれだけ声を粗げても
地面に倒れたお前は何も言わずに目をつぶっている
まるで何かの映画のワンシーンだ
白昼夢を見とる気がした
気づけば俺は捕まって
君はどこにも見つからなくって
君だけがどこにもいなくって
そして時は過ぎていった
ただ暑い暑い日が過ぎてった
家族もクラスの奴らもいるのに
何故かお前だけはどこにもおらん
あの夏の日を思い出す
俺は今も今でも歌っとる
君をずっと探してるんや
君に言いたいことがあるんや
9月の終わりにくしゃみして
6月の匂いを繰り返す
君の笑顔は
君の無邪気さは
頭の中を飽和している
誰も何も悪くないで
君は何も悪くないから
もうええよ投げ出してしまおう
そう言って欲しかったんやろ?なぁ?
E N D
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あとがき
チッス、ども作者です
真冬に真夏の作品を投稿するというバグっぷり
まぁ寒いし、うん、気持ちだけでも暑くなるかなって
なったらいいなって、思って、はい。
冬関連の作品も書いてみようかなーうーーん
迷いどころですね(めんどい)
とりあえずカンザキさんは神。
それを伝えたかった
おつ
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