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俺は猿山先生と一緒にゾムを探す事にした。内心ではまだ、猿山先生の事を疑ってるからその監視も含めて。ゾム…俺としては助けたいと思った。でも、みんなはゾムのせいで怪我をした。それを許すことはできない、それに…今のゾムに正気があるとは限らない。泣いていた、とロボロは言っていたけど何でなのか分からないし。
「豚平はゾムを助けたいと思う?」
無駄に長い廊下を猿山先生と歩いていると、急に話しかけてきた。
「俺は…助けたいけど、助けたくない。ですかね」
「どうして?」
「俺にとってゾムは大切な親友なんですよ。でも、みんなも俺にとっては大切な親友だから……大切な親友を傷つけた人はどんな奴でも許せないんですよ」
「……なるほどね」
なぜか、意味ありげにつぶやいた後、どことなく空気が変わった。
「…もしかして、ゾムが近くにいるんじゃないかな」
「本当ですか?」
猿山先生がほぼ確信的にそう言って、とある教室の扉を開けた。そこは、俺達が昔よく溜まり場にしていた空き教室だった。
「やっぱり、ゾムはここにいると思ったんだ」
「…寝てる……」
教室のど真ん中ですよすよと眠る姿は先ほどまでと打って変わって普段のゾムだった。刀をすぐさま探すが、どこにもなかった。
「……おかしい…ゾムが手放す訳ないのに…」
「それなら、私が持っているからですよ」
「っ!」
背後から急に声が聞こえた。聞き覚えのある、初老の男の声で、俺は振り返った。
「…あの時の…執事さん…?」
「そうです、お久しぶりですね、桃瀬様、猿山先生」
確か、この人は先代の時にいた専属執事だった気がする。昔から桃瀬家にいる人で、俺のひいひいおじいちゃんが死んだ時にいなくなったと聞いた。
「いなくなった訳ちゃうんや…」
「ええ、あの時はどうしようも無くてですね…しばらくは猿山先生と一緒にいたんですよ」
「それで、何の用ですかね、?」
「ああ、そうでした、実はこの刀をゾムさんから研いでくれと言われまして…」
そう言って執事は刀をどこかからか取り出し俺達に見せた。
「あ、あの、その刀…俺達が預かりましょうか?」
「何故ですか?私は研いでくれと言われただけで、誰かに渡せなんて言われてません」
「い、いやぁ…でも、研ぐための道具がないじゃ無いですか、それを取りに行ってる間預かりましょうか?ってだけなんで…」
俺が気を引きながら、猿山先生が背後から執事を羽交締めにした。その隙に俺が刀を取る。
「…いいんですか?そんな事して、」
「別に俺は構わないんですよ。ただ、大切な生徒のためなんで」
「…初めからそう言えばいいでしょう…?次から回復させてあげませんよ?」
「それは、困りますね…生徒は関係ないので俺だけで許して貰えませんかね?」
「はぁ…まあいいですよ。手は出しません、離してしてください」
そう言えば、猿山先生は離して、俺を守るように立った。きっと、あの執事を警戒している。しばらく一緒にいたのに何故?と思ったが、変に考える事をやめた。
「では…私はこれで失礼します。今度こそかわいい生徒さんを守れると良いですね」
そう言って、目の前から執事が消えた。
ゾムはまだ寝ている。
俺達はゾムが起きないうちに部屋を出て、残りの奴らと合流する事にした。
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トントンと猿山先生と離れて俺達は秘密の部屋を探すための手がかりを探していた。
「はぁ…ほんまにあるんかなぁ…?秘密の部屋」
「さぁ?あるから本に書いてあったんやろ?」
別れる前トントンは、あの本を図書室で見つけたと言っていた。そのため、図書室にまだ何か手掛かりがあるのではと思い、図書室にいる。しかし、この学校の図書室は何故か広く、デカい。そのため、本の量も莫大で、とてもじゃないが手掛かりが見つかるようには思わなかった。
「せめて図書室に詳しいやつがいれば…」
そう、このメンツ本を全く読まないのだ。いや、コネシマは読むが、小学校の頃は全然と言って良いほど読んでいなかった。中学に入ってから本に触れる機会が多くなりハマったらしい。
「……ん?なあ、コネさん、コネさん。これ…」
「あ!!!!!!!これ…!!!!!!!」
僕が別の場所を必死に探していると、ロボロとコネシマが何かを見つけたようで図書室という事も忘れて大声を出していた。
「ちょ、うるさ…どしたんや」
僕も急いで2人の方へ行く。すると、ロボロが手に持っている本をこっちに突き出してきた。
「これ!!俺らが探してた秘密の部屋について書いてある!」
そう言って、ページをパラパラとめくれば、あるページで止まる。
【猿、鳥、戌、の鬼揃いし時、扉が出現するなり】
【鬼の刀、扉に刺せば扉開くなり】
【屋上にありし、祠に向かうべし。さすれば扉が見つかる】
それを見た僕達は無言で顔を見合わせて、屋上に向かうために走った。
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途中、僕たちを探していたトントン達と会った。ロボロが持っている本を見せて事情を説明したら、向こうも刀を手に入れたらしい。
「と、とにかく…屋上に…はぁ…むか…はぁはぁ…」
「大先生めっちゃ息切れとるやん…相変わらず体力ないなぁ…」
「はぁ…しゃーない、やろ……」
普段から運動は嫌いだ。特に走る事が。まあ、これを機に運動してみようかな。なんて思ってみたり。
「刀取るなんて酷い事するやん」
背後から急に声が聞こえた。慌ててみんなが振り向けばゾムがいた。でも、手には何も持っておらず、僕らに対する武器はないようだ。
「俺達にとって必要なもんやったから借りただけや」
「ほんまに?奪ったんやなくて?」
「奪ってへん、俺らがそんな事するように見えるか?」
「………ま、ええわ。それより、刀返してぇや」
「お断りしますー」
「じゃあ、鬼ごっこ、やな」
ゾムがそう言うと、校舎の電気が消えて真っ暗になった。みんなは一瞬慌てるが、猿山先生が落ち着いて固まるんだと言った途端、みんなで一箇所に固まる。
「最後まで刀を持ってた方が勝ち!暗ーい学校での鬼ごっこってワクワクするやろ?」
ゾムの笑い声が響いた後、聞こえなくなった。おそらくどこかに移動したんだと思う。
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「まずいな…」
「刀は無事か!?」
「それは大丈夫…俺がちゃんと持ってたから……」
暗い廊下の一角で俺達は固まって状況を把握していく。どうやら、刀は無事なようだ。
「なにか、灯りがあればええけど…」
「…学校の備蓄倉庫に懐中電灯があるけど、この暗さの中歩くのは流石に危険かもな」
「ゾムもなんか考えてきてる気がすんねんな…じゃないと自分に不利となるような勝負事は仕掛けてこないはずやし…」
完全にこの状況を打開できる策が思い浮かばなくなり、手詰まりかと思っていた時、ロボロが言った。
「俺と、コネさんで懐中電灯を取りに行って、残りのやつが近くの部屋にこもっておくってのは?」
「……ロボロとコネシマの理由は?2人だと危なすぎるやろ」
「俺とコネさんなら、この中で誰よりも速く走れる。コネさんが迷子になっても俺が案内出来るし」
「…じゃあ、2人に任せよう」
「猿山先生!?正気ですか!?」
「天野、絶対に怪我せず帰って来れるな?」
「絶対、帰って来れます。俺の計画に狂いはないんで」
「コネシマも、それでいいな?」
「俺も、ロボロのこと信頼してるし。猿山先生達より速く走れる自信しかないわ!」
ロボロの無謀すぎる計画に、賛成した先生。何故なのか、僕にはさっぱりだったが、それで屋上に向かうことが出来るならいい。
「俺達はここで待ってる。必ず帰ってこい」
猿山先生はそう言って2人の肩を叩いた。トントンと僕も気をつけるようにと声をかけておいた。
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刀を取られたから、代わりになるものを探してた。でも、所詮は学校。危険物は置かないようにしてるみたい。だから、執事さんに頼んで代わりのものを借りることにした。執事さんが支えてた時にもらったものらしくて、一回も使う場面が無かったから置き場に困ってたみたい。でも、使い方がいまいち分からなくて、困ってたら、執事さんが教えてくれた。
「にしても、電気を消してどうするおつもりなんですか?」
「んー、別にどうこうするわけや無いけど…暗くなったらみんなは灯りが必要やろ?そしたら、灯りを確保しないといけない手間が増える。だから俺に捕まる確率が高くなる。って思った訳や」
僕の考えを説明すれば執事さんは感心したような驚いたような表情をした。
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備蓄倉庫に懐中電灯を取りに行ってる最中、ゾムを見かけた。けど、こちらには気づいていないみたいだったので、そのままスルーした。
その後、特に何事もなく猿山先生達のところに戻り、人数分の懐中電灯をつけて、屋上へ向かった。
「うぅ…夜の学校って不気味だよな…」
「先生ビビりなんすね」
「は!?ち、違うしー?」
呑気な会話をしているが、場面的にはシリアスだろう。まあ、それほど、みんなが猿山先生に対して心を許してきているという事なのかもしれない。
「あ、いた…!なんや、もう灯り見つけたんか…残念。足止めにはならんかったなぁ」
気づいたらゾムがいた。いつも神出鬼没なため、どうやって俺達を見つけているのか聞いてみる事にした。
「んーー別になんかしとる訳ちゃうけど…強いて言うなら勘、?」
鬼の状態でここまで会話が出来ることにも驚きだが、勘で俺達を見つけることが出来るのなら相当だろう。何があっても気を抜いてはいけない相手だと改めて実感する。
俺達はゾムと会話をしつつ、じりじりと階段を登り、屋上へ誘導していく。
【猿、鳥、戌、の鬼揃いし時…】
つまりは屋上に猿山先生、ゾム、俺、の3人が揃うことで扉が出てくるのだと思ったわけだ。俺達は一度鬼になっている。
だから屋上へ誘導したいのだが、ゾムは俺達の何倍も頭がいい。おそらくそれに気づいているだろう。全員を一気にやれるタイミングを見計らっているのだろう。
ゾムが歩みを止め、武器のような物を取り出す。
暗くてよく分からないが、ナイフのように刃渡りの短いものだと推測できた。
「っ!!!?」
すると止まっていたゾムが急にこちらへ踏み出してきた。走っている時よりも速くて、危うく攻撃が当たるところだった。
「みんな、!走れ!!!!」
俺がそう言った途端、みんなで一斉に上へ向けて走り出す。ゾムも後を追うように走ってくるが、俺が懐中電灯の光を目に向けてやった。少しでも足止めになればいいが。
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誰も怪我する事なく、屋上に着くことが出来た。
大先生は途中からトントンが担いで走っていたし、おそらく大丈夫だろう。
「はぁ、はぁ…って!あれ!!?」
コネシマが指を刺した先には扉があった。
つまり、ゾムもこの場にいるという事。
急いで辺りを見渡せばうずくまっているゾムがいた。
おそらくだが、扉の光に反応しているのだと思う。
太陽の光に敏感な肌をしているゾムは常に長袖だった。つまり、あの光は太陽光に近いものという事だろうか。もしくは太陽光そのもの。
「は、はやく、!今のうちに!」
ゾムが弱っている今がチャンスだと思った俺はトントンに声をかける。すると、トントンは走って扉に刀を刺そうとした。
否、刺せなかった。
「っ!トントン!!!!!!」
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次回「封印」
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ちょっと長くなっちゃった…
終わりが近づいてますね…一体どんな結末を迎えてしまうのか。トントンはどうして刺せなかったのか。
週に一回の投稿ですが、忘れずに楽しみにしておいてくれると嬉しいです。
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