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この作品は実在する配信者様のお名前をお借りしています
非常にデリケートな界隈を扱っております。
等作品はhbknです。地雷の方や伏字、タグの意味が分からない方はお控えください。
※御本人様には一切関係ございません
凍てつく冬の月夜、ベランダで鼻歌混じりに煙を飛ばす君を、ぼんやりと眺めていた。
「 …煙草なんて吸っとったっけ。 」
『 …まぁ、ちょっと..ね、ただの気まぐれだよ 』
君は口早にそう言うと、機嫌よく鼻歌を歌ったっけ。
君の弾けるような明るい声が好きだった。
鞠を転がすような君の笑顔が好きだった。
…でも何よりいちばん、俺の声を聞いて嬉しそうに振り向く君の事が好きだった。
なのになんで、何も言わずに置いてったん?
憂鬱になりそうな程の晴天で、今日はバイトの勤務先も定休日。
もう8月も下旬で、俺の愛しの恋人…風楽奏斗と付き合い初めて2年になる日が着々と近づいてきていた。
こんな日だから珍しく外にいき、そこで暫くなんとなく歩いて、なんとなく着いた商店街に出た。
そこでまたプラプラと歩き回って、笑いながら駆け抜いていく2台の自転車を横目で過ごす。
「…楽しそうやなぁ、」
そう、誰にも聞かれないくらい小さく零す。
商店街には、店の準備をしている人や犬を連れて散歩に来ている人など様々な人がいた。
そんなことが、何故かとても心地がよかった。
しばらく経ってふと時計を見ると、もう夕方と言える時間になっていた。
今日は奏斗も残業無しに帰ってくるらしいからもう帰って夕飯の準備などを済まそうとまた歩き出す。
奏斗とは幼少期からの友人で、きっかけは俺が家族と討論になって家を飛び出したことだった。
偶然入った公園で、偶然泣いてるあいつがいて。
俺が話しかけると奏斗は初めこそ驚いていたがそのあと太陽みたいに明るく笑ってくれた。
それから俺達はよく集まるようになって、そのうち家族にも紹介する程の仲になっていった。
奏斗と過ごすうち、明るくて何事も楽しんで取り組もうとする彼の性格に惹かれ、高校の卒業式で彼に気持ちを伝えた。やはり馬が合うのだろう、考えていることは2人とも同じだった。
それから本当に色んな事があって、今は大学には通わず2人で一緒に暮らしている。
なんてそんな昔話を頭に浮かべながらようやく家に帰ると、奏斗から一件、連絡がきた。
内容は少しだけ上司に呼び出されたから遅れると言うことだった、ご丁寧にうさぎか犬か分からない動物が手を合わせて謝罪しているスタンプまで添えて。
そんな事ですら愛おしく感じてしまう自分に呆れつつ奏斗のメッセージに返信をして、俺は夕飯の準備に取り掛かる。
奏斗も帰り夕飯を食べ終えた俺たちは食器を片付けてから3時間程ゲームをして、それから風呂に入って床に着いた。
珍しく充実した日で、かなり幸せな気持ちで眠る事ができた。
それからそんな日が日に日に多くなって、果てには週に3日のペースでそんな日を過ごすようになった。
それから数週間、ついに2年記念日が翌日に迫った。
レストランの予約をして、プレゼントも買っておいた。
「喜んでくれっかなぁ〜」
なんて少しの不安と絶対的な自信を持って、飲食店のバイトへと向かう。
バイト終わり、家に帰ると珍しく奏斗の方が早く帰宅していた。
「あれぇ、奏斗今日早かったね」
『…あー、』
そう言うと空返事で空を見つめる奏斗の手には、紙煙草が煙を巻いていた。
しばらく見つめていると、奏斗はもう寝る、と少し震えた声で俺に伝え寝室に向かっていった。
「…おー」
奏斗が煙草を吸うということ、これがどう言う意味かなんて聞く方が野暮だろう。
そんな事を考えつつ俺も大人しく風呂場へと向かい、風呂から出終わるとそのまま寝室へと直行した。
待ちに待った2年記念、昨日は泣きそうな顔で何かに浸っていた奏斗も、俺を叩き起こして水族館へ行こうと言い出した。
「…なんでぇ、奏斗が水族館とか珍し…」
たまにはいいだろ、と無理矢理ベッドから引きずり出されてされるがまま水族館に連れて行かれた。別に嫌って訳ではないけど…、魚見ると魚食いたくなるやん…。
『ひばおっそい!イルカショー始まるんですけど!』
「まだ30分も時間あるってぇ〜、」
俺の目線の先でぴょんぴょんと飛び跳ねる奏斗、せっかちなのは昔から何も変わってない。
それから俺達はショーをみて、デートおきまりのお土産を買おうと言う話になった。
これは?と、奏斗はダイオウグソクムシのキーチャームを手に取って俺に見せた。
「え、それなん?イルカとかやなくてええん?」
『だってなんか…僕達!って感じしない?』
「ぜってぇイルカの方いいってぇ」
俺が笑ってそういうと、奏斗も声を出して笑い出した。つかなんだよダイオウグソクムシって。
俺が何を言っても奏斗は折れないで、結局ダイオウグソクムシのチャームを買った。どこかこれも思い出の一片になる、という奏斗の意見に納得している自分がいたからだろう。
『もうすっかり暗くなっちゃったね』
「…おー、」
時間は18時40分、もうそろそろ予約していた時間だ。
「…ちょっと移動せん?」
『…え、…どこに?』
「えーから!」
奏斗の手を引き、そのままタクシー乗り場へと向かう。
奏斗はタクシーの中終始不思議そうな顔をして俺のことを見つめていた。
タクシーを出てレストランへ着くと、奏斗は驚いた顔をしてから俺に抱きついてきた。
『お店なんて予約しててくれたの!?
ほんっとにお前ってやつは…っ!』
やはり俺の目は間違ってなくて、彼を飛び跳ねさせるまで喜ばすことができた。
「愛する恋人様の為なら当然やって、
喜んでくれて何より!」
満面の笑顔でそう答えると、奏斗はもう一度俺に抱きついて珍しく自分から手を繋いできた。
早くいこ!と急かす奏斗がどうにも愛おしくって、丸くて可愛らしい頭を掻き撫でそうになった。
店に入ると、見たことのない程気品に溢れる料理がメニューに並んでいて、一瞬で今月の請求を覚悟した。
今日くらい我慢せず食べさせてやりたいと思って遠慮するなと言ったところ、奏斗は本当に遠慮なく店特性ソースが添えられた海外産のハンバーグを注文した。
『これうっま!マジ無限』
「おーい、味わって食えな〜?
なかなか来れんよこんなとこ!」
『もう充分味わってます〜!それより雲雀も早く食べないと冷めちゃうよ!』
「それもそうやね、でもその前にこれだけ」
と言うと、奏斗は食べ進める手を止めてただ俺の手元をじっと見ていた。
「…奏斗、これからもよろしく」
俺を真剣に見つめていた奏斗に、ささやかながら花束を渡した。
…アングレカム、純白で星の形をした花。
花屋で見かけた時、彼の白く透き通った肌に似合うだろうと思ったんだ。
「俺花とかよく分からんけど、これでもちゃんと調べたんよ!だから…その、受け取ってくれん?」
その瞬間、奏斗の瞳から光りが零れた。
嬉しいと、ありがとうと、大好きだと、
彼の口から一つ一つ丁寧に零される言葉に、いちいち胸が熱くなった。
「奏斗、そんな泣かんで?
…俺がずっと幸せでいさせるから」
『…根拠もないのにw』
「…んは、ひっでぇねw」
そのあと奏斗はしばらく鼻を啜って乱暴に涙を拭うと、まだ少し震えた声で 『 大好き 』 と、言った。
それから夕飯を食べ終えた俺達は店から出て、そのまま帰宅をした。
「…奏斗、今日はありがと」
『こっちのセリフ、…ほんと、色々貰っちゃって…
ありがとう、雲雀。』
潤んだ瞳で笑って言う奏斗、少し抱きしめて、また離して言葉を紡ぐ。
「…ね、奏斗。…アングレカムの花言葉ってね…』
その時だった。
俺の名前を呼ぶ奏斗の声が聞こえて、でもその奏斗は隣にいなかった。
金属が地面と擦れるような高く大きい音。
そのあと目に入ったのは、血まみれになって倒れている奏斗だった。
その後のことは、よく覚えていない。
地面に放り出された鞄と、アングレカムの花弁。
どこか着いた時に聞こえた一定なリズムの心電図。
最後に残ったのは、背中に残る暖かい手の感覚。
これが、最後に過ごした奏斗との夏の話。
あまり好きじゃなかった煙草の箱を手のひらに置き、暫く見つめる。
奏斗が死んでから、今日で2年もの月日が経つ。
彼の葬儀は親戚の人達の予定が押して運も悪く俺の誕生日になった、これも何かの運命だったのか。
いつも遅刻する俺の為に、彼が10分遅らせて部屋にかけた時計。
彼は隠していたけど、本当はすぐに分かっていた。
あの時に買ったキーチャームは、予想通り全く感情移入ができない。
絶対イルカの方がいいって言ったのに、これも全部奏斗のせいだ。
もしここに奏斗がいたら、僕達の印だなんて言って単細胞の俺はまた納得させられてしまうだろう。
あの日叶えられなかった言葉。君にはもう一生言えないけれど、俺はずっとそれを願ってしまうから。
もう、いくら名前を呼んだって返事はない
なぁ奏斗
君が好きだよ
いくら経ったってずっと君が好きだ。
煙草を一本箱から出して、そっと口付ける。
月へと広がる煙と灰の匂いは、どれももう居ない彼の姿を連想させた。
「………にっがw」
奏斗はいつもこんなものを吸っていたのか。
…本当はずっと、なんにも分かっとらんかったんやね。
…これは、俺なりのけじめ。
もう片方の手に握りしめたキーチャームを、ベランダから見える川へと思い切り放り投げた。
滲む視界を拭い、もう一度煙を吸う。
もう空気が凍てつき人肌が恋しくなる季節、煙草を持つ指先がじんわりと熱い。
最後にもう一つだけ、彼に花を贈ることにした。
煙を目で追ってからふと棚を見ると、そこには彼がいつも着けていた時計の横に、ウィンタービデンスの花が添えられていた。
アングレカム …いつまでもあなたと一緒に
ビデンス …もう一度愛します
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