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第3章 反撃
東三局 親 ララア ドラ⑦筒 シャア36000 アムロ15000 差21000
シャアは、ララアからの立直棒を計画通り受け取り、アムロとの差を21000点に広げ、勝利を確信していた。セイラは、諦めたかのようにアムロに声もかけず、じっと牌を見つめ、時折何かを呟いていた。その姿にアムロは、次第に失意から怒りへと感情が変わり、アドレナリンが全身に流れる。
(僕一人でも戦ってやる。透視を使えば、まだ戦える)
シャアは、点数差があるためアムロに12000点以上の直接放銃がなければ勝利が確定する。
しかし彼は、攻撃こそが最大の防御という考えで過酷な戦場を生き残ってきた経験があり、性格的にも以降の勝負を全部降りるという選択肢はなかった。
また、アムロのニュータイプとしての底知れぬ能力が、勝負に影響をもたらすことを恐れ、初めてアムロと交戦した時のような苦い経験を繰り返さないよう、慎重かつ大胆にアムロの息の根を完全に止める策を練っていた。
一方、ララアの取る戦法は、放銃を避けつつシャアに有効牌を提供することであった。
この局のアムロへの配牌は、決して良くはなかったが、シャアの手牌と上山牌の透視で、効率的に有効牌を集める事が出来た。
だが、ララアの手牌に対する透視は、先の失敗を繰り返さないためにも封印せざるを得なかった。
アムロは、助力を得るために透視能力のことをセイラに伝えようかと迷ったが、透視できることをシャアに察知されかねないと思い直した。
シャアは、アムロの河に多くの中張牌が並んでゆくのを見て、一発逆転の国士無双を警戒した。
アムロはシャアの手牌を透視し、シャアが国士無双を警戒して持っている、既に河に2枚も流れている「白」を見つけた。
さらに運良く自摸順が近い上山に「白」があることを透視できた。
六巡目、アムロは上山の「白」を自分の自摸順にするためにセイラが捨てた牌を鳴く。
「一萬ポン」
忽ち聴牌となり、次の自摸順で「白」を上山から自分の手牌に組み込み、「白」の単騎待ちとした。
セイラは、チラリとアムロの手牌を見たが、関心無さそうに山牌に視線を移した。
シャアは、恐れていた一発逆転の役が無くなったことに、ほくそ笑んだ。
(国士をあきらめたのか。ふ、トイトイとは素人臭いな。であればシャンポン待ちだろうし「白」は安全牌として使える。)
シャアはアムロへの振込みを警戒していたが、一向聴となりアムロが素人好みのトイトイを作っているものと読んで、⑦筒のドラを暗刻とし、アムロに止めを差す事にした。
21000点差ではシャアに追いつけないと判断したアムロは、少しでも点差を詰めるためにシャアに動きを察知されることを厭わず、セイラに思念を送った。
『セイラさん、立直をかけてください』
セイラは、はっとしてアムロの顔を伺ったが、アムロの手牌を一瞥した後、空聴立直をかけた。
シャアは、セイラとアムロの間で何かの意思を交わしたことに気付き、その意図を推理した。
(ずっと勝負に加わって来なかったアルテイシアが、ここで立直とは一体どういうつもりで…そうか読めたぞ)
シャアは、セイラの立直棒をアムロに渡すための空聴立直を看破した。
セイラの和了牌を意識する必要が無くなったシャアは、アムロの手牌のみに意識を集中することが出来た。
アムロは、淡々と自摸牌切りをする。
次巡で、聴牌をしたシャアが、タンヤオの闇聴を選択して、河に2枚切れの「白」を切る。
「油断したな、シャア」
罠にかかった獲物にアムロが牌を開く。
「チャンタ北の4000点だ」
安全牌を狙われた悔しさで思わずシャアが呻く。
「この程度で私に勝てると思うな 」
「負け惜しみを・・・シャア、貴様の考えなどお見通しだ」
「私の考えが読まれている?戯言はよせ。ニュータイプは万能ではない」
自分の愚かな言動に動揺したアムロの態度に気付いたシャアは、自らの言葉を否定した。
(奴が、新しい能力を手にしたとすれば・・・ありえんことではない。まるで私の考えが見透かされているようだ。イカサマでもしているのか?)
戦場においても常に冷静に物事を考えるシャアであったが、解けない謎に苛つき、卓の中央に空いた投入口に荒々しく牌を投げ込んだ。
オーラス ドラ四萬 シャア 32000 アムロ 20000 差 12000
アムロの計略にまんまと嵌ったシャアは、卓からせり上ってきた配牌を見て、まだ自分の運が尽きていないことに安堵した。ドラの四萬が対子になっている。ララアが不安そうな視線を投げかけてきたが、シャアは彼女に安心するよう語りかけた。
「ララア、私を誰だと思っているのだ? 」
セイラは、先程からララアがアムロの視線を遮るように腕で胸を隠し、身をよじる姿を見て蒼穹の瞳を見開いた。セイラに怪訝な表情が浮かび上がる。
(何をしているの?)
前局での二人の不審な動きが脳裏に浮かぶ。セイラの鋭い勘は、この二人の間に何があったのかを突き止め、成程ねと心の奥底で呟いた。
前局での失敗の原因をアムロのイカサマであると踏んだシャアは、それを見破ろうとアムロの手元を注視すると突然、目の前がちらつき、アムロの手牌が見えたような気がした。
(今のは何だ?)
興奮したシャアが再度アムロの手牌に意識を集中すると、ぼんやりと牌が透け始めた。
(見える、私にも牌が見えるぞ!)
新しい能力の覚醒にシャアは歓喜に震えたが、その時、自分に向けられるアムロの鋭い視線を感じ取った。反射的にアムロを見たシャアの目に映ったのは、彼の服が透けている姿だった。その瞬間、アムロの全身にぞくりとした感覚が走る。まるで誰かに裸を覗かれているような不快感だ。
(なんだこの感じは…)
アムロは、ララアを見た時に彼女が感じたであろう何かを、今やっと理解した。
(シャアに視られた!?)
アムロは、シャアが自分と同じ能力を得たことに気づき、その事実がもたらす脅威に胸がざわついた。
(面倒なことになったな…)
シャアがニュータイプとして対等の透視能力を得たことを知り、その存在がこれまで以上に恐ろしく感じられた。
一方、シャアは能力を得た喜びと同時にアムロにララアの裸を見られたことに気付いて憤慨するという複雑な感情が胸中に渦巻き、心に闇がじわりと湧き上がってくる。彼は覚醒した能力をアムロに気取られないよう振舞った。
透視能力を得たシャアへの対策を考えたアムロは、その問題点を利用することにした。アムロは自分の手牌を前に積んである牌山にくっつけた。
「こう近ければ透視は無理だな、シャア」
シャアは悔しさに舌打ちをした。
「このままでは終わらん!」
アムロの前には、無機質に積まれた牌山が静かにそびえていた。あの一瞬、アムロの手牌を透視できた時の興奮が蘇る。しかし、その興奮のせいで、彼の手牌をはっきりと読み取れなかったことが今さら悔やまれる。牌山が減っていくたびに、徐々にアムロの手牌が明らかになるはずだが、それは終盤に差し掛かるころだ。シャアは自らを奮い立たせるためにもアムロに挑戦的な言葉を叩きつけた。
「ニュータイプ能力が雀力の決定的な要素ではないことを、教えてやる…!」
アムロは、背中を逸らせてシャアをせせら笑った。
「皮肉ですか」
前局の和了でアムロには強運が巡ってきていた。配牌に風牌が3組も対子で揃っており、残りの風牌も1個あった。アムロにはそれが勝利の女神の微笑みにも思えた。
アムロは一巡目にシャアが切った自風の「西」を鳴くことに成功した。
セイラは、東一局のアムロの失敗を思い出し彼の手牌をちらりと見るが、そのまま固く口を結んだ。
一方、シャアにも浮気な女神が微笑みかけていた。対子になっていたドラの四萬をララアが自模ってきたのだ。ララアの小指の符牒を受けて、それを要求してポンした。タンヤオドラ3の8000点が見える手で、罠が成功して有頂天になっているアムロに吠え面をかかせてやれる。先程の屈辱を晴らすためにも安上りなどせず、また、今後を見据えて、精神的優位を確立しなければならなかった。
3巡目、アムロはララアが捨てた他風の「北」鳴き、「發」を切った。
シャアはアムロがホンイツかチャンタ狙いと推測した。自分がドラを3枚持っている以上、6000点が限界で到底追いつくことはできない。シャアはアムロが本当に点数計算も出来ない初心者なのかと訝ったが、今までの戦いで彼の麻雀知識の低さが際立っていた。万一、アムロに放銃したとしても逆転されることなどあり得なかった。
セイラは、卓上に広がる牌に目を細めた。兄のシャアが聴牌に近いと感じ、少しでも兄の自摸の機会を減らさねばならない。その為には、ララアの捨て牌を出来る限り鳴く必要がある。無論、それにより自身の守備力は大きく落ちるが、兄やララアが自分から和了する可能性は低いと判断した。
(兄さんのプライドの高さと、私を大切に思う気持ちが、きっと勝負の鍵になる…)
セイラは小さく息を吐き、再び牌に意識を戻した。シャアが勝負の結末の責任を妹に負わせることなどありえない。これが、セイラが見抜いたシャアの致命的な弱点だったのだ。
第4章 決着
セイラはララアの捨牌を見た瞬間、歓喜の色が瞳に宿った。「旨い!」と心の中で叫ぶと、すかさずカンを宣言し、シャアの自摸を阻止する。しかも、彼女の思惑通りカンドラが4枚も乗ったのだ。
(しまった!王牌のことを失念していた…。)
シャアの心には焦りが走った。しかし彼は、冷静さを装いながら嘯く。
「当たらなければどうということはない。」
シャアは内心の動揺を隠すかのように、自分に言い訳を始める。
(これは、私の自摸を飛ばすための鳴きだ。偶然ドラになっただけだ。)
シャアは胸中で葛藤した。セイラの胸の前にある手牌を透視するべきかどうか。道徳と能力の狭間で心が揺れ動く。
セイラはシャアの視線を妨害するように、短くなった手牌の上に胸を突き出した。
シャアは息を呑んだ。
(アルテイシアにも透視の欠点が気付かれていたのか?)
彼の心の中で葛藤が渦巻いた。厳格な兄として妹に接してきたシャアのプライドが、今、試されていた。
妹の視線が鋭く兄を貫く。その瞳には、かつてシャアが偶然遭遇した妹の入浴シーンを思い起こさせる羞恥と軽蔑の光が宿っていた。
(迂闊なことをすると、セイラだけでなくララアの信頼をも失いかねない…。)
彼女の「女の武器」により、シャアはセイラに対する透視能力を完全に封じられてしまった。
だが、山牌に聴牌となる牌を見透したシャアは、ララアに指示して捨て牌を鳴かせ、自分の自摸にすることに成功した。
あとは、萬子以外の中張牌を切っておけばアムロからの直撃は避けられ、流れ場になっても、これ程不利な状況にならずに1本場で仕切りなおすことが出来る。シャアが意図的にノーテンにして勝負を決することもできるが、どうしても自分の手でアムロの息の根を止めたかった。
一方、アムロは透視能力を駆使し、東と南を暗刻にすることが出来た。
つまり、東東東南南南西西西北北北③を揃え、大四喜の32000点を聴牌できていたのである。これならララアから和了しても逆転できる。さらにアムロはシャアの聴牌を透視しており、単騎待ちの牌を変化させるだけで彼への放銃を回避できるのだ。
圧倒的に不利な状況のシャアであったが、九巡目の自摸牌で勝利を確信した。
透視した嶺上牌がシャアの和了牌なのだ。
完全に勝負を決する牌を手にしたシャアは、不敵に笑い宣言する。
「四萬カンだ」
ニュータイプ能力で危険を感じたララアは、シャアを制止した。
「大佐!いけません!」
シャアは、その時、最も危険な刺客の存在を忘れていた。
シャアの隣で手牌が倒れる。
「うん?アルテイシアか!」
「兄さん、もう遅いですよ。チャンカン、タンヤオ、ドラ4 12000」
シャアは思わず溜息をついた。
「私もよくよく運のない男だな。アルテイシアまで透視能力を覚醒させていたとは」
セイラに振り込んだシャアの持ち点数は20000点となり、アムロと同点でサシウマ戦は引き分けとなった。
エピローグ
シャアが尋ねた。
「アルテイシアは、どこで麻雀を覚えたんだ?」
「ホワイトベースでカイとハヤトがコンビ打ちでアムロからお金を巻き上げているを見ていたから。ルールは簡単だし見ているだけで覚えたわ」と思う通りの結果となったセイラは満足げに答えた。
「カイさん、僕にそんなことをしていたのか。ハヤトまで…」
アムロは親友と思っていた仲間に裏切られていたことに激しい怒りを覚え、震えながら呟いた。セイラは少ない給料を奪われているアムロをフラウ・ボウが嘆く言葉を思い出した。『馬鹿なアムロ…』
シャアはアムロに同情の眼差しを向けながらも、セイラに向き直り尋ねた。
「いつから牌が透けて見えていたんだ?」
セイラは牌を指し、種明かしをした。
「見えてないわ 。この牌は使い古されて、傷だらけでしょ。これで牌の種類が分かったのよ」
シャアは驚きとともに人間離れした妹の記憶力に感心した。
「ガンパイか!全部覚えたのか?」
「時間がなかったから、80%程度ね。残りは、牌の並びと勘でなんとかなったわ」とセイラはさらりと答えた。
シャアはさらに問いただす。
「80%か…、どうやって覚えたんだ」
「簡単よ。星座を覚える要領ね。傷の模様を何かの形に置き換えて名前を付けるだけ。100個くらいなら直ぐに出来るわ」とセイラは事もなげに言った。
シャアは聡明な妹ならではと納得した。
「私にも出来るかな、アルテイシア」
セイラは優しい兄を立てるように答えた。
「兄さんなら100人程度の部下の顔と名前位は造作もなく覚えられるでしょう」
30分程度では無理だなと思いつつ、シャアはヘルメットを被りつぶやいた。
「ここも、かなり空気が薄くなってきたな」
「兄さんはどうするの?」セイラが不安げに尋ねる。
彼の視線は愛しい妹に注がれた。
「麻雀を戦争の道具にするザビ家の人間はやはり許せんとわかった。麻雀でケリを付ける。アルテイシア、良い妻になるのだな。アムロ君が呼んでいる」
「兄さん…何を言っているのか判らないわ。」セイラは困惑しながら言った。
シャアは、出口でヘルメットを抱えて待っているアムロに向かって語りかけた。
「その力、ララアが与えてくれたのかもしれんのだ。ありがたく思うのだな」
ぶっきらぼうに答えるアムロ。
「そんなこと関係ないよ、死にたくないからやっていただけさ。それよりカイとハヤトにこれで借りを返してやれる」と拳を握り占めた。
アムロは少女に別れの言葉をかける。
「また打てるかい?ララア」
シャアに寄り添う少女は答える。
「アムロとはいつでも遊べるから」
「健闘を祈るよ、アムロ君」とシャアは挙手し、二人に別れを告げた。ララアは小さく手を振りながらシャアに従い、娯楽室を去っていった。
アムロは焦りながらセイラに呼びかけた。
「セイラさん、早くここを出ましょう。ガンダムのコアファイターが使えると思います。」
「あれは1人乗りよ。」
セイラは困惑した表情を浮かべる。
アムロは自信を持って提案した。
「二人羽織で行きましょう。座席を下げればなんとかなります。リュウさんでも乗れたんですから。」
セイラはアムロの提案に微笑み、「ふふ、そうね」と答えた。彼女はリュウがコアファイターの狭いコックピットに無理やり体を押し込む姿を思い出し、顔をほころばせた。
完
何故アバオアクーで麻雀出来るくらいの重力があるのでしょうか。
ガンダムが倒される最後のシーンでガンダムが普通に歩いていたから。
つまりご都合主義でです。