テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ルル
77
7
89
ポスッ――チュドォンッ!!
要塞都市・クロードの最上層防衛デッキ。
夜風が吹き抜ける静寂を切り裂いて、空から降り注いできた「それ」は、俺の仕掛けた【対物重力歪曲地雷】を完璧に踏み抜き、鮮やかな火柱とともに中庭へ激突した。
「……ハッ。転移ゲートから戻って、まだコーヒーを一杯も飲み干してねぇぞ」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、愛用の消音拳銃(サイレンサー)のスライドをカチリと引いた。
「……クロード、迎撃? 風の刃で切り刻む……?」
シエルが風を纏い、無音で俺の隣に並び立つ。その手にはすでに三杯目の苦いコーヒーではなく、鋭利な風の刃が握られていた。
「待て。魔法の波長も、魔界や人間界の兵器の熱源とも違う。……ハンスのデータベースにもない未知の金属反応だ」
煙が巻き上がる中庭のクレーターの中心に落ちていたのは、球体に近い流線型の異様な金属カプセルだった。
セリスの氷結トラップとエレナの電磁障壁、シャーロットの爆縮トラップを何重にも潜り抜け、俺の重力地雷でようやく停止した物体。
「な、何なのよ今の爆発はーっ! また勇者陣営の残党が空から襲撃してきたわけ!?」
セリスが氷の剣を構え、エレナとシャーロットを引き連れて駆け込んでくる。
「……いや、違うな」
俺は消音拳銃の銃口を落とさず、クレーターの底で「ぷしゅー」と高圧ガスを吹き出し始めたカプセルを見下ろした。
ハッチが油圧音とともにゆっくりと開き、中から這い出てきたのは——透き通るような銀色の肌と、発光するいくつもの眼球を持った、明らかにこの世界(魔界・人間界)の生態系から外れた生命体だった。
『ゼ、ゼゼ……ツウヤク機能、起動……。当機ハ、銀河連邦探査第9艦隊所属……不可解ナ空間歪曲(クロードのバズり配信の魔導電波)ニ引き寄せラレ……不時着……』
宇宙外知的生命体。平たく言えば、外宇宙からの異星人だ。
「……おい、アニ。お前の特注配信端末、宇宙にまで電波届いてんじゃねぇか」
俺はポケットの中の端末を撫でながら、心の中で人間の少女の過剰な技術力に毒づいた。アニと最後に行った『魔界皇クロード』のVTuber配信が、まさか大気圏を突き抜けて外宇宙の異星人まで引き寄せていたとは。
「……クロード、撃つ?」
シエルが首をかしげ、静かに問いかけてくる。
「……待て。ミサキ、ハンス。通信解読と回収部隊を回せ」
俺は冷え切った消音拳銃をホルスターに収め、クレーターの底でガタガタと震えている宇宙人(未知の技術の塊)を見下ろして、不敵に口角を上げた。
「……向こうから勝手に転がり込んできた『外宇宙の最新技術(おもちゃ)』だ。……追突事故の賠償金代わりに、我が要塞の第5区画防衛システムへ組み込ませてもらうとしよう」
「またそんな冷酷でドブネズミみたいな計算してるーっ!!」
セリスたちの叫びが響く中、要塞都市・クロードの日常は、ついに世界どころか宇宙規模の騒動へと足を踏み入れていたのだった。
「……で? その『銀河連邦』だか何だかの宇宙人が、うちの中庭に不時着したうえに、第5区画の防壁を一枚無駄に凹ませたわけだ」
俺はクレーターの底で青ざめ(元々銀色だが)、ガタガタと震えている異星人——自称・宇宙探査員のゼゼを見下ろし、冷え切った缶コーヒーを一口あおった。
「ぜ、ゼぜ……! 故意ノ破壊活動デハ……! 突如、高負荷ノ魔導電波(俺とアニのバズり配信)ヲ受信シ、艦載AIガフリーズ……不可抗力ノ不時着デアリ……!」
「理由はどうでもいい。壊れた防衛壁の修繕費と、俺の貴重な睡眠時間を奪った慰謝料だ。……ハンス、こいつの搭乗機から未知の【空間圧縮エンジン】と【フェイズシフト装甲】のデータをすべて抽出・複製しろ。拒否したら、セリスの絶対氷壁でマイナス200度に冷却してから、エレナの放電で内部回路を焼き切る」
「ひっ……! 悪魔……魔王……!」
ゼゼが悲鳴を上げている横で、ミサキが忍装束の裾を揺らしながら、物陰からぬっと姿を現した。手にはちゃっかりゼゼの宇宙船から回収した未知の魔導通信デバイスを握っている。
「ふふ、クロードサマ。この宇宙船の通信ログ、なかなか面白いことが書いてありますわよ。……『魔界皇クロードのVTuber配信、全銀河の裏ネットで同時視聴者数第1位を獲得』……ですって」
「……ハッ。もう全銀河規模で俺の黒歴史が拡散されてるってことか。冗談じゃねぇぞ」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、額を押さえて深々と不快な溜息を吐き出した。
そこへ、騒ぎを聞きつけたセリス、エレナ、シャーロットの三人が一斉にクレーターへ駆け込んできた。
「ちょっとクロード! 宇宙人って本当!? また変なトラブル連れてきたんじゃないでしょうね!」
セリスが氷の剣を構えつつ、好奇心と警戒心が半々の目でゼゼをジロジロと見回す。
「宇宙の技術……? ねぇクロード! こいつの船の動力をアタシの雷撃で直結したら、要塞の電磁砲の射程が月まで届くようになったりしない!?」
エレナはすでに宇宙船の配線に紫電をパチパチと近づけており、ゼゼが「ヤメテ! 爆発スル!」と裏返った声を上げた。
「宇宙人の船って爆発するの!? 私の『分子連鎖・真空爆縮』とどっちが凄く爆発するか試してみたいーっ!」
両手に爆縮の火花を散らして目を輝かせるシャーロット。
「おい、待てお前ら。実験材料にするな。……ミサキ、ハンスと連携してゼゼの船の解析を進めろ。使える技術は全部この要塞の第5区画に組み込む。ついでに、アニがくれた配信端末の『全銀河通信フィルター』を強化して、二度と宇宙船を引き寄せないように設定し直せ」
「了解いたしました、魔王サマ。……ふふ、宇宙技術で強化された忍びの罠、楽しみですわ」
ミサキが妖艶に微笑み、ゼゼの首根っこを掴んで地下研究所へと引きずっていく。
「ゼぜぇぇぇ……っ! 人権ノ保障ヲ……!」
宇宙人の哀れな悲鳴が地下へ消えていくのを横目に、俺は消音拳銃のメンテナンスチェックを終えてホルスターに収めた。
「……たく。人間界の次は宇宙人か。どいつもこいつも、俺に静かにコーヒーを飲ませる気がないらしい」
「自業自得でしょバカクロード! アンタが配信でノリノリで『魔界皇』なんて名乗るからこんなことになるのよ!」
セリスが呆れたように唇を尖らせる。
「でもさ、全銀河で人気ナンバーワンなんでしょ? アタシたちのクロードが宇宙規模で認められたって思えば、悪くないじゃない!」
「そうよ! 次は宇宙のファンに向けて爆発的に美味しいお菓子を作るわねーっ!」
「……やめろ。二度と配信なんてするか」
騒々しく喧嘩を始めるヒロインたち。隣ではシエルが黙って新しい温かいコーヒーを淹れて差し出してくる。
(……はぁ。要塞化しても、宇宙人が降ってきても……この城の騒々しさだけは変わらないな)
俺は苦いコーヒーを喉に流し込み、外宇宙の技術を取り入れてさらに鉄壁になっていく我が要塞を見上げながら、どこか呆れ混じりの不敵な笑みを浮かべたのだった。
コメント
1件
読み終わりました!宇宙人登場って、もう本当に何でもありなんだなって笑っちゃいました。でも、クロードが「追突事故の賠償金代わりに防衛システムに組み込む」って言い放つところ、完全に彼のスタイルで大好きです。ヒロインたちが「実験材料にするな!」って騒ぐのも、シエルが静かにコーヒー差し出すのも、チームの空気感が伝わってきてほっこりしました。次は本当に宇宙規模の騒動になるんですかね…楽しみです🌷