【閲覧注意⚠︎】
この小説はnmmnです。
nmmnが苦手な方やタグの意味が分からない方は一度ご確認の上、再度閲覧をするかのご検討をお願いします。
又、
この小説は作者の妄想・フィクションです。
ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
閲覧は自己責任です。
※その他流血表現有り
今一度ご確認の上、ご理解ご了承頂ける方のみ本文へお進みください🙌
ご確認ありがとうございます!!!
それではどうぞ〜🫶✨
🏺『』その他「」 無線「”○○○”」
目が覚めると、いつもとは違う場所にいる事が稀にある。
その場所は結構まちまちで、道路の真ん中やとんでもなく高い山、そしてさざ波がよく聞こえる浜辺など、とにかく場所や環境を問わずいつの間にか辺鄙《へんぴ》な場所に一人突っ立っている時があるのだ。
『ん、…んぅ…、、………゙あ?』
今日は小川の中で目が覚めた。
『…だぁー…、またかぁ』
首から下が透き通るほど綺麗で穏やかな川の水に浸りきっている。
雨でも降ったら水かさが増して溺死してしまうのではないかと思うほどにはギリギリのラインで眠りこけてしまっていたらしい。
水分の吸い込みすぎで若干重くなったアロハシャツと短パン、以下諸々はもう諦めるとして、早く本署に帰らなければ風邪をひく。
『っ、くしゅッ、』
馬鹿は風邪を引かないとよく言うが、俺は馬鹿じゃないので普通に風邪をひきかけている。
『゙あーくそ。てかどこだ此処…』
マップを開いて現在の地点を調べれば、意外と本署とは遠からずの場所らしい。
スタッシュからスケボーを取り出しカラカラと前進する。
本署に到着しびしょびしょなその服をギュッと駐車場で絞っていれば、ひと仕事終えて帰ってきたのか、ジャグラーが駐車場にパッと収まりその代わりに成瀬が現れた。
「お疲れ様です〜、って、なんすかそれ」
『あぁ。ちょっと川にな』
「え、なんで?」
犬のように全方面へと水気を飛ばすつぼ浦と、その様子を一歩後ろに下がって見届ける成瀬。
『ふぅ。知らん。いつの間にか川に居た』
「いやそんな訳ないでしょ(笑)」
また突拍子も無いことを言ってるなぁこの人(笑)と楽しげに笑みを浮かべながら、スタッシュを漁って温かいスープを手渡す。
『おっ。いいのか?』
「どうぞどうぞ(笑)、らびすぴのやつです」
ピンクのお鍋にコトコトとちょうど良い温かさが垣間見えるその食べ物は、みるみるうちにつぼ浦の冷えた身体を解していく。
一滴残さず全てを胃に収めれば、パシンッと合掌して“ごちそうさま”と口にした。
『助かった。お前良い奴だな』
「んふふー、そうでしょうそうでしょう」
気分が良くなった成瀬は本署へと足を向け、軽く手を振ってからそそくさと次の事件対応へと向かって行ってしまう。
休憩がてらに仮眠をしていたはずなのに、随分と深い眠りについていたらしい。
『よし。俺も行くか』
トランシーバーに再度コードを入力しすぐさま状況を把握する。
今日もこの街は楽しげで忙しない様子だった。
それから目まぐるしくそれはもうぐるぐると忙しさに身を呈《てい》し、ちょうど二回ほど日が昇っては沈んでを繰り返したのを合図とでも言うかのように、また目が覚めると別の場所に居た。
『………なんだァ?、てめぇ…』
「いやお前が何だ?」
何人もの人が自分を上から見下げてワラワラと鳥のように集まって来る。
『…動物園か?』
「殺すぞ」
物騒な言葉を直ぐに使うところを見ると、どうやら白市民では無いらしい。
陽の光の逆光に当てられて目を細めれば、だんだんとその人物たちの顔ぶれが分かってきた。
『゙ん、…ん、あ?、お前…、ワクワクおじさんじゃねぇか』
カチャリとコッキングする音が響いたので仕方なくのそりと上半身を起こして辺りを見渡す。
綺麗に磨かれたタイルとキラキラと水面が乱反射するどデカいプール。
そして極めつけには自分の服がびっしゃびしゃ。
今回は頭からつま先までずぶ濡れで、タイルはひたひたと水分を吸収しきれずに困っている。
「お前マジで何してんだ?」
『何がだ?、てかお前キミトスか』
「おう。さっきぶりだな」
最近はあまりの忙しさに大型への応援要請も特殊刑事課にまわり、たまにではあるが自分も大型の対応へと出る時があった。
それが今日なのだが、たまたま先ほど逮捕したMOZUのキミトスと堕夜が何故だか神妙な面持ちで自分を見下ろしてくるので小首を傾げて再度口を開く。
『それで?、ここはどこだ。誘拐拉致監禁罪か?』
「いやお前が勝手にアジトへ侵入してきたんだよ。罪に問われるのはお前な?」
『そうなのか。それはすまん』
本当に先ほどまでの行動が頭からすっぽ抜けているらしく、つぼ浦は素直に謝り立ち上がる。
多少ふらついた足で重心を整えれば、自分の体力ゲージが格段に減っている事が分かったのか、急いでグルグルと包帯を巻き出した。
『どうなってんだ。俺めっちゃ打たれてんじゃねぇか』
「嘘言うな。一発だけだろ」
しかも致命傷からは程遠い、身体の一部に弾が一発かすった程度だ。
「俺たちがプールで遊んでたらお前がいきなり現れたから、威嚇射撃をしたんだよ」
『俺が?』
「あぁ。そしたらお前騒ぐでもなくプールサイドまで歩いてきて、そのまま水中にドボンだ」
そのうち上がってくるだろうと思い暫《しばら》く待てど、そのままぶくぶくと泡が水面に溢れ出てきて更に身体は沈んで行く一方で、驚いた堕夜が急いで引き上げてキミトスと共に水を吐き出させてくれたとか何とか。
つぼ浦はぽかーんとした表情をしてからとりあえず礼を述べる。
『なんかよく分かんねぇけど助かったみてぇだな。ありがとよ』
よく見れば二人も若干湿っているし、ヴァンダーマーは眉間にシワを寄せているしで結構なカオスだ。
後から屋上に上がってきたレイラ・キャンベルがタオルを片手に近寄れば、つぼ浦はそれを受け取り顔をガシガシと拭う。
髪もボサボサ、服もびしゃびしゃ、さっきまで本当に溺死しかけていたそんな男が意気揚々と“今日はあったけぇな〜”と陽の光に目を細めるもんだから、拍子抜けしてしまう。
「はぁ…、一応お前の保護者にも連絡を入れておいたから、もうすぐ迎えが来る筈だ」
『アオセンか?』
「あぁそうだ」
クルッとヴァンダーマーの方を向いて確信的な言葉を得たつぼ浦は、くつくつと嬉しそうに喉を鳴らしてタオルを首にかける。
そしていつかの日のように全身から水分を弾き出そうと動き回り喧嘩が勃発したのは言うまでもない。
俺のマイブームはどうやら放浪らしい。
眠っては起きて位置を確認、本署に戻るという事を繰り返す回数が多くなってきた頃にやっと気がついた。
自分ではいつも通り本署の一角、あの少し固めなソファで寝落ちしていたはずなのに、目を覚ませば毎度の有様だ。
『゙ん、ん…゙ぁ…、』
最近毎日のようにどこか別の場所へ移動してしまっているらしいこの体は、今日もどうせどっか別の場所にいるんだろうなと頭の片隅で悟りながらも、うつらうつらと目を開ける。
しかし、今日はどうやら様子が違った。
『⋯…゙ぅ⋯…゙あ?、』
脳がぐつぐつと覚醒し始めた時に感じたのは、口内に広がるひんやりとした異物感。
視線を落としその異物感の正体をちらりと見れば、何故か見覚えのない拳銃を自分で口元に押し込んでいる。
溢れる唾液を飲み込み、その拳銃をゆっくりと引き抜けば…指がトリガーにしっかりと引っかかっていて、という事は今すぐにでも脳が爆ぜる寸前だったという事にもなりかねない。
『……んだこれ…、』
唖然とした脳内でただその拳銃を見つめて目を瞬かせること数秒。
「お前、何してる?」
いつの間にか直ぐ近くで立ち尽くしていたらしい青井がつぼ浦の手首を拳銃ごとひっ掴んで上に上げる。
『…いや、ちょっと、分かんねぇっす』
「…分かんなくは、ないでしょ」
しばらくの沈黙が続いた後、すぐさま立ち上がろうと先に行動したのはつぼ浦だった。
『゙いッだッ、強いっ、強い強い強いッ、タンマっ!』
ソファに羽交い締めにして完璧に両腕を片手で縛り上げる。
『意味分かんねぇって!』
「いや分かんないのはこっちだし」
顎をわしずかみ無理やり視線を合わせれば、つぼ浦は観念したのか身体の力をズルズルと抜いた。
「…それで?、今のなに」
『や、本当に分かんないんですって、これマジで嘘じゃないから、』
「じゃあ何?無意識でやったって事?」
コクコクと頷くつぼ浦の瞳を見つめながら、それはそれで問題だなと青井はため息を漏らす。
「はぁ〜……あんまり驚かせないでくれる?」
『俺の方が驚いているが?!』
どうやら本気で無自覚だったらしいつぼ浦は拘束から開放された手をブラブラとしながら声を張る。
『今日はじめてこんな事になったし!、なんなら銃もいつ持ってきたか知らん!』
「あーあー分かった。一旦落ち着きな」
取り上げた銃にハンカチを巻いてスタッシュへとしまい込む。
「じぁもう平気なんだね?」
『俺は元気だ』
「…自殺とかじゃ、ないね?」
『ない』
キッパリと言い切ったその言葉に内心ほっと胸を撫で下ろしてからもう一度その表情を見れば、やはりいつもと変わらない様子のつぼ浦がそこには居た。
その瞬間ピコンッ!とフリーカ銀行強盗の通知が瞬足で通達される。
さっきの驚きようとは打って変わって、つぼ浦は真面目な表情でその場をせかせかと後にした。
「……、ふぅ…全く…」
心配げな先輩をその場に残し、街へと繰《く》り出す。
それもまぁつぼ浦らしいと言えばつぼ浦らしかった。
ポタリポタリと血なまぐさい鉄の匂いが鼻をかすめる。
いつもと変わらぬ定位置で、いつもとは違う首元の違和感に目が覚めた。
床に首をもたげているその独特な格好はともかく、水溜まりの地面を滴り続けているこの血は一体どこから溢れ出ているのか。
それに気がついた瞬間、喉元から変に嫌な空気が漏れた。
『けほけほッ、っは、はッ、はッ、』
咄嗟《とっさ》の判断で自身の首の横を手のひらで抑えれば、床に滴っていたそれも蛇口が閉められたかのように止まる。
足元をもう一度眺めればまだサラサラとした液体で、本当にいまさっき首筋に線が入ったのだろうと推測できる。
『はぁ…、はぁ…、っ…、どうなってんだ…、』
左手は首筋に、右手は血塗られたナイフを手にしていた。
一昨日といい今日といい、さすがにもう許容できない事態が自分の身に降り掛かっているのかも知れないと、こんな状況の中でも冷静に考える。
『…えっとー…、包帯巻いて、床拭いて…、それから、』
熱に侵《おか》されたかのような後頭部のじんわりとした頭の痛みに視界が霞《かす》む。
まるでドラッグを飲み込んだ後の様なぐわりとした脳の揺れだ。
左手から腕、肘に伝ってまた床を汚し始めた首筋をしっかりと抑えようとしても、力が上手く指先に伝わらず身体が震えた。
『誰かに…、連絡…』
したとて誰か来てくれるのだろうか。
とりあえずナイフをソファに置いてトランシーバーを懐《ふところ》から取り出す。
番号を打って接続をして、カチッと無線をオンにした。
『“……ぁ…、誰か、時間があれば…来て欲しい”』
それだけを言い残し、直ぐにトランシーバーが指から滑り落ちる。
元々手にはヌルりと血が付着していた。
浅い呼吸を何度か慎重に繰り返して意識を保つ。
これで誰か来てくれれば窮地《きゅうち》に 一生を得たと言ったところになるのだが。
『すぅ…はぁ…、すぅ…はぁ…、』
体力ゲージは少しずつだが確実に削れている。
それより何より自分で切ったであろう傷がこんなにも痛いとは思わなかった。
犯罪者と対峙している時はアドレナリンがドバドバと溢れ出ていて、打たれても切られても爆散しても痛みをものともしないというのに。
『いってぇなぁ…すぅ…はぁ…、…お。来たか…』
ドタドタと誰かがまばらにこちらへ向かってくるのが分かる。
「つぼつぼッ!」
「大丈夫かっッ、?!、」
目が合った二人は同じような驚きの表情を浮かべて言葉を飲み込む。
『あぁ…すみません署長、キャップも、…ちょっと、…包帯巻いてもらっても、いいですか、』
スタッシュの一番上から包帯を取り出せば、それはもう既に赤くなっていて使い物にはならないと瞬時に分かる。
『…あれ、これ最後の手持ちだったんすけど…、ちょっと、在庫取りに…、』
「動くんじゃない」
『ぇ?、』
「私が持っているから平気だ。そこで安静にしていなさい。署長、救急隊に連絡を」
「あぁ」
テキパキと動き始めたキャップとバウアーに流石だなと笑みを浮かべる。
クルクルと巻かれるその包帯は少しだけ荒かった。
「……これは、自分でやったのか?」
『…あー、そう、らしいっすね…』
恐らくナイフの指紋や痕跡を調べても誰かにやられたという証拠は出てこないだろう。
そもそも本署内で起きた出来事だ。
誰かが企てても実行に移せるはずがない。
『……俺、迷惑とか、かけたい訳じゃ、なくて…』
「あぁ。分かっているさ。気にする事はない」
“包帯を巻くなんて日常茶飯事だろ?”と小さな含み笑いをわざと付けて安心させてくれるその大きな背中が、温かい手が、声が、全てが脆《もろ》い心を優しく撫でる。
『…すまねぇな、キャップ』
「こういう時はありがとうだ」
『…、あぁ。ありがとう、キャップ』
「うむ。100点だ」
ふと見た窓辺、灰色の空の雲行きは怪しかった。
『待たんかいゴラァーッ!!』
「待つわけねぇだろバカーッ!」
緊迫《きんぱく》とした言葉が飛び交うものの、実際にチェイスをしているその乗り物はスイスイ〜っと緩い風を切るスポーツバイクである。
軽い身のこなしで逃げていく犯人は捕まえられる訳がないと楽しそうに走っているが、侮《あなど》るなかれ。
つぼ浦はピーナッツカー然り、自転車然り、変な乗り物においてのチェイスがものすごく得意だった。
犯人が隙を見せたその一瞬でドンッとアタックという名の体当たりをして難なく手錠を引っ掛ける。
『逮捕〜ッ!』
「くっそーッ!!」
負けたのにケラケラと笑って楽しそうなその様子につぼ浦も満面の笑みを浮かべる。
牢屋へとぶち込み世間話をし、だらだらと切符を切ってから刑務所へと転送する。
「じゃあな〜(笑)」
『おう!、もうすんなよ!』
「絶対する〜」
そんな穏やかな会話を終えて無人になった牢屋の鍵を閉めれば、途端にグラリと眠気が襲った。
『゙っ、あっぶねー』
頭をブンッと強めに揺らして脳を活性化させる。
その一部始終を見ていたハクナツメが比較的スペースの小さい牢屋の中から声をかけた。
「おいつぼ浦」
『゙あ?、ハクナツメじゃねぇか』
ダウン状態のその男を見下ろしながら、牢屋の鉄格子を隔《へだ》てて会話に花を咲かせる。
『最近は何やってんだ?』
「悪いことしてるよ〜(笑)、そっちは?」
『いい事してるに決まってるだろ』
つぼ浦は心做しか声に覇気がなく、それでも声量は随分とデカいので周囲にはあまり気が付かれないのだろう。
「ねぇつぼ浦?」
『おうなんだ』
「なんかさぁ、元気なさげだね」
『はぁ?俺はいつだって元気だが?』
しゃがみ込んできたその瞳をじーっと観察すれば、やはりサングラスで隠れているものの瞬きがとてつもなく多い。
「…サングラスかけてるからかなぁ。顔色がよく分からん」
“見せてくれる?”と伝えてみるものの、つぼ浦が首を縦に振ることはない。
『俺の顔面はトップシークレットだ』
「じゃあサイコロで勝負しよ」
救急隊が忙しくなかなか手が回らないこの状況で、他の警察はさておきこの男(つぼ浦)が悪人(ナツメ)を一人きりにさせる筈がない。
『…仕方ねぇな。乗ってやるよ』
ダイスは一つ。
シンプルに出目が多い人の勝ち。
勝ったら相手の言うことを一つ聞く。
暇つぶし程度のサイコロを振った結果…、 つぼ浦が5、ハクナツメが6で接戦を極めたのちに後者が勝った。
『くそっ。やるじゃねぇか。いくら欲しいんだ?』
「お金は要らないよ。サングラス取って」
出しかけていたスマホをぎゅっと握り返してから渋々といった様子で一度立ち上がり、狭い牢屋の中へと足を踏み入れる敗者。
ズリズリとナツメの両足を引きずってこれでもかと牢屋の奥に押し込めば、つぼ浦はゆっくりとしゃがみ込んでその分厚いサングラスを外した。
「…あのさ」
『んだよ』
「お前寝てる?」
『寝てねぇな』
彫りの深いクマと青白いその面《ツラ》、目が余程乾くのか何度も瞬きを繰り返す。
「なんかあった?」
『色々と』
「話してみ?」
『断る』
壁に背をもたれかけて、ただひたすらにナツメを見つめるつぼ浦はもはや脊髄反射で話しているのかと疑いたくなる程だ。
「つぼ浦?」
『あ?、あぁ。んだよ』
「……なんかあった?」
ゆっくりとそう問いかければ、つぼ浦はきゅっと口を噤んでから小さく息を吐く。
『……、…眠れねぇんだ』
「…どうして?」
『…眠ったら、勝手に身体が動き出す』
その言葉は少しの戸惑いが声に混じり、眠れないと言うよりかは”眠りたくない”と自分に我慢を敷いているようだった。
「怖いの?」
『怖くはねぇ。ただ、周りに迷惑をかけたくないってだけだ』
「そっか…」
ハクナツメは知っている。
つぼ浦は昔からそういう奴だった。
妙に空気が読めて、察しがよくて、気を使って、大半は大雑把な言動を繰り返して反感を食らうが…その塩梅《あんばい》をよく見極めて生きている事も仲が深まれば直ぐに分かる。
「んー。じゃあちょっと寝れば?」
『俺の話聞いてたか?』
「聞いてたよ。だから提案してるの」
”意味がわからねぇな”と顔に出ているその表情に笑み浮かべて言葉を続ける。
「俺と手錠繋いで眠れば動けなくない?」
『それは、そうだが…』
「救急隊もしばらく来なさそうだし、俺の銃は押収済みだし、余程の事が無い限り無意識でここから去れないでしょ」
『そうか?』
「そうだよ。なんなら手でも握っといてやろうか?」
冗談交じりにそう言った筈が、目を見開いてもう一度小さく“本当にか?”と聞き返されてこちらも目を見開く。
「、…本当に。、、ほら、早く繋ぎな」
つぼ浦の右手首にはカチャリと枷がはめられ、そのままハクナツメの腕にも鉛が音を立てて繋がる。
サングラスを掛け直して、重い腰を床に付けて、つぼ浦はそのままハクナツメの手をきゅっと握り…そして目を閉じた。
その数秒後には落ち着いた寝息が微かに聞こえてくる。
何日ぶりの睡眠だったのだろうか。
つぼ浦の目元からは生理的な涙がツゥー⋯と流れ、薄く頬に伝っていた。
“ちょっとつぼ浦のこと心配なんだけど?、こいつ大丈夫?”とダウンしながら親猫のようにつぼ浦を見守っていたハクナツメの言葉とその光景が青井の脳裏を過ぎる。
救急隊がやって来て治療を施し、それでも尚《なお》しばらくつぼ浦の寝顔を見つめていたハクナツメは、もう生きる道は違くとも本当につぼ浦のことを気にかけている様子だった。
「拳銃もナイフもつぼ浦以外の指紋はなし…」
数日かけてつぼ浦の周囲に何か怪しい影がないかと詮索《せんさく》してみたものの、やはり特殊刑事課を追いかけ回すような人間はこの世には存在しないらしい。
むしろ最近はかなりのフルパワーで悪を追いかけ回しているのはつぼ浦の方であり、檻の中で眠れば安心だと気がついたつぼ浦は休息を取る度に人知れず牢屋へと足を運び、右手と鉄格子を手錠で繋げる。
冷たい地べたで小さく丸まり、時折勝手に動く身体はガチャガチャと手錠を恨めしく思いながらもその音を牢屋中に響かせるのだ。
それに出くわした署員と犯罪者の心情をはかり知ることは出来ない。
『“特殊刑事課つぼ浦匠!、オンデューティー!”』
「「“ナイスデューティ〜!”」」
無線から聞こえるこのハツラツとした出勤も、実は休む暇を最小限に抑えてずーっと働き詰めなのをカモフラージュしているに過ぎないという事をランクの高い人間はほぼほぼ知っている。
知っていても、解決する策を見いだせずにいた。
このままではいつか何かの拍子につぼ浦の理性が壊れてしまうのではないかと危惧《きぐ》する人間も居る。
でもそんな不安さえも簡単に吹っ飛ばしてしまうほど、つぼ浦は今日も元気に街を走り回っていた。
だから気がつけ無かったのだ。
人知れず、つぼ浦が誰も手の届かない場所まで移動し怪我を負った事に。
今日も自転車でパトロールをして、銀行強盗を取り締まって、せっかくだからと車で飲食店を巡って、そしてふとした瞬間に目元が深く微睡《まどろ》んでいた。
一度、二度、瞼を閉じて、気がつけば薄ぼんやりとした空間に一人。
ここがどこなのかとマップを開こうとすれば、空気自体が薄いところなのか、身体が思うように動かず額《ひたい》に汗が滲む。
もはや寒いのかも暑いのかも分からないそんな空間で、俺は確かに汗を流して身震いをしていた。
呼吸がしずらく、喉にベッタリと張り付くような密度の濃い空気は怪我を負っている訳でもないのに何故かどんどんと体力ゲージをごっそり削り取って行く。
ゲージの半分以上が無くなり、これはもう本当にダメなやつだと思い至った。
環境音は何もない。
光さえもない。
呼吸すらもままならない重い空気の世界で、一体誰が救出できるというのだろう。
『はッ…、はッ…、』
そんな絶望的な事を考えていた矢先にピピーピッ!と自分がダウンしたという通知が警察全体に共有される。
自分の苦しむ息遣いだけが聞こえる空間に何分…何十分…何時間居続けられるだろうか。
『はッ…、はッ…、はッ…、』
十分経過して、三十分経過して、一時間経過して、もう忘れ去られているのではないかと思った。
それでも拳を握りしめ、ただ浅い呼吸を繰り返す。
吸って、吐いて、時が経って…。
『はッ…、……はッ…、…、はッ…、、…。』
二時間以上が経過し、呼吸することを辞めた。
しばらく無呼吸のまま耳をそばだてる。
無風、無音、無臭、全てが無の世界。
とうとう気でも狂ってしまったのだろうか。
俺は思考をも停止して、そしてリスポーンボタンを頭の中でガチャンッ!とぶっ壊れる程に強く押した。
気がつけばそこは病院のベッドの上で、チカチカと眩しい照明に目を細めて起き上がる。
ドタバタと響いてくる足音はどうやら医者たちの足音だったらしく、自分がここに居ると目視した瞬間にポロリと涙を流してひしっと抱きしめられた。
「つぼ浦っ、つぼ浦゙、ごめん っ、ッ、ごめんねッ、俺っ、ちゃんと、見つけてあげられ無かった(泣)、ごめん、本当にごめんね、(泣)」
赤兎がみともを筆頭に、ぐちゃぐちゃに泣きながら謝罪をする医者たちになんて声をかければいいのか分からず、とりあえずみんなをぎゅっと一斉に抱きしめてからそっと口を開く。
『……えっと、俺こそ、待てなくて、悪かったな』
「違う、違うんだよ、つぼ浦は、二時間も待っててくれたんだ、なのに…、」
記憶を失う前の自分は二時間も待機していたらしい。
どこまでの記憶があるのかと断片的に記憶を繋げて見れば、昔の事は覚えているし、自分が警察だって事も分かっている。
記憶が混濁しているとするならば、やはり日常的な日々の生活のことだろう。
アオセンに羽交い締めにされて、その次の次の日にはとんでもなく署長やキャップに迷惑を掛けた事は覚えている。
その日はやけに空の景色が灰色がかっていた。
『あの、今って何日っすか』
「今は、…○日だよ」
『…あぁ。そうか、なるほど』
どうやら自分は一週間以上の記憶をガッポリとゴッソリと忘れてしまったらしい。
ただ直近の記憶は首筋に伝う痛みと周囲に迷惑を掛けてしまったという気持ちだけ。
『あちゃ〜…、こりゃ参ったな』
現に今も相当周りに迷惑をかけている。
恐らくまた眠りについて放浪し、自殺紛いの事をした結果今回は上手くいってしまったのだろう。
これでも記憶喪失は二回目だ。
初回のみんなの驚きようと悲しむさまを知っている身からすれば、もう本当に申し訳が立たない。
『…うん。まずは謝りにいくかなぁ』
ちょうど松葉ずえが外れたであろう時間を見計らって、医者たちのメンタルを通常の一、二歩手前まで修繕したつぼ浦はベッドから軽く立ち上がる。
笑顔で病院を後にしてレギオンへの道を歩もうとすれば、そこにわざと壁を隔てるかの如く、駐車場からジャグラーがバックして急停止するサマを静かに眺めた。
その車に近ずいて、いつものように助手席へと無断で乗り込みパタリとドアを閉める。
「…俺の事、覚えてる?」
『もちろん覚えてますよ。アオセン』
“じゃなきゃこの車に乗ってないし”とけろりと笑って伝えれば、それ以上何も言わずに車は発進する。
「何か言うことは?」
『…あー、また迷惑かけて、すいません』
「…違くない?」
『…、え?』
キョトンとするその表情に青井が奥歯を噛み締める。
「…早く助けに来いよ。クソ警官どもが。じゃないの?」
一度目はあんなにも軽々しく記憶を失った人間が、二度目になったら三十分、一時間、二時間…、それ以上も精神力が持つ限りコイツなら待っていたはずだ。
救急隊を信じて、なにより…同僚である警察、仲間と言っても過言ではない俺たちを信じて。
「言ってもいいんだよ?、今日だけならきっと、誰も言い返して来ないから」
『…それは、…なんか、違うと思いますけどね』
つぼ浦はちらりと窓の外を見てからまた正面に向き直る。
『俺は別に、誰のせいでとか、何のせいでとか、そういう事は何一つ思ってねぇし、ただ…今回の悪の根源は俺自身と言うか…、、だから、皆には後悔とか、苦しんだりとかは、して欲しくない』
「……お前、そんなに真面目なキャラだっけ」
『ふっ(笑)、ひでぇな。俺はいつだって真面目だ』
大真面目に考えた結果、どう考えても自分のせいで顔見知りが迷惑をこうむるのは避けたいと強く感じる。
『だから俺は…、、』
その後の言葉が出てこない。
自分が無意識にその言葉を避けているという事実にだけは、気が付かなかった事にした。
それから三日、俺は絶対に眠らなかった。
何がなんでも眠らずに、ただひたすら暴れて、逮捕して、パトロールをして…表ズラではよく出来たいつも通りの日常だ。
街が完璧に寝静まった頃を見計らって、地道に個人ロッカーのスタッシュに入っていた食べ物や飲み物、全てを個人用のバンの中に詰めてガレージへと戻した。
それに加えて何十台もあるボロボロの警察車両を一台ずつ修繕、ヘリコプターもガソリンを満タンにしてガレージへと戻す。
共有スタッシュの備蓄も滞りなく行ったし、未だに少し血なまぐさいあの一角はとんでもない摩擦で拭いた為ほぼ完璧に清潔そのものである。
『ふぅ…、よぉし』
出来うる限りのささやかな恩返しはできたはずだ。
自己満だけれど、それでいい。
今日の退勤を最後に、いつの間にか俺がこの署に顔を出すことが無くなって、アイツ最近何してるんだろうなぁ…と世間話のおまけにされるぐらいが丁度良い。
小さなあくびを漏らしながら、眠い目を擦って四日目の朝日を浴びる。
『゙んっ、゙んーッ、っはぁ…、』
直ぐに昼になって、人がだんだんと集まって来て、出勤人数が十人以上になったのを見計らって…俺はトランシーバーをオンにした。
『すぅ…はぁ…』
バタバタと忙しない日常の一幕で、こっそりとこの署から逃げ出せるのならそれに越したことはない。
最後だからと思い、堂々と正面玄関から出ていってやろうと考えたのちにエントランスの前で仁王立ちになり口を開く。
『…、“つぼ浦匠、退勤するぜ。お疲れ様でした”』
“おつかれ〜”という声を聞いてしまえばこれで終わりだ。
耳をすましてその言葉を待つ。
だがしかし、帰ってきた声は耳をつんざくほどのどデカい爆音の言葉で、思わず“は?”と掠れた声が喉元を通り過ぎる。
「“その退勤ッ!、待った〜ッ!!!”」
よくよく聞いたらオルカの声だった。
そして聴覚に気を取られていた矢先、次は身体中に電流が流れ込んできて流石にガクッと膝を着く。
「つぼ浦確保!」
「良くやったまるんッ!」
素早い身のこなしで手錠をかけられその場に転がされれば、二人はしてやったりの表情を浮かべてイタズラげに笑みを浮かべた。
『゙あ?』
未だ理解不能らしいつぼ浦の頭は、処理に困っているのか眉間に皺を寄せて二人を見上げる。
「んふふ(笑)、捕まえたぞ!、匠」
しゃがみ込んで、オルカがその頭をそっと撫でる。
「…匠、どこにも行くんじゃないぞ。オルカ、お前が居ないとすっごく寂しいんだからな」
常々“大切な存在だ”と特に同期の皆には伝えているはずなのに、目を丸くしているつぼ浦の瞳には何も伝わっていない様子で、本当に仕方のない奴だと思う。
まるんはそんな二人の様子をしばらく眺めてから、小さく息を吐いてつぼ浦を担ぎあげた。
『゙うおっ、なッ、』
「なんだよは無しだ。お前の考えてる事なんてお見通しなんだよ。いつも一人で抱え込みやがって」
睡眠不足と疲労で少し軽くなったであろうその身体は、途端にピタリと体を固めて動かなくなる。
「別にお前のその謙虚な性格が悪いって言ってる訳じゃないけどさ、…たまには、頼ってくれてもいいんじゃない?」
トントンッと軽く背中を叩いてやれば、小さな声で“…悪ぃ”と言葉が帰ってくる。
それでも尚、恐らくコイツは人を頼らない。
無理やりにでも構って、繋ぎ止めなければ、その強固な心の壁をぶち破る事は出来ないだろう。
だから俺たちは少し遠回りをしてから目的の駐車場まで向かい、その間ずっとつぼ浦へ温かな言葉を降り注ぎ続ける。
そしてつぼ浦が濁点のついた声で悲鳴を上げたのを皮切りに、ケラケラと二人で笑いながらその男を車に押し込むのだ。
『なんなんだよお前゙らッ!、勘弁してくれッ!』
耳まで真っ赤にして羞恥に耐えるその姿は新鮮だった。
もちろん拘束は解かれていないので顔を覆うことも出来ず、ただ顔を下に俯かせてギュッと目を瞑っている。
「悪いなぁ匠!、でも今のお前には一番必要な事だからな!オルカはそうだって信じてるぞ!」
「俺は謝らないけどね。まぁせいぜい甘やかされて来なよ」
“あとはお願いします”と先輩につぼ浦を託し、車のドアをパタリと閉める。
車がゆるく動き出して、ぱちりと目を開けば…運転席には見慣れない顔の男がハンドルを切っていた。
『…、…誰だてめぇ…』
「ふはっ、やっぱり分かんないかぁ(笑)」
聞き慣れた声を漏らしながら、一度だけ車を止めてスっと被ったその被り物は青い鬼。
『アオセン?』
「そ。大正解」
理解出来たのを確認してから直ぐにまた素顔へと戻り、また青井は車を走らせる。
『…どこ、向かってるんすか』
「んー?、ちょっとね〜」
レギオンから病院へと景色が変わり、そこに向かっていたのかと思えば通り過ぎ、しばらくしてから割とこじんまりとした一軒家の前で車は停車する。
木造の落ち着いた白い外装と、青い芝生の花壇にはサボテンや花が植えられていた。
「はい降りるよ〜」
消えた車から弾き飛ばされるようにふわりと落ちれば、そのまま青井の腕に抱かれて家の中へと入り込む。
問答無用でつぼ浦のポケットにはこの家の鍵であろうものがチャリッと音を立ててねじ込まれた。
「ここがキッチンで、ここがリビング。割といい感じじゃない?」
『…まぁ、はい』
確かに自分好みのキッチンとリビングの装飾だ。
「奥がトイレで、こっちがシャワー室ね。それでここが寝室」
ガチャリと開かれたその部屋に目を見開く。
「お前好きでしょ。こういう部屋」
ウッドテイストの卓上チェストとクイーンベッドの温かな配色をした寝具。
カーペットは丸みを帯びて来る人を向かい入れ、時折カーテンの隙間からチラつく淡い光が優しく部屋を包み込む。
『ここは、』
「ん。お前の部屋。まぁ俺の部屋でもあるけど」
後ろ手でドアを閉め、そのままどサリとベッドに落とされる。
ちょうど良い弾力だ。
ふわりと香るデフューザーの匂いも心地が良い。
「じゃあ寝よっか」
『、、は?』
のそりと隣に寝転がる青井がつぼ浦の拘束を解いて、代わりにぎゅっとその身体を引き寄せる。
「おやすみ〜」
『いや、ぇ、は?、いや寝れるかっ、なんッ、』
「寝れないじゃなくて、眠るのが怖いんでしょ」
図星を突かれたつぼ浦はグッと喉を締めて口を開く。
『、…別に。そんなことないっすけどね』
「またまた〜(笑)、…、はぁ…俺も怖いよ。お前が居なくなるのが」
深い息をついて、胸元につぼ浦の顔を押し付けて、そのまま柔らかく乱れた髪を梳くっては撫でる。
「お前なんも分かってないと思うけどさ、みんな心配してんのよ。ちなみにこれを迷惑と履き違えたら滅多刺しにされると思ってね」
『物騒だなおい…』
「…そろそろ眠くなってきた?」
『…ならねぇが?』
どうせ逃げられないと分かっているので成されるがまま、つぼ浦はトクトクと聞こえる心音を耳元で聞きながら息を吐く。
「そっかぁ」
背中をトンットンッ…と叩き、部屋にはその音と青井の声しか響かない。
「…つぼ浦、もしまたどこかに行くんなら、此処に帰っておいでね。そしたら俺が迎えに来るし、まぁ別の所に行っても連れ戻すけど」
”ここがお前の帰る場所だって分かるまで、一緒に寝てあげるから”
『っ、』
耳元でそう呟かれ、いつもとは違うその甘ったるい言葉が妙にくすぐったい。
「つぼ浦、ここがお前の帰る場所だよ。よく覚えといてね。お前はみんなに好かれてるんだから」
『ッ、っ、それ、やめろ…、くすぐったい、』
「んふふ。それぐらいがお前にはちょうど良いよ」
“俺がついてるから大丈夫。…おやすみ、つぼ浦”
モゾりと少しだけ身じろいで、つぼ浦はとうとう耐えかねたのか目を瞑る。
人から伝わる体温はこんなにも温かいものだっただろうか。
『ッ…、ん…、…、……、ン……すぅ…』
その人肌の温さに少しだけ身を寄せて、こくりと久方《ひさかた》ぶりの眠りについた。
目が覚めるといつも此処にいる。
マップを開いて、時間をみて、ついでに眠気覚ましのシャワーを浴びて。
ガシガシとタオルで髪の水滴を拭えば、キッチンから香ってくるコーヒーの匂いが鼻を燻《くすぶ》った。
『…、はぁ…不法侵入か?』
「はいはいお馬鹿が。いいから髪を乾かしなぁ」
何を言ってものらりくらりと受け止められて、甘やかされて家を出る。
俺のマイブームはこの家に戻ってくる事らしい。
実際はあの手この手であのふかふかなベッドに投げ込まれているのだろうけれど、それでも良いと思った。
こんな日々が続いてもまぁ悪くはないなと、緩みきってしまった心の中で、そう無意識に呟いた。
つぼ浦匠は夢遊病。[完]
コメント
2件
フォロー失礼します! メッッッッッッッッッッッッチャ最高です!!神すぎます!!!!
めっちゃくちゃ好きだわ