新しい上司

ｶﾁｶﾁｶﾁ…

パソコンのタイプ音が響く中

上司の怒号が響き渡る

「契約できなかっただぁ!?!?」

「しつこく何回でも契約を持ち込むんだよ!!!!お前はそんなことも分からないのか!!」

社会人一年目の俺、ショッピはこのブラック企業に務めている。

平日休日関係なく強制出勤。

休みも帰りもない。

最後に家で酒を飲んだのはタバコを吸ったのはいつだろうか。もう長らく実家に帰っていない。溜まりに溜まった仕事を見て絶望する毎日、こんな会社今すぐにでも辞めてしまいたい。給料日に渡される給料はほんのこれっぽっち。度々仕送りしてくれる母親のおかげで何とか生活出来ているが、仕送りがなかったら今頃どうなっていただろう。町中で凍えながら金をかきあつめていただろうか。こんな状況にならなくて済んだのは遠い家に住む母や父のおかげだ。

俺ももっと稼いで親孝行をしなくては、と思ってはいるが今の給料じゃ税金や家賃を払うので精一杯で、親孝行をしようにもできないのだ。

ｶﾁｶﾁｶﾁ…

企画書を書き終わると前のデスクでまだ説教をしている上司のところへ行く

syp「企画書です」

「あぁ!?」

「…こんなんで契約が取れると思ってんのか!!」

俺が何日もかけて作った企画書をビリビリに破いて机に叩きつける

「やり直しだやり直し!!!明日までに俺に提出しろよ!」

syp「…はい」

このクソ上司、自分は課長にペコペコするだけで何もしてないじゃないか。

今目の前で怒られている後輩が気の毒で仕方ない、それを呆然と眺めることしか出来ない俺も俺だ。…転職先探してみようかな

デスクに戻ると、通勤用のバックの小さなポケットからライターと煙草を持ってこっそりオフィスを抜け出す。

いつもここの喫煙所は俺以外誰一人見かけない。みんな忙しそうやもんなぁ、まるで他人事のようにつぶやく

ライターでタバコに火をつけると口に咥える

スマホをポケットから取り出してgoogleを開く。

○○市 転職

そう検索にかけるとずらりと俺の地域周辺の職場が流れた。

文字の羅列を丁寧に見ながら画面をスクロールしていく

フーッと煙を吐くとまた煙を吸う

看護…料理…どれも俺に似合わないのばかりだ。同じような職業しか出てこないので雑に画面を撫でる。

俺の目に止まったのは証券の仕事だった。

企画持ち込むのは苦手だけど商談は得意だしな…その会社のことについて調べると色々な情報が出てきた

大手企業の弟会社なのか…ここならホワイトそうだし心機一転出来そうだな…

来年の面接、受けてみるか

ちょうどタバコも吸い終わると灰皿に押付けて喫煙所を出た

…

デスクに戻るとまた仕事を再開する。

ｶﾁｶﾁｶﾁ…

「おいしょっぴ!!!」

「お前さっきまでどこ行ってた?」

ゲッ…どうやら俺がデスクにいなかったことに気づいてしまったらしい

syp「ちょっとお腹が痛くて。トイレに行ってたんです」

「はぁ、これだから企画書も通せないんだよもっと仕事しろカス」

お前よりは仕事しとるわ…はぁ…

本当は殴りかかりたい。でもそんなことをしたらいくらパワハラ上司でも俺の方が悪くなってしまう、殴りたい思いをグッと堪えてまたパソコンを睨む。

…

21:52

企画書は終わらんし…今日もお泊まりコースかなぁ…。

背伸びをすると夜ご飯として栄養剤とinゼリーを胃に流し込む

俺の他にも徹夜している人は他に何人何十人いる。これは別におかしい事じゃない。

「ねえ、ショッピさん」

話しかけてきたのは俺の後輩だった

syp「ん?何分からないことでも…」

「ショッピさんてここ辞めたいと思わないんすか?」

「思っとるよ、毎日思っとる。」

「俺、明日で辞めます」

「あー…そーかそーか…」

「いままでお疲れ様、俺はまだ頑張るからお前は実家にでも返って身体ゆっくり休めるんだぞ」

「うわぁぁん……」

まるで今まで貯めていた水が溢れてしまうように俺に抱きついて泣き出した

syp「おわっ、やめーや俺はまだ仕事あるんやぞ〜」

俺がフフっと笑ってそう言うと

「俺も手伝いますよ」

と涙でぐちゃぐちゃになった顔で言う

syp「退職書、書いたんか?」

「あぁ、はい昨日やっと家に帰れたので…」

syp「そうか、じゃあ手伝ってくれるか?」

俺がそう言うとぱぁっと 目を輝かせて一緒に作業をする

2人で    協力すれば数時間後には企画書が出来上がっていた

syp「ほんまありがとうな今日は寝れないと思ってたけどお前のおかげで 何時間か寝れるわ」

「最後の最後で先輩のお役に立てて嬉しいです」

syp「ありがとうな、お前は家に帰ってちゃんと休め」

「先輩は?」

syp「俺はあと少しすることがあるから」

「あぁ、そうなんですね。俺もう帰りますね!じゃあまた明日」

そう言い、後輩を家に帰すとまた喫煙所でタバコを吸う｡時計は零時を回っている

今日は2月1日。…今月会社辞めようかな…4月までにバイトでやり食いしていけばいいし､まあ今の会社よりかは稼げるやろうから。

タバコを吸い終わるとデスクに戻りヘッドホンをして机に突っ伏し、寝る体勢になる。俺もうこんな状態で何日寝てるんやろか。病気になるでほんま…そんな事を考えていたらウトウトしてくる

そっと、目を閉じる

…

瞼の奥が光る。目が覚めた