テラーノベル
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「そこでストップっす!」
入り口まで戻り、中央の木に向かう途中、スペードに止められた。
「あの――」
「動かないでっすよ! まったくなんてものを……」
ぶつぶつ言いながら、彼は私達に向かって魔法を使った。
「風の精霊よ」
ビュゥと風が全身を撫でて、後ろの森へと向かう。何をされているんだろう。
「胞子、持ってきちゃダメっすよ。森の勢力範囲が変わってしまうっす! って、あぁー、あぁー、あぁー」
スペードは近づきながら、叫ぶ。
「可愛くなったっすねぇ、アリスト君」
さっきまで、私の腕の中でゴロゴロしていた猫アリスは尻尾と背中の毛を逆立てて、スペードを威嚇する。
「可愛げはないっすねー」
それを見たスペードは二、三歩後ろに引いていた。
「この猫がアリスト様だとわかるのですか?」
「ん、あぁ。どう見てもアリスト君っすよね? リサちゃん、ルード君がいて、アリスト君だけいない。そしてこの猫。獣人だけが反応し、無力化させる植物の胞子か、花粉にでもやられたっすかね」
そういえば、いい匂いがすると、アリスは言っていた。でもどうして見てないこの人が知っているんだろう――。
「治す法方を知らない? スペードさん」
「んー」
「知っていたら教えて下さい!」
スペードは、顎に指をあて考える素振りをする。
「ギブアンドテイクっすよ。リサちゃん、僕に何かくれるなら教えてあげるけどっす」
「えっ――」
でも私、持ち物なんてマタタビしか……。
「ほっぺにちゅーとかでいいっすよ」
はい? 何言ってるんですか、この人。
ほらほら、と彼は自分の頬を指差している。
「それは許可出来ません!」
え? ルードの許可が必要なの?
私の頭が混乱している。えっと、えっとどうすれば。
フシャーーーーーー!
猫アリスまで怒りだした。
スペードは帽子をぎゅっと押さえながら、ため息をつく。
「しょうがない、貸しっすよ? アリスト君」
よかったのかな? アリスの貸しになってしまったけれど。
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月白
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耀聖(ようせい)
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こちらの言葉を理解は出来ているみたいで、猫アリスは先程までの威嚇行動をゆっくりと静めていた。
「それを治すには、大魔法使いの作った失敗薬と言語薬の二つが必要っす」
え、失敗? なんで失敗?
「詳しくは木の精霊の場にいる精霊に聞けばわかるっすよ」
何でそんなピンポイントな情報がポンポンと出てくるんだろう。この人は、本当に何者?
「スペード……様……」
ルードが初めて名前を呼んだ。すごくぎこちない様づけだ。
「スペードでいいっすよ」
「貴方も一緒に森に行ってもらえませんか?」
「なんでっすか?」
ルードが歯ぎしりしている。
「貴方は知っているのでしょう。私は兄程剣が使えない。いや、まったく使い物にならないということを……」
兄ってリードのこと? 彼、剣が使えるんだ。
「アリスト様がこの様子では、前衛がいなくなってしまいます」
「それで?」
「ですから! 手伝っていただけませんか? リサ様を守るためにお願いします」
ルードが頭を下げる。えっと、私も頭を下げた方がいいよね?
一緒に頭をさげようとしていたら、スペードが帽子を押さえながらポツリと言った。
「僕は行けないっす」
「何故!」
ふぅと一つ息を吐き、彼は続ける。
「アリスト君みたいになるからっすよ」
え? アリスみたいにって? スペードも獣人なの――?
でも、尻尾も耳も……。耳は帽子の中? 尻尾は?
「リサちゃん、あまりじろじろ見ないでっす。恥ずかしいっす」
「ごめんなさい!」
あれ、私が悪いのかな?
でも、どうなってるのか、気になる。それに、獣人なら動物の嗅覚や聴覚で視覚のかわりになるらしいから、目を隠してても問題ない? タカマガハラは獣人の国だっって言ってたから、彼が向かうのもあり得る? と、二つの疑問が解消する。うーん、気になる。
「そういう訳で、ルード君、リサちゃん、アリスト君、頑張るっすよ。僕はここの用事があるんで!」
やるしかない。どうせ、行かないといけない場所だ!
「教えてくれてありがとうございます。行ってきます!」
私も、頭をさげるとスペードが少しだけ考える素振りをしてから手招きしてきた。何だろう?
内緒話でもするのだろうか? 私がスペードの前まで行くと彼が耳元に寄ってくる。やだな、耳くすぐったいのに。
「水の結界を忘れずに、一本道だから迷うことはないっす。結界は精霊の場に着いたら消して大丈夫っす。戻る時も同じ。それと、さきほど僕がやったように胞子等は風の精霊で森に返すこと」
そうか、結界をはっていたらこんなことには――。ごめんね。
猫アリスを私はぎゅっと抱きしめた。
「途中水の魔物が出るけれど、雑魚だから大丈夫っす。リサちゃんなら出来るっすよ」
肩をポンポンと軽く叩かれた。
あれ、今のってルードに聞かれて困ること、あったのかな……?
むしろ、風の魔法はルードにお願いしないと出来ないような……。
「いってらっしゃいっす」
「ありがとうございます。スペードさんも、またあとで!」
「スペードでいいっすよ」
え、でも――。彼がそう言って欲しいならそうしておいた方がいいかな?
「はい、スペードも用事済ませておいて下さいよ」
「はいっすよ。 リサ、またあとで」
スペードは、帽子を片手で押さえながらもう片方で手を振っていた。
あれ? 私の名前も呼び捨てになってる――。
ルードと、私と、猫のアリスは再び森に足を踏み入れた。
コメント
1件
お疲れー!今回も面白かった! スペード、絶対ただ者じゃないよなー。何でそんなに詳しいんだよって感じだけど、リサに内緒話してるとこがまた渋い。ルードが「スペード様」って呼んだのも初めてだし、ちょっと関係進展した感じが熱い。笑えるのにシリアスもあって、リサの視点の迷い方がほんとリアル。次の話も気になる!