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すごい、すごいよ、リカルド様!
一見実力が拮抗してるようにも見えるけれど、リカルド様はまだまだ余力を残してる。だって、大規模な魔法はまだそんなに使っていないもの。飛龍と戦った時と違って肉体強化系優先で戦ってるし。
まぁ相手は生身の人間だからね、大規模魔法使いにくいのは当たり前かも知れないけれど。
それに、お兄さんも口だけじゃないんだなぁ。魔法であれだけ強化したリカルド様と、あんなふうに渡り合える人がいるだなんて、想像したこともなかったよ。
魔法学校の人なんて、魔法で身体強化したところでもともとが貧弱だから、正直たいした効果が見込めないんだけど、リカルド様だけは別格で尋常じゃなく強くなるから演習してても敵なしだって聞いてた。
それがあのお兄様ときたら素のままで、強化したリカルド様と対等に戦うんだもの。リカルド様が『兄は剣の神に愛されている』って言うのが分かる気がする。
でも、それでもやっぱり、リカルド様に勝って欲しい。
剣での戦いにこだわりがあるのか、なかなか魔法での攻撃に移行しないリカルド様にやきもきする。ねえリカルド様、魔法だって、立派にリカルド様の力なんだからね……!
そう思っていたら、ついにリカルド様が氷筍を展開しはじめた。おっ! と思ったのもつかの間。あたしの口はあんぐりと開いた。
「うそ……」
だってその氷筍を、ことごとくお兄さんの放った気の塊? みたいなのが砕いていく。
いやいやお兄さん、魔法使えないよね!? なんで!? 騎士ってこんな魔法みたいなこともできちゃうの!? ちょっとこの兄弟、デタラメ過ぎない!?
「リカルド様!!!」
氷筍を突破した気の塊が、リカルド様を襲う。ああ、どうしたらいいの。リカルド様が吹っ飛ばされるところなんて初めて見た……!
リカルド様もしっかり報復したみたいだけど、そっちを見てる余裕がない。大丈夫なの? リカルド様……。
不安でハラハラしながら見ていたら、リカルド様は何事もなかったかのように表情一つ変えず立ち上がり、油断なく剣を構える。
良かった……動きもスムーズだから、きっと大きなケガとかはないんだろう。
一方のお兄さんは……? あ、めっちゃ氷に埋まってるけど、大丈夫なのかなコレ。
生きてる? ってちょっと心配になったところで中から、「寒っ! さっむ!!!」と叫びながら、お兄さんが勢いよく氷の中から飛び出してくる。おお、さすがにしぶとい。
リカルド様があれだけ尊敬してるだけあって、マジでお兄さん強いし、打たれ強いんだな。
でもリカルド様、それでもあたし、リカルド様の方が絶対に強いって信じてるよ。
「リカルド様、絶対に勝てますから!!!」
思いをのせて、声を限りに叫ぶ。
「頑張って、お願い!!!」
お兄さんもデタラメに強いけど、この巨大な壁に勝てたらきっと、リカルド様は自分を卑下する気持ちから解放されると思うから。
「今のはちっと効いたぞ」
お兄さんが、ニヤリと口の端を上げて笑う。そういえばお兄さんは口数も多いけど表情も豊か。リカルド様とは正反対だ。余裕があるような素振りで話すけれど、明らかにリカルド様よりダメージを受けてるように見えるし、氷に閉じ込められた影響か小刻みに震えている。
リカルド様、チャンスだよ、多分!
「やるじゃねえか」
「今度は魔法を……本気で使います」
剣を鞘に納め両手をゆっくりとあげながら、リカルド様が静かな声で宣言すると、お兄さんは噛み付くようにこう言い放った。
「やってみろ! てめえのヘナチョコ魔法なんざ怖かねーんだよ!」
そう叫んで斬りかかろうとしたお兄さんの前で、リカルド様は一瞬で右手に魔力を集中させて大きな火球を生み出すと、牽制するようにお兄さんへと投げつける。
「うおっ、危ねっ」
飛び退って火球をなんとか避けたお兄さんの足元に、お腹に、頭に、次々と火球が襲いかかる。それをなんとか避けていくところを見るに、お兄さんもさすがに反射神経がいい。
「ちょ、おっと、お、わっ!? 」
器用だな、ぜんぶスレッスレだけど避け切ってる……と思ったら。
「ぅ熱ちぃっ!」
ついにかすった。しかもリカルド様ったら眉毛ひとつ動かさずに右手にポコポコと生まれる火球を虫でもはらうかのような気軽さで投げまくっている。
「ちょ……待っ……魔法ってこんな連射出来るモン!?」
「剣と同じで鍛錬すれば可能です」
イヤイヤイヤイヤ、リカルド様こともなげに言ってるけど、お兄さんの驚愕も無理ないからね?
普通はあんな息するようには魔法撃てないから。リカルド様を全力で応援してはいるけど、ちょっとお兄さんが可哀想になってきた。リカルド様、マジでスゴイ。
リカルド様から放たれる火球に追い回されて、お兄さんはもはや反撃どころじゃない。ついには鍛錬場の端の方まで追い詰められてしまった。そして、逃げ惑っていたお兄さんが、一瞬硬直したように動きを止める。その顔は幽霊でも見たかのように青ざめていた。
「ってか、お前! 左手のソレはなんだ!!!?」
あ、気づいちゃいましたか、お兄さん。
右手から次々に生まれ出ては投げつけられている火球と同じ勢いで、実は左手には雷が生み出されているんだよね。そして放出されずに貯まる一方の雷は、巨大な塊となってバチバチと激しく光を放っている。
「見ての通り雷です。魔法はこれまで兄さんの前では控えていたのですが、せっかくなので難度の高い魔法をお目にかけます」
「待て! そんな気遣いは不要だ!」
お兄さんがすっかり動きを止めたからか、火球を放つのをやめたリカルド様の右手には、早くもひと抱えもあるほどの燃え盛る業火が爆誕している。そして左手の雷は激しい閃光を放ちつつ、スパークしはじめている。
めっちゃ怖い。
二つの強力な魔法に周囲の空気が煽られるのか、リカルド様の髪も服もバタバタとはためいていて、尋常じゃない威力だって本能が全力で叫んでるんだけど。
あれ、絶対に人に向かって撃っちゃヤバいヤツ……!
「リカルド様、撃っちゃダメ!!! さすがにそれはお兄さんが死にますーーーーー!!!!」
思わず叫んだあたしに、リカルド様は口元を少しだけ上げた。多分、微笑んでる。
「兄は幼い頃から神かと思うほど頑丈で身体能力が高い。この程度平気だ」
「アホかぁぁぁ!!!! 軽く死ぬわ!」
お兄さんがマジ顔で叫んだ。いくらなんでも「たいしたことない」なんて強がりは言えなくなってしまったらしい。ていうか、リカルド様の中でお兄さんはいったいどんな超人になってるんだよ。
「待て待て待て、リカルド、ホント待てって!!!!!」
お兄さんが叫んだ瞬間、リカルド様の集中を断ち切るように、目の前に大剣が振り下ろされた。
「勝負あった、そこまでだ」
お父さんの重々しい声が空気を揺らす。リカルド様は憑きものが落ちたような顔で呆然とお父さんの顔を見て、ゆっくりと長い息をつく。お父さんはそのままリカルド様の目の前に歩を進め、完全にお兄さんとの間を別つように位置取りする。
リカルド様の視界を完全に自分だけに向けてから、お父さんはリカルド様の左手で荒れ狂っている雷を顎で指した。
「リカルド、散らせるか?」
「あ……」
お父さんに言われて、リカルド様はハッとしたように自分の左手の雷の塊を見上げる。
ヤバイ。もう今にもその場でバクハツしそうなくらい成長しきってる。これって、散らすなんてことできるの? いや、リカルド様ならできるのかな。
いやいや、リカルド様も困ったみたいにちょっと「……」ってなってるよ!? これ、大丈夫!?
ハラハラしながら見ていたら、リカルド様は右手の炎を軽く後方に放って水魔法で消火してから、空いた右手をふわりと動かして、左手の上で荒れ狂う雷の周りに大きな結界を作り出した。
結界まで作り出したってことは練りに練られた雷の方は、そう簡単には消せないってことなんだろうか。
「消すよりもこの方が早いので」
リカルド様がそうひとこと言った瞬間、結界の中でいくつもの雷が同時に落ちたような轟音と閃光と振動と爆風とが巻き起こる。
ひええ、結界が衝撃でボワンボワン揺れてるよう。結界、壊れたりしないよね……?