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完全にビビッてしまった私だけど、その光景の凄まじさに声を失ったのはあたしだけじゃなかったらしい。
「嘘だろ……あんな威力」
ちっちゃな声でそう呟くお兄さんの顔は、もはや青いを通り越して白かった。さっきまで殺しても死ななそう、って思ってたけど今やその気迫はどこにもない。
お兄さんはヘナヘナと座り込んだまま、未だに結界の中で激しく轟く雷鳴を食い入るように見つめていた。
そして、リカルド様の眼前に凜と立っているお父さんも、眩しそうに目を細めながらリカルド様渾身の雷魔法を見上げている。その顔は穏やかで……なんとなく、嬉しそうだった。
「リカルド、成長したな」
「……!」
お父さんが、リカルド様にふと笑いかける。リカルド様は弾かれたようにお父さんを凝視した。
「あ……ありがとう、ございます……!」
まるで、そんな言葉をもらえることなんてあり得ない、とでも言いたげに。リカルド様はありがとうと言いながらも、どこかその言葉を信じられないような顔をしていた。
「リカルドがこんなに強力な魔法を操れるようになっているとはな」
「この子は家では魔法を見せてくれないものね」
それまで黙って見守っていたお母さんが、リカルド様たちの方へと歩きながら会話に加わる。お母さんは明らかに嬉しそうで「リカルド、すごいわ!」と手放しで褒めてくれていた。
リカルド様のことだから、きっとお父さんやお兄さんに気を遣って、家族に見えるところでは剣の稽古ばかりしてたんだろうなぁ。なんだか目に浮かぶよ。
ねえリカルド様、わかってる? お父さんの言葉に含みはないよ。褒められてること、信じていいんだよ?
「学園でも素晴らしい成績だと聞いていたが、この目で見て確信した。お前の実力は当代トップの魔術師と比較してもなんら遜色ない」
褒められていることが信じられない様子のリカルド様に言い聞かせるように、ゆっくりと。お父さんは言葉を選びながら話しているようだった。
子供の頃の話を聞いただけだと剣術だけしか認めない、ただ怖いだけのお父さんなのかと思っていたけれど、違うね。きっと日々のリカルド様の努力も、今の実力も、きちんと見てくれていたということなんだろう。
なんていうか……なんだかジーンとしてしまう。
ねえリカルド様、良かったね。
本当に、良かった。
ああもう、言葉もでてこない。リカルド様の長年の努力が認められたんだって思うと、勝手に涙が出てきてしまう。めちゃめちゃこみ上げてくるものがあるんだけど、リカルド様が泣いてないのにあたしがボロボロ泣いてるのも変だから、あたしはこぼれ落ちそうになる涙を必死でこらえた。
くっ……泣くの我慢するとこっちにクルよね。ぐすっ、ぐすっと鼻をすすっていたら、いつの間に横に来たのか、リカルド様のお母さんがそっと肩を抱いてくれた。
さりげなくハンカチ貸してくれるとか、女神か。
修練場の真ん中では、ようやく結界の中の雷魔法が収束しようとしていた。
今さらだけど、あんなヤバい魔法をお兄さんに直撃させなくて良かった。止めてくれたお父さん、英断です。
グスグス鼻を鳴らし、ハンカチの端で涙を拭きながらも、なんとかリカルド様を見守っていたら、お父さんはなぜかこちらに視線をくれた。
お母さんを見ているのかな? と思ったけど違う。なんでだろう、あたしを見てる?
「ユーリン嬢の言ったとおりだったな。もし戦場へ出たならば、リカルドはこの国で最も力を発揮し戦果をあげる戦力となるだろう。ソルトでも、私でも遠く及ぶまい」
「そんなことは……!」
「いや、事実だ」
目を見開いて異を唱えようとするリカルド様を目顔で抑え、お父さんはさらに言葉を継ぐ。
「魔法の腕もさることながら、お前には幼き頃より鍛えてきた身体能力がある。ユーリン嬢が言うように、そのどちらもを使いこなしているからこその強さだ。リカルド、お前はもっと誇っていい」
自分よりもすでに大きくなった息子を少し見上げながら、お父さんは破顔した。
これまでの威厳ある雰囲気が急に崩れて、目尻にできた笑いじわが優しい雰囲気を醸し出す。お父さんはリカルド様の肩をポンポンと軽く叩いて「強くなったなぁ」となんだか感慨深そうだ。
「ありがとう、ございます……!」
リカルド様の目からゆっくりと涙が落ち、頬を伝ったのが見える。お父さんはそんなリカルド様の頭に手を伸ばしてクシャクシャとかき混ぜている。
もう、あたしも涙が溢れるのを抑えられなかった。
「良かった……」
安堵で思わず声が出る。リカルド様のお母さんが貸してくれたハンカチももう涙でぐしゃぐしゃだ。あたしの顔も随分酷いことになってるだろう。しゃくりあげるレベルでぼろ泣きしていたら、優しく背中を撫でられた。
どう考えてもこの手はお母さんだ。女神か。
「あ、ありが、とう……ごさい、ます」
グスグスと啜りあげる合間をぬってなんとかお礼を言ったら、お母さんから聖母のような微笑みを向けられた。
「お礼を言うのはこちらのほうだわ。ねえ、あなた」
お母さんがそう声をかけると、お父さんも深く頷く。
「ああ、ユーリン嬢の言葉がなければ、こんな機会を持つことは難しかっただろう。本当に感謝している。ありがとう、ユーリン嬢」
まさかのストレートな感謝の言葉に、あたしはもうどうしていいか分からない。「とんでもない、あたしなんか」って言いたいのに、こみあげてくる涙でうまく言えなかった。
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