コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ある日、般若面のメンバーに呼び出された。と言っても、こんな水臭い紹介はしなくていいよな。晴れて恋人となった奴の家に、だ。
「こんな夜中に呼び出すなんてな」
「どうせ起きてただろ」
「まぁね」
自分で招いておきながら少し眠たそうな目をする。この歳になると夜更かしもきつくなってくる。本当は寝たいけれど、可愛い恋人の頼みとあれば来ないわけにはいかないだろう。
「とりあえずお茶でもどーぞ」
キャラクターもののマグカップにお茶が注がれる。部屋を見渡すと、同じキャラクターのグッズが所狭しと置いてある。こういうところはいつまでも子供っぽいんだな。
「で、さ。お前、着替え持ってきた?」
「俺が乗ったの終電なんですけど。狙って呼び出したんじゃないの?」
「当たり」
口角をくいっと上げて、意味深な顔をした。
「今日なんの日か忘れたわけじゃねぇよな?」
ドスの利いた声で俺に尋ねる。そりゃもちろんわかってるよ。連絡が来たとき、内心盛り上がってたもんな。
「珍しいよね、あろまがそういうの気にするの」
「そうか?」
「今朝電話来るまで諦めかけてたからさ」
「ばーか」
そう言って俺の髪の毛をぐしゃぐしゃに撫で回す。無造作に伸ばしっぱなしの髪の毛が時折目をかすめては、その隙間からニヤけ面が見える。
「ちょっと!」
「なに、期待してた?」
「その言い方うざ…」
「どうなんだよ」
「そりゃ…してましたよ…」
だよな、と得意げな顔をする。
「俺もちゃんとお返し準備してっから」
「あのときはほぼあろまからだったじゃん」
「お前が尻込みしてたからだろ」
確かにあのときの俺は怖気づいていて、断られたらとか、嫌われたらとか、そんなことばっかりが頭の中を占めていた。それにしびれを切らしたあろまから襲われるみたいな形で終わった。
その後は…何もしていない。あろまは少し乗り気だったようだけど、俺はもう驚きと緊張で何もできずにいた。
「それで、俺には何をくれるの?」
「ん、これ、一緒に食べようと思って」
テーブルの上に置かれた白い箱。ふんわりとカカオの香りが鼻をくすぐる。聞かなくても箱の中身はなんとなくわかった気がする。
「いい匂いするね」
「待ってて、紅茶淹れてくる」
いつもなら適当にペットボトルを渡されるのだが、今日ばかりは何故か気合が入っているみたいだった。
「ん」
「ありがと」
紅茶を持って俺の隣に座る。
「珍しいね、こんなおもてなし」
「せっかく食べるなら美味しく食べたいでしょ」
「そうね」
目に見えてウキウキしながら箱の蓋を開ける。中にはチョコレートできれいにコーティングされたドーナツ状のスイーツが入っていた。早速ナイフでカットしてみると、
「わ…めっちゃうまそう…」
生地とチョコが2層になったバームクーヘン。ふわふわな生地にとろけるような生チョコレートが重なっていた。すごい、ずっと食べたかったやつだ。
「あろま」
「ん?」
「ありがと」
顔を見ながらそう言うと、少し照れくさそうに笑って、お皿に取り分けてくれた。
「…俺なりのお礼だよ」
「なんの?」
「そんなの決まってるじゃん」
顔をそらしてぼそっと、
「気持ち伝えてくれた…そのお礼」
ああ…すごく…
「甘そうだね」
「ちょっ…なに押し倒してんだよ」
「良いかと思ったんだけど」
部屋着に着替えた俺達は寝室のベッドに座っていた。でもやっぱり俺も男だからこういう雰囲気だと…わかるよね?
「なんつー顔してんのよ」
「ごめん、可愛くて」
「誰が」
「あろまが」
「バカじゃねぇの…」
上から見下ろすあろまはやれやれと呆れた顔をした。それでも拒否することはないようで、また俺の髪をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「なに…」
まっすぐ俺の目を見て
「ほら、早く…抱けよ」
ほらね、ほんとに可愛い。
Fin.