彼女の悲鳴を聞いて、まっさきに駆けつけたのは、部屋のすぐ外にいたハルカだった。
ハルカはとても驚いた様子で、私とアイラちゃんを交互に見つめる。
「どっ、どうしたの?!すごい悲鳴だったけど…。」
ハルカがそう問いかけると、私が弁解する暇もなく、アイラちゃんがこう言った。
「酷いの…!ヒスイったら、私は引っ込んでろって言うのよ!自分の立場を奪われたくないから!私のこと殴ろうとしたの!」
彼女の口がら飛び出す、空言の数々。
慌てて私はハルカに訴えかける。
ハルカは私の方を見ようともせず、ただ俯いている。
「違う!ハルカ、聞いて…私そんなことしてないの…アイラちゃんはきっと混乱してて…」
「…ハルカ?」
私が話し始めた頃からずっと俯いていて、何も言わない彼の顔をそっと覗き込む。
ハルカの目に光は宿っていなくて、ただ暗くて濁った水色が、わなわなと震えていた。
「ねぇ、ハルカ…大丈夫?」
肩を叩いて、ハルカに呼びかける。
すると彼はようやく反応を示した。
「へ…?あぁ、うん。大丈夫だよ。
ちょっと、ぼーっとしてただけ」
「そっか、なら良かった…。」
ハルカはきょとんとした顔で私に尋ねる。
「それで…なんの話だっけ?」
私は何も言えずに、アイラちゃんの方を見つめる。
アイラちゃんは、相変わらずの目つきでこちらを見つめた後、少し残念そうな顔をしてこう言った。
「…なんでもないわ。少し、混乱してたみたい。」
「そ、そっか…。なら、良かった…」
思わず安堵の笑みがこぼれる。
そんな私達の様子に、ハルカは頭に疑問符を浮かべ、首を傾げるのであった。
大丈夫、少し混乱してただけだよね。
大丈夫、きっと、大丈夫だから。
そう言い聞かせて、私はハルカの家を後にした。