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あの夜から、何日経った?
……わからない。
部屋の中に時計はないし、外の光もろくに入ってこない。
ただ、アルが来て、食事を置いて、触れて、キスして、俺を抱いて――それの繰り返し。
気づけば、手首の布は解かれていた。
でも俺は、逃げようとしない。
(……いや、逃げ“られない”のか)
自分でもわからなかった。
アルが来るたびに、胸の奥がざわつく。
触れられると、嫌悪と共に、妙な安心感が押し寄せる。
(なんで……こんな状況で、“安心”なんてしてんだ、俺……)
身体は、もうアルを受け入れていた。
くそみたいな話だ。
心まで奪われたくないと必死だったのに、ふとした瞬間に思い出してしまう。
優しく触れる手。
低く囁く声。
名前を呼ぶ時の、誰よりも優しい眼差し。
(――アルは、俺だけを見てる)
それは、確かだ。
怖いほどに、歪んでいるほどに、
誰よりも真っ直ぐに、俺だけを見ている。
「……はは、バカか。なに美化してんだ、俺」
小さく笑って、吐き捨てた言葉がやけに胸に響いた。
あの時、無理やり奪われた。
キスも、体も、何もかも。
でも――
それでも、
(……もう一度、触れてほしいなんて……)
そんな考えが浮かんだ瞬間、アーサーは頭を抱えた。
「……マジで、俺の方が頭おかしくなってんじゃねーか……」
呟いた声が、虚しく部屋に響く。
アルが狂ってる?
違う。
たぶん今は、俺も同じくらい――いや、それ以上におかしい。
逃げない。
縛られてないのに、ここにいる。
“嫌だ”と言わなくなった。
……そして、アルが来ない夜は、どこか落ち着かない。
(……これが、愛ってやつかよ)
そんなわけない。
でも、それ以外の言葉が、もう見つからなかった。