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俺たち行商隊の一行はみんなそろってモンソロの町へ戻ってきた。
途中のマギ村においては例によってカイアさんが大奮闘。帰りに狩ったウルフの皮でしっかり儲けていたようだ。
なんでも、革を扱う工房へ卸した際、その解体技術と保存状態に舌を巻いていたという。
さすがはインベントリーさん。いい仕事してます。
家に戻ったマクベさん夫婦はいつものように大忙し。店や家をバタバタと走りまわっていた。
そのあいだ子供たちは、リビングで俺がいれたミルクティーを美味しそうに飲んでいるのだった。
これはメアリーからのリクエストに応えたものだが、旅の途中で飲んだ甘いミルクティーが忘れられなかったようだね。
こうなるとコーヒー牛乳も作ってあげたいなぁ。
しかし、この世界にも珈琲はあるのだろうか?
珈琲の発見って割と特殊だったよな。山火事が起きてなんちゃらかんちゃら。(諸説あります)
そうそう、牛乳・卵・砂糖があるからミルクセーキなんかも作れるなぁ。
香り付けはカラメルやメープルシロップでいいだろう。
今度、大量に作って保存しておこうかな。
そしてスイーツのほうだけど、クレープを作ってみようと思うんだ。
こっちの小麦粉でどこまで再現できるかわからないけど、パンが作れるなら大丈夫だろ。
あのモチモチさがどこまで出せるか……。
ただなぁ、ここで作るとかなり迷惑をかけちゃうからなぁ。
何処か良い場所が……って、あるじゃん!
――ダンジョン・サラ――
一瞬で移動できるし、前に言ってたダンジョンリビングにも行ってみたいし……。
そうなるとフライパンや皿なども買い足しておかないとな。
ああ、そうそう、孤児院の為の屋台なども考えていかないと。
こうして構想を練るだけでも、なにか楽しくなってくるよな。
ようやくカイアさんがリビングに顔を出したので、俺たちは冒険者ギルドへ出かけた。
カウンターにて護衛依頼の終了報告を終えると報酬が支払われた。
もちろん街道に出没した魔獣の件もここで一緒に報告をあげておく。
そして、ついでだったので尋ねてみた。
「今回、槍の訓練をしたいのですが、指導される方をどちらかお願いできますか?」
「槍の指導ですか……。少々お待ちください」
そう言って受付員はバックヤードに入っていった。
そしてすぐに戻ってくると、
「男性の方ですが一名いらっしゃいます。すぐに申し込みできますが如何いたしましょう?」
「では、これから1刻 (2時間) でお願いします」
「そして明日から4日間、朝2の鐘から予約をとることは可能でしょうか?」
俺の申し出に、ギルド職員は頷きながらメモをとっていくと、
「それでは手続きをいたします。指導は1刻単位で行われ…………(省略)…………。次回の予約に関しては指導終了後にこちらにてご確認ください」
「では、それでよろしく」
その場で500バースを支払うと、俺はシロとメアリーを連れて訓練場へと向かった。
………………
ここは訓練場手前の踊り場。
俺たちは槍を手にもち指導員が来るのを待っていた。
「お主らかのう? 儂の弟子になりたいというのは」
後ろから白髪の爺さんが声をかけてきた。
「俺はゲン、こっちが従魔のシロ、そしてメアリーです。弟子になるかは別にして槍の指南をお願いします」
「さよか」
爺さんは長い顎髭をしごきながら、
「儂の名はカニサイじゃ、よろしくのう」
(カニサイねぇ。そういえば日本にも可児 才蔵という槍の名手がいたなぁ)
ということで槍の稽古が始まった。
構え・見切り・足さばきと、どれをとっても剣とは違う。
だがその動きはちゃんと理にかなっているのだ。
ほうほう、これはこれで楽しいかもしれない。
そしてあっという間に1刻が過ぎ今日の稽古は終了した。
「お主らなかなかじゃのう。こりゃ明日からも楽しみじゃわい。ほ――ほっほっほっ……」
そう言ってカニサイ爺は去っていった。
「メアリー、大丈夫だったか?」
「うん、楽しかった! 明日もあるの?」
やる気十分で安心した。
子供に訓練はどうかと心配したのだが杞憂だったようだ。
さて、帰るには少し早いよな。
そこで俺たちは中央広場の方へ足をむけた。
お金も入ったことだし、少し買い物をしていこう。
スイーツ用のボールや器も揃えたいところだが……。
俺たちはまずシベア防具店に向かった。
メアリー用の革のヘルムとミトンを発注するためだ。
「任せときな、オレっちがビッとしたヤツを3日で作ってやんよ」
とのことなので、代金を支払いお願いしておく。
(どう考えてもヤツが店主だよな。……たぶん)
そこはまあ、色々と込み入った事情があるんだろうな。
仲良くなったし、そのうち聞いてみますかね。
さてお次は……と、
んっ、前を歩いていたシロが止まって尻尾を振っている。
馴染みの串焼き屋の前だ。
三本買って近くのベンチに腰掛けて食べる。
メアリーが水の入った器をシロの前に置いたり、串から肉を外したりと世話をやいている。
メアリーはとても良い子なのだ。
………………
俺たちは買い物を終えて家路につく。
今日は歩きたいと言うのでメアリーと手をつないで家まで帰った。
そして翌朝。
今日も槍の稽古のため、朝から冒険者ギルドにやってきた。
先にカウンターにて500バースを納め、時間までは掲示板に貼ってある依頼を眺める。
そして鐘のなる前には練習場に入り、キッチリ1刻 (2時間) 槍の訓練に励む。
依頼のほうは久しぶりに薬草採にした。
たまには、森でのんびりと薬草採取もいいだろう。
町の北門を抜け街道の脇きに入り、
――トラベル!
俺たちはいつもの森の丘に出てきた。
とりあえず薬草を集めてまわるか。
森の中をシロと一緒に駆けまわるメアリーは楽しそうだ。
長距離の際はシロの背に二人で跨って移動する。
昼食は森の丘でオークやハイウルフの肉を焼いてみんなで食べた。
昼からは魔法の訓練だ。
今使える攻撃魔法を順に放っていく。
次は速射魔法の訓練。
得意な属性でつぎつぎと打ち出していく。
的になっているのは我らがシロちゃんなんだけど、全く当たらない。
ていうか、一生かけても かする事もないだろう。
そこでシロと相談。残像を残してもらうようにしたのだ。
まあ、簡単にいえば忍者がやってるような『分身の術』だな。
これがなかなか楽しい。メアリーもキャッキャいってやっていた。
そして、手加減はしっかりと教えていく。
命の危険がある時以外は人前で魔法は使っちゃいけないとも教える。
貴族でない俺たちは人前で魔法を見せるべきではないだろう。
………………
シロには水を、メアリーには果実水を出して休憩に入る。
そこで気になっていることを聞いてみた。
「メアリーはお父さんやお母さんのことは覚えているの?」
しかしメアリーは顔をふるふると横にふり。
「おじいちゃんだけ」
そう小さな声で答えてくれた。
そっか……、それなら無理に急ぐこともないのかな。
ぼちぼちと探していくことにしよう。
しばらくはこの町でゆっくりして。
そのあと王都や迷宮都市に行ってみるのもいいかもね。
特に王都は広いということだし、なにか伝手があると助かるよなぁ。
伝手か……。
よし、あいつに聞いてみっか。
薬草採取を終えた俺たちは、早目に切り上げて『ナナの魔道具屋』へ向かった。
「よぉ、にゃにゃ。元気にしてるか~」
「にゃんども言ってるにゃ。にゃにゃにゃ、にゃくて、ニャニャにゃ」
いつものやり取り。そしていつものご挨拶である。
「ナナ、こっちはメアリーだ。シロの妹になった」
「あちきはニャニャ。よろしくニャー」(ナナです)
「今日はどうしたニャ。ベルトはもうしばらくかかるニャン」
「その件ではないんだ。実は今度王都に行ってみようと思ってるんだ。そこで顔の広~いナナだったら知人を紹介してくれるかなぁ、てね」
「えっへん。確かにあちきは顔が広いのニャ、王都なら商人でも宿屋でも紹介できるのニャン」
「そうか、それは凄いな。さすがナナだ。頼りになるなぁ」
「当然ニャ、いつでも来るニャン」
「それじゃあ、またその時は頼むな!」
そういってナナの大好物な川魚をカウンターに置いて店をでた。
行商にでた折、川で獲ってきたヤマメのような魚だ。
釣ったのではなく、シロがこの程覚えた雷魔法でとったヤツだな。
それから4日が過ぎ。
メアリー用のヘルムとミトンはしっかり出来ていた。
槍の訓練はとてもおもしろく、延長を申し込んだのだがカニサイ先生は少しモンソロを離れるそうな。
槍の指導のほうは、また帰って来てからという話になった。
そして俺たちはというと、ダンジョン・サラの8階層に来ていた。
「(槍と魔法)いっぱい練習したからモンスターと戦ってみたい!』
メアリーが言いだしたのだ。
それで特に用事もなかった俺は、こうしてダンジョンまで来ているわけだが。
メアリーがめちゃくちゃ張り切っているのだ。
シロに跨って右へ左へ駆けまわっている。
(そりゃそうだよな。槍と魔法の訓練に加えて身体強化まで会得しているのだから)
――腕試ししたいよね。
そんでもって、あっという間に8階層、9階層を突破。
只今10階層の半ばまで来ていた。
阿吽の呼吸の如く、シロとの連携もスムーズである。
誰だよ! シロに乗れとかいったヤツは。
(は――――っ!? どうすんのよコレ)
そして、とうとうたどり着いた10階層のボス部屋。
ここはどう考えても無理っしょ。
シロは1回クリアしているので一緒には入れないし、俺は入れるけど手出しはできない。
他に一緒に入ってくれる仲間もいない。
ならば一人で…………。
いやいやいや、無謀でしょう。
それに10階層のボスは『ゴブリンキング』だよ。2m以上あるんだよ。
長身から繰り出してくる槍をどうさばくのよ。
(絶対に無理だって!)
まあ、俺がついている以上、死ぬことはないだろうが。
叩かれても斬られてもすっごい痛いんだよ。
こんな可愛いメアリーに辛い思いはさせたくないよ……。