テラーノベル
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光の扉をくぐった瞬間、世界の色がすべて消えた。 白でも黒でもなく、名前のつけられない“空気だけの空間”。
音がない。風もない。
自分の鼓動だけが、やけに大きく響く。
「ここが……リンの心の中……?」
私の声はふわっと広がり、すぐに消えた。
まるでこの空間が、声の意味まで飲みこんでしまうみたい。
リンが私の手を握る。
「のあ……絶対に離れないで」
「うん」
ミルがすぐ後ろをふわりと漂っていた。
もう輪郭はほとんどなくて、光の粒が集まって形を作っているだけ。
(ミル……本当に時間がないんだ)
そう思うと胸が苦しくなる。
しばらく進むと、世界がゆっくり変わりはじめた。
白い空間に、色のしみがぽつり、ぽつりと落ちる。
しみは次第に形になり、景色が生まれた。
最初に現れたのは——小さな部屋だった。
机、棚、窓。
どこにでもある、普通の部屋。
でも、ただひとつ。
部屋の真ん中に“透明なリン”がいた。
小さくて、今よりずっと幼くて、声も出ないほど怯え切っていた。
「これ……リンの、過去……?」
リンは唇を噛む。
「あの日だ……
ぼくが初めて“甘くふるまうこと”を覚えた日」
透明の子リンは、必死に笑顔を作っていた。
でもその笑顔はひび割れていて、今にも泣いてしまいそうで。
ミルが小さくつぶやく。
「リンが“甘さ”を作りだした瞬間……」
胸がぎゅっと締めつけられた。
(リン……こんな小さな頃から、苦しんでたんだ)
今の明るさや優しさの裏に、こんな痛みがあったなんて。
私がそっとリンの手を握ると、
リンは驚いたように私を見て——
ほんのすこし、目を潤ませた。
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!ミルいなくなっちゃうの悲しいな…。リンも、苦しかったんだろうなのあさんが助けてくれるよね?!続き楽しみにしてます!