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「おまえの主、アンドレア・デ・プレザンスに嘘をつくというのか?」

 苛立ちをやり過ごしたかったが、感情が昂り過ぎて、怒気のこもった声で告げてしまった。そんな俺の気持ちを無視するように、カールは顔をあげない。

「カール、お願いだ。おまえの本当の気持ちを聞かせてくれ」

「私の気持ちはただひとつ。貴方様を伯爵家に相応しい当主にすることでございます」

「どんな顔でそれを言ってるのか、わかってるのか?」

 両肩に置いた手でカールの躰を揺すってみたが、顔を見せないようにするためか、首をもたげる。徹底的に拒否する姿勢を崩さない彼に、文句を言おうとしたら。

「私も本日は疲れました。大変申し訳ございませんが、お先に失礼いたします」

 深く頭を下げて一礼し、両肩に置いた俺の手を無理やり引き剥がして、寝室から出て行ってしまった。

「嘘だろ、おい……」

 両想いだから、絶対に拒否されることはないという自信があった。俺の告白を聞いて、うれし涙の一つくらい見られると思っていたのに。

「俺の作ったシフォンケーキを膝に置き、顔を突き合わせて、仲良く食べる夢まで壊しやがって!」

 一緒に蠟燭を吹き消した後に、俺の手からアイツがシフォンケーキを食べる。「アンドレア様が作ったとは思えないくらいに、とても美味しいです」なんて言われて、俺は照れるんだ。そして――。

『俺のプレゼントであるカールを、これから食べたいんだけど、いいか?』って言った俺に、カールは恥ずかしそうな顔で、シャツのボタンをみずから外して。

「美味しくお召し上がりください」

「とかなんとか言えよ、俺の誕生日だったんだぞ。昨日の話だけどな!」

 そう今日は、カールの誕生日。だからこそ腹を立てて、逃げてしまってはいけない。

 隠していた紅茶のシフォンケーキを取り出し、力任せに蝋燭を五本突き刺して、寝室をあとにした。湧き上がる怒りが靴音になって出てしまっているが、こればかりはどうしようもない。

 階段を駆け下りた先にある、目当ての人物が住まう部屋の前に到着。迷うことなく、扉を拳で殴りつけた。

「カール、いるんだろ? ここを開けてくれ!」

 しつこく扉を殴ってやったら、強張った顔のカールが中から出てきた。

「アンドレア様、今は夜中ですよ。まわりの迷惑を考えて行動していただきたく、お願いいたします!」

「おまえが俺に迷惑なことをした結果が、これだ! 中に入れろ!」

 大声を出した俺を制するためか、声を殺して忠告したカール。怒った顔の執事様を押しのけ、強引に突入する。扉を閉めた音のあとに、室内灯がつけられた。

(以前ここに来たのは、いつだっただろうか。代わり映えしない部屋だな)

「次期当主が夜分遅くに、使用人の部屋に来るものではありません」

 まじまじと室内のあちこちに視線を飛ばす俺に、カールはふたたび注意した。

「しょうがないだろ。おまえの誕生日を、どうしても祝いたかったんだ」

 本当は笑って手渡したいのに、素直じゃない自分が出てしまう。不機嫌丸出しで、皿に乗せられた紅茶のシフォンケーキを、カールの手に押しつけた。俺の態度が気に食わないのか、困った様相を見せつけ、それを受取ろうとしない。

 仕方なく皿を引っ込め、質素な机に優しく置いた。なにもない机に置かれたシフォンケーキは、まるで俺の心のよう。好きな相手に拒否された挙句に触れてもらえず、ずっとひとりきりなところがソックリだと思った。

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