テラーノベル
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10
MAKO
龍
K「よーし…始めますか!」
ケイティは魔導書を集めた図書館のテーブルの上に綺麗にカットされた宝石がごちゃごちゃに入っている箱を開けて18人と1匹分の宝石を選んだ。
指輪のリング部分は既製品のそこそこ良いやつを選んだので経年劣化もその辺で適当に買ってきた指輪よりはマシだと思われる。
まぁ最悪数年に一度作り直せば良いだけだ。そこまでリングに拘る必要はない。だって魔法を込めるのは宝石の方だから。その宝石を使い回してリングを新調していけば何百年でも魔法は劣化しないし、その都度必要な魔法を足すこともできる。
とりあえずどんな魔法を宝石に込めるか考えていたメモ用紙を並べて、これは絶対に必要でこれは無くてもいいかなと思うものなどに分類して陣を描いていく。
魔力を多く消費するが効果が強力な防御魔法を中心に、上下左右へ防御補助魔法、その隙間に落下時のダメージ軽減、空中浮遊、外殻を作る魔法陣などを足していき、あとは攻撃力上昇、体力増強、回復の魔法を足していった。
あっという間に用意していた魔法陣は床一面に描き上げられた。
魔法陣の中心に宝石を置いて魔術を発動させるために魔力を込めて、宝石に魔法がいつでも発動するように封じ込む。
宝石が壊れない程度にゆっくりと魔法陣が小さな小さな宝石の中に描き写されていく。
床一面に描いた魔法陣が光り終わると1個目の宝石の加工は完了だ。2個目以降は魔法陣は使い回して問題ないため、あとはケイティの魔力量次第だ。
ケイティは消耗した魔力を補うために、魔力回復の薬を小瓶から飲んだ。まだまだストックはあるから魔力切れで動けなくなることはないだろう。きっと。
さて、あと18個分。石を入れ替え、魔力補充の薬を飲みまくり、19回目の最後の転写が終わった頃には魔法陣の外側に小瓶がずらりと並んでいた。
流石に飲み過ぎて気分が悪い。
美味しいものでもないのにこんなに大量に飲んだのは初めてかもしれない。
若干フラフラしながら机に戻って今度はリングの台座に宝石を乗せていく作業をしなくてはいけないと宝石を回収して机に戻ると、メモとともにオムライスが置いてあった。
メモには「1日目朝✕昼✕夜✕ 2日目朝✕昼✕夜✕ 3日目朝✕」と書いてあったもう2日もご飯を食べなかったのか、とそこで気づいてお腹がぐぅ~と音を立てる。
K「3日食べないのはマズイ…とりあえず食べよう」
ケイティはオムライスにスプーンをぶっ刺して口に運ぶ。恐らくロノが作ってくれた料理を2日間無視していたというのはちょっと申し訳なさが出てきてしまう。冷めてしまったオムライスを完食して魔法で綺麗に洗って机の端に置いた。
食後の紅茶が飲みたいなぁと思いながら不味い魔力回復の薬をグビグビ飲む。
まだまだ宝石に魔法を込めただけだから指輪に融合させて実用品にする過程が残っている。普通であれば魔力のない人間でもリングに宝石をつけることはできるだろう。しかし、この宝石をリングに嵌め込む時にも魔法を追加できるし、リング自体にも魔法を込められる。
ケイティはパチンと指を鳴らして魔法陣を消すと、またメモを見ながら必要な魔法を中央から順番に描いていく。
中央の魔法陣は指輪がどんな衝撃を受けても宝石が指輪から落ちてしまわないように固定する魔法、上下左右には魔法防御の魔法、洗脳を防ぐ魔法、毒の無効化魔法、身体能力向上の魔法陣を描いていく。
リング部分に込める魔法は多分これが限界に近いので、魔法陣は割とすぐに完成した。あとはまた19回リングと宝石の間に魔力を流し込んで転写するだけだ。案外早く終わりそうかも?徹夜3日目のケイティは別世界から持ってきたエナジードリンクをごくごく飲んで眠気を吹き飛ばす。
K「あはは、あと19回やったら終わる〜!!明日にはできるかなぁ?というか今何時なんだろ……まぁいっか!兄ちゃんか兄さんがご飯持ってきてくれるからその時に聞こうっと」
ケイティは完全に寝るという選択肢が見えておらず、とにかく早く指輪を完成させたいと指輪に魔法を転写する工程を繰り返した。
N「おい、飯だぞ。ここ置いとくからな。
………聞こえてるか?おーい、ケイト!飯!」
ノワールが夕飯を運んできてケイティに声を掛ける。大声で名前を呼ばれてようやくケイティは声のした方を見てノワールが食事を運んできてくれたんだと理解した。
K「兄ちゃん!あのね、あと10個で終わるの!それで今何時?これって何ご飯?」
N「今は18時だから夕飯だ。昼は食ったんだな?お前が倒れたら執事達も心配するから飯はちゃんと食えよ?あとちょっと仮眠くらいしろよ?寝てないとお前変なことするからな」
K「変なことする…??したことあった?」
N「あぁ、毎回しばらく寝ないで作業して、それが終わってから2〜3日眠り続けるだろ?その時の寝起きの機嫌が悪すぎるんだよ、お前」
K「えー……そうだっけ?」
N「お前、折角兄さんが作った飯を食わないって言い出して、流石に兄さんがキレて大喧嘩に発展したことあったろ?お前が100悪いのに「この女装癖変態野郎」って言ったから数年口利いてもらえなくなったの忘れたか?」
K「あっ………あったね、うん………えっと、ごめんなさい?」
N「悪いと思ってるんならキリのいいところまでやって仮眠室で寝ろ。それかパレスに戻って寝ろ。パレスなら点滴して貰えるから安心して寝込めるぞ?」
K「点滴!?嫌だ!!」
N「じゃあちゃんと飯食ってしっかり寝ろ。良いな?」
K「……はーい……」
ノワールは食事をテーブルに積み上がった魔導書やメモをどかして置き、昼食の皿を回収して、メモに「3日目朝✕昼○夜○」と書いてケイティが食事を摂り始めたのを見届けてからパレスに戻った。
翌朝、朝食を持ってブランがケイティの図書館に来た。
夕飯の食器を回収して朝食を置く。
B「キティ?朝ご飯だよ!どこにいるの?」
陣は魔力の供給が止まってただの落書きと化しているし、魔法が込められたであろう宝石が机の上に数個見つかったので指輪を作り終わったわけではないことが分かる。
しかし、完成した指輪とケイティが見当たらない。
仮眠室で寝ているのだろうか?ブランは首を傾げながら仮眠室に向かった。
仮眠室のドアを開けると、ベッドではなく床に転がっているケイティがいた。
B「何してるの?折角ベッドがあるのに何で床で寝るかな…」
ブランはため息を吐いて獣の姿になるとケイティを背中に乗せてパレスに戻ることにした。
昨日は昼夜の食事は摂ったらしいがその前の2日間は食事を摂っていないし、トイレに行く時間も勿体ないからと水分もほとんど摂っていないだろうことは目に見えている。そして魔力回復の薬のオーバードーズも重なった結果、限界になってベッドまで辿り着けず床に倒れたのだろうと考えられる。
数日間回復薬のオーバードーズをして身体が悲鳴を上げてこうなったのだろうと思ったブランは、とりあえず医者の判断を仰ぐべきだという結論に至ったのだ。今まではぶっ倒れているケイティをベッドに寝かせて口に無理矢理スープを突っ込んで食べさせていたが、パレスには医者がいるので、もっと最適な方法で治療をしてくれるだろう。ケイティが飲みまくっていた回復薬の取扱説明書を探し出し、どれくらい飲んだのかを数え、獣の姿でケイティを背中に乗せて口に取扱説明書を咥えて大きな姿見からパレスに戻った。
🫖「おかえりなさい…え、主様!?どうなさったのですか!?白い毛皮ということはブランさんですよね?一体何が…いえ、その前に主様の状態を確認するべきですよね。ルカスさんを呼んできたほうがよろしいでしょうか?」
B「頼むよ。医者の判断を仰ぎたいんだ」
🫖「かしこまりました、すぐに呼んで参ります」
ベリアンがルカスを呼びに行っている間に、ブランはケイティを落とさないように気をつけながらベッドに登ってケイティをベッドに寝かせた。そして上半身が自分の背中にもたれ掛かるようにベッドとケイティの間に身体をねじ込んで丸まった。今のところ呼吸や脈の乱れはないから多分脱水と栄養失調とオーバードーズの要素が重なってぶっ倒れたのだろうと予想していたが、心配なものは心配なのだ。
例え寝起きの機嫌が悪すぎて、スープの入った皿を投げつけられようとも、酷い罵詈雑言を浴びせられようとも、魔法で攻撃されて火傷や怪我を負おうとも、ケイティのことを嫌いにはなれなかった。
契約で縛られているから仕方がないと思っている面もあるだろうが、自分達以外に飛んでくる皿や魔法を簡単に防いで簡単ではあるが治療を行える人は居ないという自負もある。どんなに酷い寝起きでもベリアンやルカスを傷つけないように、いつでもケイティを正気に戻せるように、ブランは最悪ケイティを殺してでも大人しくさせようと枕になりながら考えていた。
🫖「お待たせしました!ルカスさん、お願いします」
🍷「分かったよ。お兄さんはそのまま狼の姿でよろしいのですか?」
B「あぁ、最悪殺してでも大人しくさせないといけないからね…」
🫖「こ、殺す!?どうしてです!?暴れようが治療の拒否をしたりしようが殺すだなんて…!!」
B「そんなぬるいことで済めばいいんだけどね、僕達はかなり寝起きの…特にこんな風にぶっ倒れた後目覚めた時の機嫌の悪さで鍛えられたところがあるから」
🍷「具体的にどのようなことをされるのですか?」
B「食事の入った皿を投げつけてきたり、罵詈雑言浴びせてきたり、魔法で攻撃してきたり…かなぁ。罵詈雑言は聞き流せばいいけど、物理攻撃と魔法攻撃は防御魔法がないと怪我するよ。寝ぼけている間だけ気をつければいいだけなんだけどね、かなり危ないから最悪1回死んでリセットする手もあるんだよね。今回はオーバードーズもしてるから回復に時間かかりそうだし、1回殺すほうが楽かもしれないなと思っているところだよ」
🍷「そうなのですね……ちなみにオーバードーズしたという薬はどんな物ですか?」
B「これが取扱説明書。瓶がざっと数えて30はあったから1日10本くらい飲んでたみたいだよ」
🍷「1日2本までにするように書いてありますが…どうしてそんなことを…?」
B「効能を見たら分かると思うよ。執事さん達が安全に天使狩りができるようにって18人分魔道具を作っているみたいだったから。これは使い果たした魔力を無理矢理回復させる薬だから身体への負担が大きいんだけど、キティは無駄に身体が丈夫だからね…それでも1日10本は無理だったみたい。あとこれ、食事を摂ったかのメモと水分をどのくらい摂取したかをざっくり魔法で測ったメモ。多分脱水と栄養失調とオーバードーズで酷いことになってると思う」
ルカスは目を覚まさないままぐったりしているケイティとメモを見て頭を抱える。
🍷「これでよく生きていたね?どうしたらこんな量の食事と水で生きられるんだ…?とにかく脱水は確実にあるから点滴をしたほうが良いでしょうね。アルコールは大丈夫な方ですか?」
B「あぁ、大丈夫。酒には弱いけど消毒なら問題ないはず…」
ルカスが栄養と水分の補給ができる点滴を持ってきてケイティの腕に刺した。
🍷「これで主様が寝ぼけて攻撃してこなければ問題は無いはずです。お兄さんは主様が目覚めるまで見張りをなさいますか?」
B「うーん…僕一人じゃ自分の身を守るので精一杯だから、ノワールとラト君を呼んできてもらえるかな?どうせ殺すなら壊したがってたラト君にやってもらいたいし、これ以上パレスの方に迷惑かけたくないんだよね」
🍷「主様を壊す……ミヤジが許さないかもしれませんよ?」
🫖「他にも方法がありますよね?正気を取り戻す方法をご存じないとは思えません」
B「………はぁ、鋭いね。確かに手っ取り早く正気を取り戻させる方法はあるよ。でも身体にかなりの痛みを与えないといけないから、飛んでくる魔法を防ぐか避けるかしながら近付いて攻撃するしかない。だから最初から側に居ることですぐに正気を取り戻させるつもりだったんだ。まさか背もたれにしている物に攻撃されるとは思わないだろうからね。じゃないと僕じゃ太刀打ちできない。だから念のためノワールが居てくれたほうが心強いんだよね。ノワールは攻撃食らってもそこまで酷い怪我をすることはないから」
🫖「………主様が普通の女の子ではないと思っていましたが……ここまで普通じゃないとは思いませんでした……
寝起きの暴走を避ける方法は無いのでしょうか?」
ベリアンはケイティに痛みを与えて正気に戻すなど断固拒否したいらしい。
🍷「そうだね……できればもっと安全で穏便な方法があったらそれを試したいところですね。寝起きで暴走しないために必要なことは何なのでしょうか?」
ルカスもケイティの暴走はできるだけ避けたいと考えているようだ。それはそうか、最悪死人が出るから。ブランはしばらく考えた。暴走せずに起こす方法が思い出せるようで思い出せない。
そんなとき、無遠慮なノックが響いてノワールが入ってきた。
N「ルカス先生が点滴取りに来たってナックが言ってたから多分ケイトが寝込んだんだと思って」
ノワールはズカズカとケイティの寝ているベッド近づき、起こすか否かを尋ねた。
B「最悪ノワールかラト君に壊してもらおうかなって思ってるんだ」
N「あぁ、最悪な。まぁでも暴走しない起こし方すればいいだけだろ?」
🫖「!そんな方法があるのですか!?」
N「あるぜ?寝てる間に殺してしまえば次に目が覚めたときはぼんやりした意識から徐々に覚醒するから状況把握がしやすいらしいしな。まぁどうせその後数日はベッドから動けないだろうけどな。生き返るためのエネルギーと魔力はかなり消費するから、特にこういう魔力切れの時に殺すと復活まで時間がかかるんだけどな」
🍷「他に方法はありませんか?主様が穏やかに生きられることは無いのでしょうか?」
N「うーん……まぁ好きなだけ寝てから起きればそこまで酷いことはしないと思う。執事さん達の前では可愛い女の子として振る舞っているから目覚めた瞬間に執事さんの顔を見たら多分落ち着くと思う」
B「あぁ、なるほどね。守るべき存在だって認識してる執事さん達の顔を見せるのは効果的かもね」
🫖「では、私がお側に居ります。ルカスさんはお忙しいでしょう?」
🍷「主様より優先する仕事はないから安心して?私も主様の寝起き見てみたいので一緒に見ようよ、ベリアン」
N「もう昼飯の時間だから起こして食堂に連れて行って、ついでに風呂に入らせようぜ」
7時頃に倒れているのを発見されて、約5時間が経過して正午に近くなるとノワールがブランに寄りかかって寝ているケイティを揺さぶる。
N「おい、起きろって。昼飯食って風呂入ったらまた寝られるから少しだけ起きてくれ」
K「ん………ぅう…………いらない……お風呂嫌い……」
B「でもせめて毎日シャワー浴びるくらいしなよ。正直ちょっと臭いよ?服着替えることすらせずに頑張ってたのは分かるけど、こうしてぶっ倒れるなら限界突破してまで魔道具作らないでよ」
K「うるさ……私の勝手でしょ?何日か寝れば回復するから放っといて。鏡の中の世界なら何日寝ても現実世界では1日くらいしか経たないから今すぐ戻して寝かせて」
ケイティはノワールを睨みつけ、ベッドから飛び降りると片手に魔法陣を展開した。
これは乱闘騒ぎになってしまう!?とベリアンとルカスが身構えると防御魔法が展開されてベリアンとルカスを閉じ込めた。
K「私の寝る邪魔をするな!!!」
ノワールに向かって一般攻撃魔法を投げつけ、ブランには手から出した雷魔法を投げつける。
2人は慣れた様子で防御魔法を張って防ぐ。
ケイティがさらに苛立った様子で魔法陣を描いていくのをルカスが慌てて止める。
🍷「主様、今は安静にするべきです。点滴だってしているのですよ?」
ルカスに止められてケイティはハッとする。
そう言えば頭がグラグラで熱っぽくて酷く喉が乾いていたがとりあえず寝たらなんとかなると思って水も飲まずに仮眠室に向かったのは覚えている。それがいけなかったのだろうか?とケイティはちょっとずつ正気と記憶を取り戻していく。
🍷「主様、貴女は今重度の脱水と栄養失調が見られます。それに魔力を回復させる薬の過剰服用……医者としては絶対にこの状態で帰らせることはできません。良いですか、貴女はしばらくの間部屋で安静にしていてください。私のお願い、聞いてくれますか?」
ルカスの圧のある笑顔に頷くことしかできず、ケイティは食事と風呂を済ませて、寝る時間になったら必ずパレスに戻って寝ることを義務付けられた。
ケイティは爆速で魔道具を量産したかったのに…と残念そうだが、執事が居る前で兄弟に攻撃魔法を放ったことは事実なため、普通の生活を送って正気のままでいてほしいとベリアンからも懇願された。
ケイティはこれは約束を破ったら執事達全員を危険に晒す可能性があることと自分が倒れたら執事達はきっとまたすごく心配されるのだろうと悟った。
それから魔道具…執事達に贈る指輪の製作はもうちょっとゆっくり進めないといけないなと痛感した瞬間だった。
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