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ミチルとハルカは凍りついた。
地下の廊下。
湿った冷気の中に立つのは――
自分たちそっくりの少女2人。
ミチルにそっくりな“影ミチル”。
ハルカにそっくりな“影ハルカ”。
だけど、その表情は――
青白い肌と、深い涙の跡。
まるでずっと泣いていたような絶望の顔をしていた。
影ミチルが、震える唇で言った。
「見つけてくれて、ありがとう……」
その声はまぎれもなく、ミチル自身の声だった。
ミチルは喉が詰まったように、言葉を失う。
「え……な、なに……?
私……なの……?」
影ミチルはゆっくり頷いた。
「うん……。
あなたと同じミチル。
でも……“あなたじゃないミチル”。」
影ハルカも一歩前に出る。
その動きは人間というより、幽霊めいた静けさ。
「お願い……話を、聞いてほしいの。
そして……私たちを助けてほしい……」
ハルカの腕が震える。
「た、助けるって……どういうこと……?
だって……あなたたち、お化け……なんじゃ……」
影ハルカは首を横に振った。
その仕草は驚くほど、本物のハルカと同じだった。
「違うの……。
私たちは“お化け”じゃない。
“あなたたちの、別の未来”……」
ミチルもハルカも息を飲む。
「未来……!?」
「ちょっと、わけ分かんないんだけど!!」
影ミチルは静かに説明を続けた。
「……私たちはあなたたちより数日先の未来を生きていた。
同じようにここに来て、ライブ配信をした。
お化けを撮ればバズると思って……」
ミチルの心臓がドクンと跳ねる。
影ミチルは涙を流しながら続けた。
「でも……私たちは“ここから出られなかった”。
地下に閉じ込められて……
気づいたら……“影”になっていたの……」
影ハルカが手を震わせて顔を覆う。
「誰も助けてくれなくて……
スマホも勝手に動き出して……
“私たちの声”だけが、ネットに残るようになって……
最後に投稿したのが、“見つけて”の動画……」
ミチルは胃がきゅっと痛くなる。
「じゃあ……
あの動画……地下で逃げ回ってた私たちの姿は……」
「“私たちの最期”」
影ミチルは静かに言う。
「でも、諦めきれなかった。
生きていた頃に戻りたくて……
あなたたちに助けてほしくて……
なんとか“未来のデータ”を遡って、
あなたたちのスマホに動画を送ったの。」
ハルカは涙を流した。
「そんな……そんなの……
助けられるわけ……」
影ミチルは首を横に振った。
「ううん、助けられる。
まだ間に合う。
ここに“鍵”があるの。」
影ハルカが、3番隔離室の奥を指差す。
「あなたたちがここに来たってことは……
もう選ばれてるんだよ……」
ミチルは息を呑んだ。
「選ばれてる……?」
「“私たちが消える未来”ではなく、
“あなたたちが生き残る未来”を選ぶために」
影ミチルが微笑む。
その笑顔はどこか儚い。
「どうか……お願い。
私たちの代わりに、この地下の“真実”を見つけて。
そうしないと……あなたたちも、
私たちと同じ“影”になっちゃう……」
ミチルの心臓が早鐘のように跳ねた。
“影になっちゃう”
その意味は――命を失うということなのか。
ハルカはミチルの袖を掴む。
「ミチル……帰ろうよ……怖すぎるよ……
こんなの、どうしたらいいの……」
ミチルは震えるハルカの手を握り、言った。
「……怖いよ。
でも、逃げても追いつかれるなら……
だったら、向き合うしかない。」
影ミチルが微笑む。
「そう……。
あなたはいつだって強い。
だからお願い――」
そして影ミチルは、
ゆっくりと後ろに下がりながら言った。
「“記録保管庫”を見て。
すべての始まりがそこにある……」
影の2人は薄く透け始め――
まるで霧に溶けるように、消えていった。
ミチルは拳を握りしめた。
「……行こう、ハルカ。」
「本当に……やるの……?」
「うん。“私たち”のためにも。」
2人は歩き出す。
照らすライトの向こうには――
《記録保管庫 →》 の案内板。
そして
“記録保管庫”の扉の隙間から、
誰かがこちらを覗いているように見えた。
その目は、真っ暗だった。