『広報部』とプレートに書かれたフロアに足を踏み入れると、「おはようございます!」と、あちこちから明るい声がかかった。
「ああ、おはよう」と、蓮水さんが笑顔で応える。
「広報部は、一課から三課まであるんだ」
広いフロア内を歩いて、ちょうど真ん中辺りで立ち止まると、
「みんなちょっといいか? 紹介する、イラストレーターの三ッ塚 鈴さんだ」
私の身体に軽く手を添えて、一歩手前へ押し出した。
「はじめまして。三ッ塚 鈴と言います」
頭を下げると、期せずして周りから拍手が湧き起こった。
「イラストを描いてくださった方ですよね? イラスト拝見しました、とっても素敵で!」
近くの席からそう声がかけられて、「あ、ありがとうございます!」と、もう一度ペコっと頭を下げた。
「イラスト、今度私たちも描いてくれませんか?」
「私も、描いてほしいです」
女性社員さんたちから口々に言われて、「は、はい」と、恐縮して応える。
すると、傍らで黙って聞いていた蓮水さんが、たくさんの人たちに取り囲まれて強張る私の背中にスッと片手を添えて、
「みんな、描いてもらうのは、私優先でお願いしてもいいかな?」
さり気なく緊張を和らげるように口にした。
周りからわっと笑い声が上がって、場が一気に和むのと同時に、私自身の強張りも自然と解けていくようで、やっぱりこれだけの会社を築き上げてきただけあって、雰囲気作りも上手くて……と、感嘆しきりで横に立つ彼《か》の人の顔を見上げた──。
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