上の階へ上がって、営業部、総務部と廻って行く。
社員の方たちは、みなさん気さくで、イラストレーターだと蓮水さんが紹介をすると、揃ってイラストのリクエストをしてくれた。
イラストレーターをフリーで長くやって来たけれど、こんなにも引く手あまただったこともかつてないくらいで、最初こそ緊張したけれど、たまらない嬉しさがじわじわと込み上げてくるみたいだった。
「みなさんいい方たちばかりで、たとえ社交辞令だとわかっていても、リクエストをしてくださるのってありがたいです」
廊下を歩きながら、蓮水さんにそう言うと、
「社交辞令?」と、不思議そうに問い返された。
「社交辞令、ですよね? あんなに描いてほしいって言われてるのは……」
「いや、それは違う」
そうきっぱりと答えて、「みんな本当に描いてほしいと思っているから、君にそう言っているはずだ」と、私に真っ直ぐに顔を向けて話した。
「それに社交辞令は、我が社では禁止事項だからな」
ニッと爽やかに歯を見せて笑う。
もう……どうしよう、そんなに素敵に笑ったりしたら、本気で心臓がもたなくなりそうで……。
ドキドキと鼓動の早まる胸に片手をあてて、知らず知らずのうちに惹かれてしまいそうな想いを、なんとかなだめて押しとどめようとした……。
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