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いつも澄ましている弓弦のただならぬ雰囲気に一同は顔を見合わせ、一体何があったのだと視線を投げかけた。
「ゆづ、ちょっと落ち着いて。一体何があったの?」
酷く動揺した様子の彼を気遣い、美月がそっと背中を擦って声を掛けると、彼はハッと我に返ったように肩を揺らし、それからゆっくりと深呼吸をして息を整えた。
「姉さん……。すみません、取り乱しました」
「草薙が慌てるなんて珍しいじゃん。学校で遅刻しそうになっても悠々と登校してくるようなヤツなのに」
「わ、私は時間に余裕をもって行動しているので遅刻なんてしません! そうでは無くて、大変なんです!」
東海が横から茶化すと弓弦は再び声を荒げた。
普段は冷静沈着を絵に描いたような青年がこんなに慌てるなんて一体何が起きたのだろう?
「草薙君、詳しく聞かせて貰えないか?」
蓮がそう尋ねると、弓弦はコホンと咳ばらいを一つして、美月から受け取ったドリンクを口に含み、深呼吸を一つしてから神妙な面持ちでゆっくりと口を開いた。
「実は、番組制作に携わっていたCG担当の方がここ数日無断欠勤を繰り返していて、心配した他のスタッフが様子を見に行ったらしいんですが、行方不明になっている事が判明したんだそうです」
「行方不明?」
その場に居た一同に衝撃が走る。
「行方不明とは穏やかではないね。居場所はまだわからないって事だよね」
「そこまで詳しくは知りませんが……。部屋に行ったスタッフによれば部屋はもぬけの殻で既に引っ越しが完了した後だったと。床に番組を途中で投げ出してしまう事への懺悔が書かれた紙が落ちていたと聞きました」
「……うそ、え? どうすんだよそれ! CG担当居なくなっちゃったら誰がエフェクトかけたり、ロボット合成させたりするんだよ」
「第一話は既に放送されてしまいましたし……枠も押さえてあるのでスタッフさん達が今必死になって代役を探しているようです。ですが……」
「今から探した所で、日数的にも代わりを見つけるのは難しいかもしれないわね」
美月の言葉に、一同は揃って黙り込んだ。
CG担当が消えた。つまり、代役が見つからなかった場合、番組の制作がストップしてしまうと言う事だ。
最悪の場合、打ち切りという可能性だってあり得ない話ではない。
ある程度撮りためてはいるものの、それだってひと月分くらいしか無い。
一体どうしたら……。
「それだけじゃないぞ」
重苦しい空気の中、追い打ちを掛けるように背後から声がした。
振り返れば、そこには険しい表情をした兄の姿。その表情を見てその場に居合わせたみんなの表情が瞬時に強張る。
「兄さん……」
「実は、今日OSCから、正式にスポンサーを降りると連絡があった」
「え? はぁ!? ち、ちょっと待って! 兄さん! OSCって……」
兄の口から発せられた単語に驚きを隠せない。それはみんなも同じようで、目を丸くしながら口々に質問をぶつけ始めた。
それもそうだ。OSCと言えば日本を代表する大手メーカー。CMでも頻繁に見かけるし、自分達が出演する番組のメインスポンサーでもあった。
そんな企業が、スポンサーを降りた……?
とてもじゃないが信じられない。
「原因は、わかっているんですか!?」
美月がいつになく悲壮感漂う顔で凛に詰め寄る。
「原因はだな……」
「OSCの代表取締役の人……監督の奥さんなんだって。それで、浮気がバレて奥さん怒って出て行っちゃったみたいで」
凛の後ろから突如現れたナギが神妙な面持ちでそう告げる。
その瞬間、一同は一斉に脱力し、はぁ~と大きな溜息を漏らした。
「そんな……」
「めちゃくちゃ私情挟みまくってるじゃん」
美月はガックリとうなだれているし、東海に至っては呆れた様子で頭を掻いている。かくいう自分も思わず力が抜けてしまった。
何だか一気に気が抜けたような気分だ。いや、だがしかし、これは由々しき事態だ。
「困りましたね。メインで動いていたCG担当者の不在に、大手スポンサーの降板……せっかく第一話が放送されて、注目度も上がって来ているのにこのままでは打ち切りになってしまうかもしれません」
弓弦の言う通り、これじゃああまりにもタイミングが悪すぎる。
何せ、CGは使えなければ、今後は巨大ロボットなしの展開に変更しなければならなくなるし、来るべきクリスマス商戦に向けて既に製作が始まっているおもちゃ業界にも大打撃になるだろう。
「嘘……。せっかく掴んだチャンスだったのに……」
「兄さん、この一カ月顔を出さなかったのは、今回のスポンサーの件と何か関係があるの?」
美月の絶望したような声を聞きながら、ずっと疑問に思っていたことを思い切って尋ねてみると、凛は静かにこくりと頷いた。