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#ファンタジー
#ざまあ
設楽理沙
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「きちんと挨拶しなさい? 歩美」
「あ、ゆみ……?」
香さんの言葉に耳を疑った。
今、“あゆみ”って言った?
「ごめんなさいね、この子恥ずかしがり屋で」
ドクンと心臓が跳ねる。
どういうことなの……?
頭がついていかない。
目の前にいるのは髪の長い女の子で、ワンピースを着ている。
けれど、確かに私のことを見て動揺している。
歩くんによく似た————女の子。
そして、横目で私の隣にいる泉くんを睨むとぼそりと呟いた。
「……泉の仕業か 」
その瞳は怒りを含んでいて、握りしめている手のひらが僅かに震えているように見えた。
「この子、普段男の子っぽくて女の子のお友達いないんじゃないかって心配だったの」
香さんは嬉しそうに私に微笑みかける。
「でも、よかったわ。貴方みたいに可愛らしいお友達がいてくれて」
「えっと……あの」
目の前で起きていることがわからない。
何が正しくて、何が間違いなの?
「歩美は学校ではどうかしら?」
「え、っと……」
「男の子っぽくしているから、男の子とばかりとヤンチャしていない?」
香さん以外、誰も笑っていない。
そのことを香さんは気にも留めていない。
「髪の毛もね、すぐ短く切っちゃうの」
そう。自分の話に誰がどんな反応をしようと関係ない様子で話を進めていくのだ。
「家では私がウィッグをつけて、女の子らしくさせてるのよ。だって、この方が似合うじゃない?」
私は何も答えていないのに、気にせず話が進んでいく。
どこか危うい。発言を間違えば、相手の心を乱してしまいそうで上手く返答ができない。
「お母さん……もう、やめて 」
消えそうなほど、か細い声だった。
みちよちゃんが苦しそうに香さんを見つめている。
「お兄ちゃんが壊れちゃうよ」
香さんから笑顔が消える。そして、無表情のままみちよちゃんに視線を向けた。
「みちよ、ダメじゃない。お兄ちゃんなんて呼んじゃ。お姉ちゃんでしょう?」
「っ、お母さん違うよ! お姉ちゃんなんていない!」
「……なに言ってるの? この子は、お姉ちゃんの生まれ変わりなんだから」
生まれ、変わり……?
みちよちゃんの瞳が大きく揺らぐ。そして、泉くんが小さく息を吐いた。
「香さん、ケーキを持ってきたのでお茶にしませんか?」
「まあ! わざわざ、ありがとう。そうね、紅茶を淹れましょう。お湯を沸かすわね」
香さんは手を叩き、上機嫌でキッチンへと消えていった。
残された私たちの間に流れる重たい空気。
「ちょっと来て」
「え……」
歩美と呼ばれていた人物に腕を引かれ、廊下まで連れて行かれた。
目の前に立っている長い髪の愛らしい顔をした“歩美”という人物。
その答えを私はもう、わかってる。