「そういえばこの前の絵だが、社内報に載せることが決まったから」
ふと足を止めて言われて、
「この前のと言うと、広報の方々を描いたあのイラストのことでしょうか?」
と、聞き返した。
「そう、あの絵だ。広報部長にも見せたが、そっくりだと笑ってたよ」
落書きみたいな軽い気持ちで描いたようなものが、たくさんの方々の目に触れる社内報に掲載されるだなんて、気恥ずかしくも感じられる。
出版社では全く需要がないようにも言われたのに、蓮水CEOのような権威のある方に自分のイラストをそこまで評価してもらえることが、改めて信じられないようにも思えた。
「あっ、ありがとうございます」
お礼を言うと、「いや、いいよ。あんないい絵を描いてもらって、お礼を言いたいのは、こっちの方だからね」そう話して、蓮水さんは口角を緩やかに引き上げた。
そんなたった一瞬の表情にさえ、心臓がぎゅっと鷲掴まれてしまう──。
いつの間にこんなにも惹かれちゃったのかな……。
胸の奥に湧いた思いは、いくら抑え込もうとしても泡のようにぽこぽこと湧き上がってくるみたいで、自分ではどうにも抑えられなくなっていて、
聞こえないよう小さくまたため息を吐くと、苦い思いで唇をぎゅっと噛み締めて、彼の後ろをとぼとぼと歩くしかなかった……。