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Über das glückliche Leben.

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Über das glückliche Leben.

220 - 第220話 Glück des Lebens -Heavenly Blue-11-2 暴力表現あり

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2024年04月29日

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 お前に会う日をどれだけ心待ちにしていたかと笑うリオンを透明な笑みを浮かべて家に招き入れたジルベルトだったが、ルクレツィオをソファに寝かせている為にお前を座らせられない、悪いと謝罪をする。

「気にすんなよ」

「……ルークはお前らに殺される前に俺が殺した」

 ソファの背もたれに尻を乗せて足下を見つつ呟くジルベルトにロスラーもお前かとヒンケルが問いかけると、拷問したあと川に向かって歩いて行けと突き飛ばした事を告白されて皆が顔を顰める。

「ああ、ドクの秘書を刺したのも俺だ」

「……ビデオ通話に映っていた二人の男はどうした?」

 ヒンケルとブライデマンが交互にジルベルトに尋問し興味が無さそうな顔で返事をする元部下に一歩ずつ近付くが、それを警戒する素振りも阻止する様も見せないため何かがあると気をつけ、その中でリオンがテレビに映し出されているのがリアルタイムの様子だと気付き部屋の中央で死んでいるのは誰だと問いかければ、あれはフィレンツェから連れてきた部下だと答えられる。

 運転などをさせていたが本当に優秀な男だったと少し寂しそうに答えるジルベルトにリオンが顔を向けてお前が殺したのかと問いかけると短い一言で肯定されるが、ケージの中央で鎖によって吊されているものが何であるかに気付いたリオンが限界まで目を瞠り、本当に趣味が悪いなとジルベルトを睨み付けると更に寂しそうな目で小さく笑う。

「……ボス、オーヴェの所に行きます」

「あ、ああ」

 ジルベルトを囲むようにしていた他の面々がリオン同様テレビに映るのが録画では無いと気付いてジルベルトを睨み付けるが、ヒンケルがリオンの言葉に頷きブライデマンよりもコニーが良いと判断を下して一緒に行けと命じる。

「……行くな」

 その時、ソファの背もたれを掴んでいたジルベルトの手が腰に回されてベレッタを取りだしたため室内に緊張が走り、BKAの刑事がジルベルトに狙いを定めて銃を構える。

「行くな、リオン」

 その声は喉を振り絞るように出され銃口は地下室への階段に向かいかけていたリオンの背中に向けられるが、照準を合わせられたリオンは肩越しに振り返っただけで何も言わずに地下室の階段を駆け下りていく。

 己の言葉に足を止めたが結局はウーヴェの所に向かうのだと見せつけられて当たり前かと自嘲したジルベルトは、取りだしたベレッタをヒップホルダーに戻すフリをし、そのままルクレツィオの時と同じように己の腹に銃口を当ててトリガーを引く。

「止めろ、ジル!!」

 その動きに気付いたヒンケルが制止の声を上げるが、それよりも早くに発砲音が二度響き、ダニエラやマクシミリアンが蒼白な顔でジルベルトの名を呼んで駆けつける。

「ジル!!」

 腹から血を吹き出しつつソファの背もたれから滑り落ちるように床に倒れ込んだジルベルトは、駆け寄ってくる元同僚達に何故そんな顔をすると笑いかける。

 二年前まではこの仲間達の傍で面白おかしい二重生活を送れていたのだ。 それが崩壊し、本来いるべき闇の世界に舞い戻ってからは文字通り光を無くしたように世界は暗く沈んでいた。

 ルクレツィオがジルベルトを太陽だと称していたが、ジルベルトにとっては今地下室に向かったリオンの存在が光だった事を改めて感じてしまい、出血のためにブラックアウトしつつある意識の中、己のこれまでの人生を振り返ってしまう。

 ルクレツィオは本当の意味での希望を今まで抱いたことはないと言っていたが、それはジルベルトも同じだった。

 ただ違ったのは、ドイツで刑事として働き出してからリオンという光に出会えた事実だった。

 それだけがジルベルトの中で希望と呼べるものとして存在していたのだ。

 その光を奪われ、傍にいることも奪われてしまえば生きている意味などなかった。

 そこまで追い詰められるほどリオンの存在はジルベルトの中で重く大きなものだったのだが、ルクレツィオの思いに気付きながらも応えられなかったのと同じ理由で目を背けていたのだ。

 最後の最後にそれに気付けたことが嬉しかったが滑稽でもあり、ああ、もう少し早く気付いて行動していればと呟くが、音になって出たのは滑稽だなと言う言葉だけだった。

「……警部……、俺、みたいなのが部下で、……申し訳、ありません」

 ですがあなたの部下としてあいつと一緒に働けた事は碌でもない俺の人生の中で最高で最良の時でしたと、死に逝く者特有の透明な笑顔で最後の力を振り絞るジルベルトの横に膝をついたヒンケルは、お前とリオンは本当にいつもいつも問題を起こしては大騒ぎをしていたがそれでもそんなお前達が自慢だったと、込み上げる感情を必死に堪えつつジルベルトの蒼白な頬を撫でると嬉しそうに目が細められる。

「……俺、は、天国へは、行けな……か、ら……」

 リオンとは出来れば地獄で再会したい、お前がこちらに来るときには悪魔を従えて歓迎してやるからと笑い、涙を堪えたり流したりしている同僚達を見たジルベルトは満足そうに目を閉じ脳裏にただ一人の笑顔を浮かべたままルクレツィオが待つ地獄の門へと向かうのだった。

 ルクレツィオと己の血で汚れたシャツが上下するのを止め首筋に手を当てて脈が止まったのを確認したヒンケルは項垂れたまま頭を一つ振ってひとまずはジルベルトと別れを済ませると、警部としてこの事件の結末を見届けなければならないことを思い出し部下に鑑識と救急車の手配をしろと檄を飛ばす。

 ヒンケルの声に部下達が弾かれたように顔を上げて己のすべきことに取りかかり、家中に分散して今回の事件に関する物的証拠をかき集め始めるのだった。

「……警部、犯人逮捕が出来ずに残念だったな」

「ああ。……ドクはどうだ!?」

 地下に降りたリオンとコニーはどうだと叫ぶヒンケルはテレビの中にケージに駆け寄るリオンの姿を発見し、コニーの手に何やら工具があるのを見ると地下は大丈夫だろうと小さく溜息をつくのだった。



 ジルベルトの声に耳を貸さずに地下室への階段を下ったリオンは、ドアを開けて血のにおいが充満する室内に顔を顰めるが、目の前のケージの中央、どれだけ手を伸ばしても決してポールに届かない位置の天井からウーヴェが吊されているのを発見し、名を呼びながらケージに駆け寄る。

「オーヴェ!」

 リオンが駆け込んできた物音にも反応はなく、もしかしてと最悪の想像をしてしまうがもう一度呼んだ時、首輪を掴んで少しでも楽になろうとしている手がぴくりと動き、のろのろと顔がリオンの方へと向けられた事から最悪の事態は脱している安堵に溜息をつく。

「今、助けるから」

 ケージの扉を開けたリオンはその床に敷かれた毛布にいくつもの褐色の染みがあり、それが何を意味するのかに気付いて唇を噛むが、ウーヴェが苦しそうに口を開閉させた為、足が着くか着かないかの高さに吊された身体を慌てて抱きかかえる。

「オーヴェ、もう大丈夫だから。遅くなってごめんな」

 ジルベルトがルクレツィオの旅立ちを見送った後一人地下室に降りてきたのだが、ウーヴェの両手を拘束していたものを外し、拘束具に着けていた鎖を今度は首輪に付け替えたあと、先程と同じように鎖をケージの天井に引っかけ、ポールに巻き付けて固定していたのだ。

 最初は手首から吊される苦痛にウーヴェは身を捩っていたが、首輪に繋がる鎖で吊された結果、身を捩ることも出来ない程の苦痛が喉に生まれ、少しでも楽にするために自由になった両手で首輪を引っ張り、腫れ上がって力の入らない左足を何とか庇いつつ最後の力を振り絞っていたのだ。

 後もう少し到着が遅れてしまえば文字通り力尽きてケージの中で吊されたまま死を迎えていたのだと気付いたリオンの身体が恐怖に震えるが、コニーがワイヤーカッターを持ってきた事に気付き、ウーヴェの痩せて弱った身体を抱き上げ艶を無くした髪に口を寄せる。

「……間に合った……」

「……リ、オン……」

「うん。ごめんな、オーヴェ。遅くなったけど皆とお前のこと迎えに来た。だから一緒に帰ろう」

 こんな悪夢のような世界から今まで過ごしてきたお前が愛しまたお前を愛する人たちがいる世界に帰ろうとリオンがウーヴェの額にキスをして小さく笑いかけるとウーヴェの顔にも微かな笑みが浮かぶが、ここで過ごした時に経験した出来事が脳裏を過ぎり、唇を噛み締めてリオンの肩に顔を押しつける。

「……っ……う……っ……」

「病院に行って手当してもらおうな」

 先日のビデオ通話の時にはなかった左足の傷にも気付いていたリオンはコニーが鎖を切断してくれた為にウーヴェの全体重を支えるように腕に力を込めて抱き直すと、ウーヴェの口から小さな悲鳴が流れ出す。

「リザードが……俺の、リザード……っ!」

「うん。でも左足を先に診てもらおう。俺も一緒に病院に行くから」

 壊されてしまったリザードのために肩を揺らすウーヴェの髪にもう一度口付けたリオンは、コニーに頼んでウーヴェの首輪を切ってもらい総ての拘束具を取り外すことに成功するが、コニーが目を瞠った後に直視出来ないと顔を背け、コニーの視線がどこに向いているのかに気付くと舌打ちをする。

「……悪ぃ、この尻尾みたいなものだけ切ってくれ」

 この尻尾の先はプラグ状になっていて尻に埋め込まれているはずだが、この状態で抜けばウーヴェの傷が深くなると告げてコニーが先程のカッターで尻尾部分を切り取り、忌々しげに見つめて舌打ちをする。

「なあコニー、このままオーヴェについていってもいいかな?」

 本当はそんな事許されるわけではないと思うがと、身体を震わせるウーヴェをしっかり抱きしめて申し訳なさそうに告げるリオンにコニーが頷きもちろんだとリオンの肩に手を置くが、その手が微かに震えている事に気付いてリオンが小さく礼を言う。

「リオン、これをドクに掛けてやってくれ」

 ケージの中にまだあまり汚れていないバスローブがあることに気付き簡易ベッドで横になっている男が使っている毛布より良いだろうとコニーが判断し、ウーヴェの包帯が巻かれている背中を隠すように肩に掛けると、ウーヴェがのろのろと顔を上げるが振り返る事は出来ないようで、再度リオンの肩に顔を押しつけてしまう。

「……大丈夫だ、オーヴェ。そろそろ救急車が来そうだから上に行こう」

 ウーヴェを二度と離さないと言うように抱き上げて血色の悪い頬にキスをしたリオンはゆっくりと階段を上り、ウーヴェを悪夢のような時間と場所から己の手で救いだし、リビングで心配そうに待っているヒンケルの前に向かう。

「ドク!!」

 リオンの肩に顔を押しつけて身体を震わせているウーヴェに皆が駆け寄り声を掛けるがそのどれにも返事をすることが出来ずにリオンのブルゾンをぎゅっと握りしめたウーヴェは、リオンの大きな優しい手が傷を負った背中を撫でた為悲鳴を堪えて歯を食いしばる。

「ああ、悪い。痛かったな」

 ヒンケルに目で合図を送ったリオンはテレビに映し出されている地下室の様子から、ここで不安そうに待っていたヒンケルや同僚達が一部始終を見ていた事に気付き小さな溜息を吐く。

「ボス、救急車が来たら一緒に乗っていって良いですか」

「……ああ。詳しい事情を聞く必要もある。一緒に行ってこい」

「Ja.……ダンケ、ボス」

「ああ」

 本来ならばまだ事件の後処理があるが被害者から話を聞くのも立派な仕事だと頷き救急車のサイレンが聞こえたことから、簡易ベッドで横になっている男も搬送する必要があるか確かめてこいとヴェルナーに命じ、地下室の現場の保全を鑑識が来るまでしておけとも告げる。

 救急隊が駆けつけた為にブライデマンが合図を送り地下室にも要救助者がいる事と死亡者がいる事を伝えると、リオンが先日も顔を合わせた救急隊員に気付きストレッチャーの用意を頼むと告げるが、ウーヴェの手がブルゾンをきつく握りしめたため救急車までこのまま運ぶことを伝える。

 その際、カスパルが勤務する病院に搬送してくれと告げると、前に女性を搬送した病院かと問われて頷きつつウーヴェに救急車に移動することを伝え、ヒンケルとブライデマンに後のことは頼んだ、病院について時間が出来れば連絡する事を残して救急隊員に先導されて救急車に乗り込む。

 早朝の小さな町に巻き起こった騒動に周囲の家から人々が顔を出しては何事だとご近所同士ひそひそと囁き合うのを横目に、救急車に乗り込んだリオンが嫌がるウーヴェを何とか宥めてストレッチャーに乗せて救急隊員に背中の傷と足の傷について説明をするが、少しだけ躊躇った後、血液検査も必要だと告げて救急隊員の目を瞠らせる。

「……そういうこと」

「分かった」

 救急車の中で搬送の準備の為にウーヴェから話を聞こうとするが声が上手く出ないのか、口を開閉させるだけだった。

 代わりにリオンが可能な範囲で答え、ようやく動き出した車内でリオンが断りつつ携帯を取りだしてまだ自宅にいたらしいカスパルに今から病院に向かう事を伝えると、電話の向こうで大きな物音がするが、こちらも可能な限り早く病院に行く事を叫ばれて通話が終えられる。

 携帯を戻して溜息をついたリオンはストレッチャーでぼんやりと車の天井を見ているウーヴェに気付き、やつれてしまっている頬を指の背で撫でる。

「……リ……オ……」

「遅くなってごめんな、オーヴェ」

 先程からくり返す謝罪にウーヴェが眉をクッと寄せた後に目を閉じ足が痛いとだけ告げるが、手首にくっきりと痛々しい痣を残した手が何かを探すように動いていた為、リオンが手を伸ばしてそっと触れると、少し躊躇ったあと手を握ってくる。

 掌から伝わる温もりから離れていた時間を思い知らされたリオンはウーヴェの手を掴んで額に宛がい、本当に間に合って良かったと震える声で呟く。

 ゾフィーの時のようにならなくて良かったと述懐するリオンだったが、ウーヴェの目から涙が静かに流れ落ちたことの意味をこの時まだ理解出来るはずもなく、助かった安堵からだと判断し指でそっと拭ってやるのだった。

 

 ウーヴェの誘拐とリアの殺人未遂事件は部下やルクレツィオを殺害したジルベルトの自殺によってひとまず幕を下ろすのだが、事件に巻き込まれて生き残った者にとっては事件後という第二幕に舞台を移しただけで、長い時を掛けてこの事件と向き合っていかなければならないのだった。




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