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侑目線





「おい、何してんねん」


はっとして、さっきまでぎゅうぎゅうと瞑っていた目を開くと、 そこには獲物を捕らえて逃がすまいという圧を感じさせる片割れがいた。


先輩もまさかこんなに怒った治が来るなんて予想もして居なかっただろう。

さっきからオロオロと目が泳いでいる。


「お、治、これはッちゃうくて..」


「何がちゃうねん、説明してみてくださいよ」


いつも喧嘩している俺らだが、ここまで怒っている治は俺でも手が付けられない。


喧嘩の時とは怒り方が違う。静かに見下しているような、軽蔑しているような、そんな感じだ。


先輩も俺も動けないでいると、治が俺達の前に立った。


そして、俺を襲おうとしていた先輩に一言。


「さっさと去ねや。このクソアマが」


その瞬間、先輩は俺の腕を掴んでいた手を勢いよく離し、全速力で教室を出ていった。

これ以上ここに居てはいけないと本能が感じ取ったのだろう。



しばらく扉を向いていた治の目が俺をうつす。


「ツム、来るの遅ぉなってごめん…..泣かんでや、すまんなぁ、俺がもっと注意しとけば良かったわ。 」


治に指摘されてから頬を流れるものに気がついた。


「怖かったな、ツム。」


そう言って俺を優しく抱きしめ、小さい子供をあやすように頭を撫でてくれる。


大好きな治の手。俺とは違う、肉厚で少しゴツゴツしたスパイカーの手。こういう時俺の頭を撫でてくれる優しい優しい手。


でも治に抱きしめられても、溢れる涙は止まらないまま。


「ツム、泣き止んでや。どしたん?まだ怖い?」


「…ちゃうッ..さ、むが、助けて、くれて..安心してッ..気いぬけたから….」


治の匂いを嗅ぐと安心する。俺とは少し違った懐かしい匂い。




ふと顔をあげると、治の口角が上がっているのに気がついた。


「…ほんま可愛ええ..。もうなんなん?」


「..お前なぁ..人が泣いとんのに笑っとるとか、性格悪.. 」


「やって、可愛ええてしゃぁないんやもん。なぁ、俺もう我慢出来ひんわ。もう食うてええ?」


「えッ..?食うって..」


言い終わる前に俺の視界が治でいっぱいになる。

そしてその瞬間ちゅっと可愛いリップ音をたてて唇が塞がれる。


「!?」


驚いて逃げようとする俺の後頭部を治の左手が捕まえる。


酸素を求めて口を開けば待ってましたと言いたげに舌を滑らせてくる。


前歯、歯の裏、歯茎、舌の裏と順々に舐められる。


「…んッ..さッ..む…. 」


だんだん頭がぽわぽわしてくる。酸欠ゆえか、それとも快楽感からか。


さすがに苦しくなって肩あたりをとんとんと叩く。


「…俺の気持ち、分かったか?」


「….知らん..ちゃんと、言葉で言って欲しい.. 」


「ほんまわがままやなぁ..」


はぁ、と軽いため息をつくと、手を握り直し、真剣な目で俺を見てくる。


「ツムの事が好きや。俺と付き合うて欲しい。」



これが、凄く涙腺にきた。

止まっていた涙も大粒の雨のように止まることを知らない。



わがままを聞いてくれる所も、優しい目で見つめてくれる所も全部好き。


またわんわん泣き始めた俺を観て、どうすれば収まるのかオロオロしている所も可愛くてしゃあない。


「…俺も..好き 」

やっと絞り出した呟くような言葉も、治にははっきりと届いていた。

「..サム..もっかい..キス、したい」

治は驚いたように目をまるくした後、にっこりと口角を上げて見せた。

そして右手で顎を、左手で後頭部を支え、優しい口付けをする。


優しく包み込むような、それでいて熱い熱いキス。


お互いもう離すまいと、何度も角度を変えながら。まるで何かを誓ったように。



2人は赤い夕日に沈んで行った。








END







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