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家に行く。
ボロさえ出さなければ、俺は、きっと、救える…。自分の体が、心が、折れても、戦う覚悟はできている。
沙恵の家に着いた。最初は、普通に、遊びに来たように。
「お邪魔します。」
「珍しいね。沙恵が友達を連れてくるなんて。いらっしゃい。ゆっくりしていっていいからね。」
「ありがとうございます。」
演技だけで乗り切る。絶対に、目的を悟られないように。
「お母さん。私の部屋に行くから。」
「分かったよ。」
…目…迷惑そうな…目…虐待されているのも、頷けるような目だ…。
「後でお菓子を持って行くからね。」
「ありがとうございます。」
いい子を、演じる…。
沙恵の部屋に入る。
「……簡素な部屋だな。」
「…片付ける物がないから楽。」
「確かにそーだな。」
扉がノックされる。
「はい。お菓子。」
「ありがとうございます。」
扉が閉じられる。
「沙恵、俺に、任せとけよ。」
彼女は静かに頷く。
「お菓子を乗せた皿を置きに行くときに。」
「私達は、戦う。」
絶対に…
そして…その時。
沙恵の母の手を見る。右手…痣だ。殴っている証拠だ。
「手、怪我されてますよ?」
「気にしないで。包丁で少し…ね。」
これで、俺の、目的を果たせる。
「嘘だ。右手を包丁で怪我するなんて、ありえない。」
「ごめんなさいね。壁にぶつけちゃっただけよ?」
「とても強くぶつけない限りは、手に、痣なんてできない。」
「っ!?」
ここで、核心を突く一言。
「どうですか?人を殴る感触は。」
「何言って…!」
「手に痣ができることなんて、滅多に無い。殴り合いを、しない限りはね…そして、人に殴られたことにしたとしても、否定できる。普通は、手を殴らない。背中などの、日常生活で目立たない場所を殴るはずだ。」
「何が言いたいの!?」
「あなたは、人を殴ってる。それも、日常的に。そして、殴ってる相手は、沙恵。そうでしょう?」
「…このっ…!」
手で受け止める。普通に痛い。でも…これだけで、弱音ははけない。
「これだけで殴りかかるなんてな。短気だなぁ。」
「…」
また拳がとんでくる。
「短気は損気。だよ。」
また…また…
「暴力では、何も解決しない。新たな争いを生むだけ。」
「さっきから!うるさい!」
「沙恵は…不幸だ。あんたみたいな親の子で、毎日のように痣ができて。本当に…母親か?」
「母親よ!私は!幸せにしてあげてる!」
「幸せ?これが毎日続いて?人の痛みが分からないのかよ。」
「…幸せよね…沙恵!」
「……お母さん…私は…幸せじゃない。」
「なんですって…!?」
「はは…ダメだろ。もう…母親失格だな。沙恵を殴るなら、俺を倒してからにしろ。これ以上、傷つけさせたくない。」
「っ………優しい…あなたは、優しすぎる。沙恵、さよなら。もう、顔を見せないで。この家から出てって!」
…予想してなかった展開だ…
「荷物、取りに行く。待ってて。」
俺だ…俺のせいだ…俺が…沙恵の帰る場所を、失わせた…俺は…間違っていたのだろうか…ただ、救いたいという気持ちだけで動いて…取り返しがつかない気がする……
「大丈夫…ありがとう。影斗。間違ってないよ。新しい帰る場所を、作るよ。」
「俺の家で文句がないなら来いよ。」
「うん。ありがとう!」
沙恵は、今までに、見たことのない、最高の笑顔で言った。
「影斗。これからも、よろしく!」
「ああ。守ってやる。」
その笑顔は、とても眩しくて。
この笑顔を、明日も、明後日も、守り続けたい。明日の君に、笑ってほしいから、俺は、君を、守るんだ。
end