ひらりひらりと桜が風に舞う中1人の少年が立っている。名前を呼んでみればその少年はくるりと振り返り楽しげな笑みを浮かべた。「お、ぷりっつ。今日は遅刻しなかったんだな!」
少年…アマルはいつもこの木の下に立っている。
「今日は何して遊んでくれんの?」
俺の持つSwitchを興味深そうに見詰めながら首を傾げては俺の隣に座り込んだ。俺たちは毎日こうして公園の桜の木の下のベンチで話している。
「すいっち…?げーむ…?ふーん…テレビみたいだな!」
ゲームを見るのは初めてだったようで画面に写るキャラクターを目で追いかけながら楽しそうにはしゃいでいる。
俺たちの出会いは数ヶ月前。枝に僅かに残った枯葉が風に煽られ落ちるのを眺めていたアマルに俺が声をかけたのだ。小学生くらいの少年がもう日も暮れた頃、ボーッと枯葉を眺めていたら誰だって心配になるだろう。しかし周りの大人たちは誰も足を止めない。まるでそこには誰もいないかのように全員が少年の姿を気にすることなく通り過ぎていく。少年に声を掛けても聞こえていないのか全くこちらを見ようとしなかった。俺は距離を詰め少年の肩に手を乗せた……つもりだったが、その手はすかっと空を切る。
「ん?あ、俺に話しかけてたの?」
ようやく少年が俺の方を向いた時、俺は触れられない少年に理解が追いつかず自分の手と少年を交互に見ることしか出来なかった。
「驚いてるみたいだね、俺も驚いたなー。まさか俺のことが見えるなんて」
ふわりとその少年は空を飛んで見せた。間違いないこの少年は幽霊だ。
「逃げないんだ?」
正確には逃げないのではなく足が震えて立ち去ることすら叶わないだけなのだが、せっかくなので少年の話を聞いてみることにした。
「俺?アマル」
アマルは楽しそうに笑った。久々に人と話したらしい。ずっと孤独だったようだ。
「楽しかったまたね!」
また、という言葉を真に受けた俺はこうして仕事帰りに毎晩ここへやってきているのだ。
時は戻り現在。生き物以外の物には触れられるらしいアマルは俺のSwitchを使ってゲームをしている。
「なー、ぷりっつ!これどうやんの?」
こいつは俺のことを呼び捨てにする。可愛げのないやつだ。かと思えば、やり方を教えてやるとありがとう!と屈託のない笑顔を見せられて可愛いと思わざるを得ない。
「えぇ、もう帰るのか?」
寂しそうなアマルの顔を見ては帰るのが嫌になる。俺もこの時間が結構好きだ。アマルを連れて帰ろうとしたこともあるがこいつはここから動けないらしい。
「また来てね!」
と手を振るアマルに手を振り公園の前の横断歩道を渡っていると不意にライトに照らされクラクションが鳴り響いた。
「危ない!」
というアマルの声が聞こえたかと思えばぶわっと桜吹雪に身を包まれ俺は気を失った。
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周りがやけに騒がしい。ゆっくりと目を開けば周りには人集りが出来ていた。
「大丈夫かい?」
とお爺さんが俺の顔を覗き込んで首を傾げる。あぁ、俺は車に轢かれて…?…どこも痛くない。車の運転手さんは警察の人に囲まれている。遠くからきっと俺を迎えに来たのであろう救急車の音がする。
「いや、だから轢いてないんです!俺もわけが分からないけどぶつかった感覚はあった!でもあの人はぶつかる前に桜に包まれて瞬間移動して…!」
運転手さんの言ってることは支離滅裂に聞こえるだろう。俺には分かる。ゆっくりと起き上がれば運転手さんの元へ歩いていく。お爺さんが俺を心配してくれているが実際身体に違和感は何一つなかった。運転手さんの話を聞けば、俺にぶつかりそうになった直後桜吹雪で視界が遮られた。慌ててブレーキを踏んだが何かにぶつかった感覚がした。すぐに車を降りて確認するもなにもない。俺の姿を探せば少し離れた歩道に倒れていたとの事だ。間違いない、アマルが助けてくれたんだ。
しかし…その日以来アマルの姿を見ることはなかった。どこを探しても二度と見つかることはなかった。
__ねえ、知ってる?桜の木の下の男の子の噂。桜の木の下には死期が近い人にだけ見える男の子がいるんだって。その男の子を見た人は1年以内にみんな死んじゃうらしいよ。だけど1人だけ死ななかった男の人がいてね……






