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放課後。部活のメニューが一段落したところで、凌先輩がラケットを軽く回しながら、私の隣へ歩み寄ってきた。
「紗南ちゃん。今日は少し、遥の相手をしてもいいかな」
先輩の爽やかな笑顔。その瞳に見つめられるだけで、さっきまで遥と屋上で話していたことなんて、全部頭から吹き飛んでしまう。私にとって、凌先輩の言葉はいつだって特別で、抗えない力を持っていた。
「……あ、はい! 凌先輩が相手をしてくれるなら、遥もきっと喜びます」
「そうかな。……遥、僕と一本勝負(ワンマッチ)だ。いいだろ?」
凌先輩の声は穏やかだったけれど、その言葉は部室の空気を一瞬で変えた。
コートの隅でグリップを巻き直していた遥が、弾かれたように顔を上げる。その瞳には、昼間の屋上での不器用な優しさは微塵もなく、剥き出しの敵意と焦りが混じっていた。
「……ああ、やってやるよ。願ってもねーわ」
遥は吐き捨てるように言うと、わざとらしく私を凌先輩から引き離すように、二人の間に割って入った。
「紗南。お前はあいつの近くにいなくていい。ベンチでスコアでもつけてろ」
「えっ、でも凌先輩が『近くで見ていて』って……」
「いいから! ……お前は、俺だけ見てりゃいいんだよ」
遥のその言葉に、部員たちの間にざわめきが広がる。
凌先輩はそんな遥の過剰な反応を楽しむように、ふっと目を細めて笑った。
「いいよ、紗南ちゃん。そこで見ていて。僕が勝ったら、帰りに一緒に帰ろう。……『妹』のお願いなら、何でも聞いてあげるから」
その瞬間、遥の表情が歪んだ。
凌先輩の口から出た「妹」という言葉。それは私にとって最も残酷な響きなのに、今の私には、先輩に「一緒に帰ろう」と言われた喜びの方が勝ってしまっていた。