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次の日、私とルークはアドルフさんのお店を訪れた。
「おはようございます!」
「いらっしゃい、おはよう。
おや、この前のお嬢ちゃんか。アイナさんだっけ?」
「はい、今日は剣をお願いしにきました」
「嬉しいね、決めてくれたんだな。それで、お金は大丈夫か?」
「作ってきましたので大丈夫です!」
「よし、ちょうど手が空いて困ってたところなんだ。
……それで、大体のイメージは持ってきてくれたかい?」
「はい、こちらに」
私はアイテムボックスから、剣の絵を2枚出した。
「おっと、アイテムボックス持ちか。いいな、俺も欲しかったぜ」
確かに、鍛冶屋で使えれば色々と便利そうだもんね。
そんなことを考えながら、私は剣の絵をアドルフさんに手渡す。
「こちらが参考にした剣で、そちらが作ってみたい剣です」
「ほう、上手く描けているなぁ。これはアイナさんが?」
「いえ、こちらのルークが」
「なるほど。
……うん? 参考にした剣って、もしかして神剣デルトフィングか?」
「あ、分かりました?
クレントスで見て、それに憧れて」
「ははぁ……。
そういえばシルヴェスターの旦那も、クレントスに行ったって話だったなぁ」
「もしかして、面識があるんですか?」
「ああ、神器を手に入れる前後でちょっとな」
「へぇ……。
……あ、それでですね、別に複製品を作りたいわけじゃなくて、オリジナルの剣を作りたいんです」
「なるほど、『なんちゃって神器』を作るわけか」
な、なんちゃって……?
ま、まぁ……そう言われてみれば、そうかもしれないけど……。
「そ、そうですね?
今回はアドルフさんにも、神器を打ってもらう感じでお願いできれば」
「ははは、それは面白そうだな。
それじゃ、もらったものをベースに考えてみるか」
「この絵のままだと、ダメですか?」
「ああ、大体は良いと思うぞ? ただ、魔力経路の関係でバランスを取らないとな。
それに神器の魔力の流れは少し独特だから、そこも考慮しなきゃいけないんだ」
「へぇ……?」
「簡単に言うとな、神器は自身の魔力を内部で対流し続けるんだ。
だから普通の魔法剣とは違って、魔力が戻る向きも考えてやらないといけない」
「うーん? 色々あるんですねぇ……」
「そりゃ、神が作ったとされる武器だからな。
ただこれをやっちまうと、普通の魔法剣としては使えなくなるんだが……それでも大丈夫かい?」
「そういう風には使わないので、大丈夫です!
……ちなみに、お値段は高くなりますか?」
「そうだなぁ。特に材料費は変わらないし、俺もたまにはそういう技術を使わないと錆びちまうし……。
今回は特別に、追加料金は無しでやってやるよ」
「おお、ありがとうございます!」
「ただ、こんなに大金を払って……魔法剣にも使えない剣を作って、どうするんだって感じだけどな。
普通の剣として使えば、ナマクラなわけだし」
「そこはお気にせず! とてもすごい用途があると思うので」
多分、神器の素体になる気がするんだよね。
ここまでやって、何にもならなかったら泣けるけど――
……でもここは、私の中の『創造才覚<錬金術>』を信じることにしよう!
「詐欺に使わなければ、俺としては構わないけどな。
まぁ、神器なんて世界に3本しかないから……、そんな詐欺に引っ掛かるヤツなんていないだろうが」
「もちろん詐欺になんて使いませんよ! 安心してください」
「ははは、一応聞いてみただけさ。
さてと、それじゃちょっと設計を考えてみるか。
……そういえばこの紙、何だかずいぶん質が良いな」
「ああ、それは……私の故郷の特産品、でして」
「ほう、紙が特産なのか。いいねぇ、俺も少し分けて欲しいぜ」
「少しならお分けできますけど、要りますか?」
「良いのかい?」
「追加料金をまけて頂いたので、それくらいはさせてください」
「ははは、ありがとよ。
それじゃ、できるだけくれるかい?」
できるだけ……。こういうのが一番困るんだけど――
……まぁ、コピー用紙の束を3つ分くらいでいいかな?
百枚単位であれば、ケチケチしないで使いやすいだろうし。
バチッ
「はい、これくらいで良いですか?」
「うお、こんなにくれるのか?
……ところで、変な音がしなかったか? 『バチッ』って」
「ちょっと量が多かったので、アイテムボックスが鳴ってしまったみたいですね。すいません」
「ああ、アイテムボックスの音だったのか。
たくさん出させちまって、悪かったな」
……実際は錬金術の音だったんだけど、平然と言ってみたら普通に誤魔化せてしまった。
よしよし、この流れは今度とも使えそうだ。
「それじゃ早速、もらった紙に写し取って……っと」
アドルフさんは真っ白な紙に、凄いスピードで剣の絵を写していった。
「――よし、こんなもんかな。さて、それじゃここに朱色で描き加えていくぞ。
まずここの線はもう少し延長だな。……ここは内部延長で良いか? いや、デザインから入るべきだろうな。
それじゃここはこのままか……。そしたらここの構造は少し無理があるな。少し削って……。
ここの核石は……うーん、多少ズラした方がバランスが良くなって安定しそうだな……」
……白と黒しかなかった紙に、どんどん朱書きの追加が入っていく。
しばらく見ていると、びっしりと朱色で覆われてしまった。
「……ふむ。まぁ、こんなものか」
アドルフさんはその紙を私たちに見せながら、改めて説明をしてくれた。
説明をしてくれたのだが――
……かなり専門的な話だったので、何となくはそう思えるものの、私もルークもちんぷんかんぷん……といった感じだった。
「ほとんど分かりませんでした」
「ははは、まぁそうだよな。とはいえ、基本的には神剣デルトフィングの流れを受けて考えたからな。
これでいけるはずだぞ! ……たぶん」
「たぶん」
「そりゃそうだろう。神器なんてもの自体、本来は人間の手が及ぶものじゃないんだ。
ここまで近くしただけでも、凄いことなんだぞ?」
アドルフさんはそう言いながら、とても満足そうな顔をしていた。
あまり使わない知識をフル動員したあとの満足感……みたいな感じかな?
「それではこんな感じで、製作をお願いします。
お金は金貨30枚で大丈夫ですか?」
「ああ、うん。そうだなぁ、実は魔力経路が複雑になって、ちょっと時間が掛かりそうなんだ。
で、その分だけ他の作業ができなくなっちまうから――」
おっと、値上げかな?
「……宝石の部分はガラス玉にして、値段を抑えても大丈夫か?」
ガラス玉! 特に問題なし!
「はい、大丈夫です。
でも、付け替えは出来るようにしたいですね」
「……アイナさんなら、大丈夫だろ?」
「え?」
「うん? アーティファクト系の錬金術をやるなら、『置換』くらいできるだろ?
手間は掛かるかもしれないが」
「……あ、そうですね? あはは……」
『アーティファクト系』……っていうのは、錬金術のジャンルだっけ?
例えば、アクセサリみたいなものを作るような……。
『置換』っていうのは何だろう?
何かを何かに置き換えるのかな? 例えばガラス玉をダイアモンドとかに――
「……あっ!!?」
「「えっ!?」」
私の突然の声に、アドルフさんとルークは驚いた。
「あ、すいません。何でもないです!」
謝りながらも、私は次のことを考えていた。
もしもそんな、『何かを別のものに置き換える』ことができるなら……あの問題を解決できるかもしれない。
……そう、錬金術で『細かいデザインができなかった』というあの問題。
先に素体となるモノがあるなら、そのデザインを保持したまま新しいモノを作れるのでは……?
例えば、今回製造してもらう『なんちゃって神器』を素体に、神器の素材と置換させることで、本当の神器を作ってしまう……。
……そうであれば、『創造才覚<錬金術>』がこの剣を求めていた理由も分かる……。
――なるほど!
早速今夜、何かで試してみることにしよう……!!