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「よーし、剣の注文が終わったーっ!」
「お疲れ様でした!」
アドルフさんのお店を出てから、緊張をほぐすように伸びをする。
やっぱり大きな取引は緊張するね。
それに、神器作成の足掛かりが掴めたのは良かったかな……!
太陽を見てみれば、12時を軽く過ぎたというところ。
まさに昼食の時間である。
「さて、どこかでお昼を食べよっか」
「そうですね。行きたいところはありますか?」
グルメ雑誌みたいな本があれば、それを見て探せるんだけど――
……そういうものは、この世界では見たことが無いからなぁ。
「特には無いから、その辺をぶらついてみる?
食べるのが少し遅くなっても、特に問題は無いし」
「はい、それではそのようにしましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく歩いていると、遠くから騒がしい声が聞こえてきた。
「何だか向こうの方、騒がしくない?」
「そうですね。
……ああ。あっちは以前行った、屋台がたくさんある場所です」
屋台……というと、鉱山夫ご用達の重い食事満載の屋台。
うーん、あそこかぁ……。
「でも、この前よりも何だか賑やかじゃない?
そこだけ、ちょっと気になるなぁ……」
「行ってみますか?」
「好奇心には逆らえません!」
「ははは、それでは行ってみましょう。
ガサツな連中もいると思うので、気を付けてくださいね」
「はい、了解」
私はとりあえずルークの後ろに隠れて、彼の服を掴んで準備した。
「では、参ります」
ルークの後ろに付いて回っていくと、先ほどの賑やかさはひとつの屋台から起きているようだった。
その屋台のまわりには、他の屋台よりもずっと多い客たちが集まっている。
「……あれ? あそこの場所って……」
「そうですね。
前回来たとき、食べ比べをやっていた屋台の場所のようです」
そんな話をしていると、人だかりの隙間から『相手に勝ったら全額無料! 相手に負けたら全額負担!』……と書いてある張り紙が見えた。
……今日も今日とて、そのイベントで盛り上がっているのだろう。
男の人って、こういうのが本当に好きだよねぇ……。
「それにしても、何でこんなに盛り上がってるのかな?
ちょっと聞いてみよっか」
「え……?」
「あの、すいませーん」
私は人だかりを作っている1人の大男に声を掛けた。
「あん? 何だい、ねーちゃん」
「すごく盛り上がってるみたいですけど、今日はどうしたんですか?」
「おう!
ちょっと前に伝説を作った『暴食の賢者』が現れたんだよ!!」
「……暴食の賢者?」
なに、それ?
『暴食』と『賢者』の組み合わせが、何だか凄いミスマッチなんだけど……。
「そのふたつ名って、一体どういう……?」
「服装からすると、魔法使いみたいなんだけどな。
前回は死闘を繰り広げて倒れた相手に、回復魔法で介抱してやっていたんだ。
勝負に負けた者にも、優しく手を差し伸べる!
……う~ん、何とも見ていて素晴らしい光景だったぜ!」
な、なるほど?
何だかすごい人が現れて、とんでもないフードバトルをしている……ということか。
「お兄さんはそこから見えます?
私とか、全然見えないんですけど」
「俺も見えないぞ!
何とか人を掻き分けて進みたいんだが……こりゃ無理だな。
でも、このまま応援するぞ!」
「な、なるほど……。頑張ってください!」
「おう、ありがとな!」
興奮する大男との話を終えて、ルークに話し掛ける。
「……ってことみたい」
「ふむ……。
それにしてもアイナ様、割と度胸がありますね。
身体の大きな男に、普通に声を掛けていくなんて」
「え? ……うーん、鉱山の崩落事故で、そういえばこういう人とたくさん話したからね。
もう慣れちゃった、みたいな?」
「なるほど。逞しくなられて……」
いやいや、子供じゃないんだから!
「……さてと、それにしても『暴食の賢者』か……。
ちなみに、ルークは見える?」
「いえ。私の身長でも、ちょっと見えないですね」
私よりも身長が高いルークでも無理か。
となると――
「もしかして、私がルークに肩車をしてもらえば見えるかな?」
「ごほっ!?」
……うん?
「アイナ様、さすがにそれはちょっと……」
あ、うーん。そっか、もう大人だもんね。
大人って、何かを捨てることなんだよね……切ない切ない。
「ふむぅ。それじゃ、見るのは諦めよっか」
「見ないでも大丈夫ですか?」
「気にはなるけど、ちょっとお腹も空いてきちゃったし……。
それにこの盛り上がりようだから、まだしばらく終わりそうもないし」
「そうですね、では、他のところに行ってみましょう」
私とルークは人混みを掻き分けながら、屋台から離れることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……その後、宿屋の方向に歩いていると、何やら良さげなお店を見つけた。
少しお洒落な感じの、カフェのようなお店だ。
「あ、こういうお店、私好きかも」
「それではここにしますか?」
「うーん、でもメニューにはがっつりしたものは無いよ?
ミラエルツにしては、かなり珍しいけど」
「私なら大丈夫です。今日は動く予定もありませんし」
……なるほど、魔物討伐とかも無いからね。
それなら、今回は甘えちゃおうかな?
「それじゃここに決定で。
すいませーん、2人なんですけどー」
「いらっしゃいませ!
お客様、外のスペースでもよろしいですか?」
「はい、大丈夫です!」
「では、こちらにどうぞ――」
……注文したサンドイッチを食べ終えて、街の景色をのんびり見ながら過ごす。
何だかこうしていると、街の営みから外れているようで――
……少し、客観的に見ることが出来て楽しいものだ。
「しあわせって、何でもないところにあると思うよ……、うん」
「そうですね。一瞬一瞬を大切にしないといけませんね」
「うーん、そうだねぇ……」
陽射しも気持ち良いし、もう眠ってしまいたい気分だ。
少しまどろんだ目で遠くを眺めていると、見覚えのある姿が見えてきた。
「……あれ? エミリアさん?」
「本当ですね。宿屋に戻る途中でしょうか?」
「どうかな? おーい、エミリアさーんっ!」
片手を大きく振ってみると、それに気付いたエミリアさんが小走りで駆け寄って来た。
「奇遇ですね!
アイナさんたちはここで昼食ですか?」
「はい。エミリアさんはもう、食事は済ませましたか?」
「済ませてきちゃいました!
あ、でもアイナさんたちがまだいるなら、デザートくらいは食べていこうかな?」
「まだいる予定なので、それではご一緒しましょう」
「ルークさんも、ご一緒して平気ですか」
「だ、大丈夫ですよ!?」
「ではお邪魔しますね。よいしょっと」
エミリアさんはそう言いながら、持っていた包みを空いている椅子に置いた。
「あれ? その荷物って、何ですか?」
「え? あ、ああー、これはあれです。ちょっとしたものです」
「……ちょっとしたもの?」
「野暮なことは、詮索しちゃダメですよ!」
「え、あ、はい」
……何だかこれ以上、聞いたらいけないような気がしてきた。
うーん、まぁいっか。
「すいません、ケーキセットと、ケーキの盛り合わせをください!」
食後のデザートながら、頼む量はエミリアさんクオリティで安心だ。
それじゃ私は、エミリアさんの食事風景でも見ながらのんびり過ごすことにしよう。
……はぁ。
日常って素晴らしい……。