ゴヴは、覚悟を決めた顔で、シールドの破壊を前にする。
「最後に、やっと付き人らしくなれたかな……」
そう溢すゴヴに、モモはもう力が入らないと、泣き崩れながらゴヴの背中に崩れ落ちた。
しかし、その横にララが飛び込む。
“炎防御魔法・レッドフィールド”
「最後なんて言わせない! ゴヴくんは、最初からずっと立派な付き人だったし、私たちの大切な人!!」
「これ……ララが防御魔法……!?」
「最後とか……勝手に決め付けないで……!」
ゴッ!!
“水攻撃魔法・アクアブロウ”
突如、ルルから、敵の炎を打ち消すほどの水魔法が放たれる。
「なっ……ルル……その力は……!?」
困惑するゴヴの隣で、ララは懸命な顔で答える。
「モモちゃんの力よ。エルフ帝国の訓練で、やっぱり前衛で戦えないと感じたモモちゃんは、ひたすら支援魔法の特訓をしていた……」
「それは知っているけど……これは支援魔法なんてものじゃない……。ルルの魔力そのもの……ダメージを底上げさせている……!」
「ふふ、思い返してみて。モモちゃんの秘密」
そして、ゴヴはモモに目を向ける。
涙を垂らしながら、気絶はせず、歯を食いしばる。
「意識が飛んでいない……。モモは確かに、三姉妹の中で秘められた力はあったが、それは意識を失くした時のみに発動される力で、しかも攻撃魔法だったはずだ……」
「そうね。私も、初めて見たから驚いているけれど、モモちゃんも、自らの意志で戦いたいと訓練を続けた。そして手に入れた力が、『力の譲渡』なのよ。自分で戦えないのなら、仲間に託せることが出来れば……とね」
そして、その勢いのまま、何度もルルは連続的に攻撃をし続け、バリア破壊に勤しむ。
「そう言うこと!! 私たちだって、ただ守られているだけじゃないの! 自分たちで戦える……!!」
「そうか……。なら…………」
ゴヴは、全員に張っていた岩シールドを解いた。
“岩攻撃魔法・トライアルウォール”
ゴッ! ゴッ! ゴッ! と、敵の周囲に、三本の岩の支柱が出現する。
「攻撃魔法……!?」
「ああ、俺だって何もしていなかったわけじゃない……! お前たちがもう、守りは不要だと言うのなら、今度はお前たちの横に立って、共に戦う……!!」
ゴヴの出現させた岩の支柱は、断続的に振動を起こし、振動に触れたバリアを少しずつ削っていた。
「アンタ……そんなものを隠して……。ほんと、何様なのよ! この、器用貧乏!!」
ゴヴは、モモとララの背を支えながら答える。
「何様……か。お前たちの、隣に立つ付き人様だ!」
“氷回復魔法・スノウドーム”
「エルフ族のいない中で、よく耐えて下さいました!! お三方の治療をします!!」
「ニア……! 前線に居たんじゃ……倒したのか!?」
「はい! キラさんとエルフ族さんの力で、なんとか倒し切ることができました! やはり、草魔法の協力がなければ、この会議室に集められていた精鋭兵士は倒せないと思われます!!」
「そうは言っても……こんな混戦状態で、手が空いてる草魔法を扱えるエルフ族なんて……」
そんな焦るゴヴの横を、
ガッ!!
「お前は……!」
緑髪の剣士が通り過ぎる。
“草鳴剣・蘭”
「王族 ルーク・キルロンド……!!」
ルークは突如として現れ、ゴヴとルルの力でギリギリまで削れていた炎バリアを瞬く間に破壊し、追い討ちの草魔法を敵に与えると、ルルの残っていた水魔法で “開花” を起こし、一瞬の内に兵士一人を気絶させた。
「今までどこ行ってたんだ!! キルロンドも、アンタの兄さんも、大変だったんだぞ!!」
ゴヴが興奮気味に訊ねるが、ルークは表情を変えず、何も答えはしなかった。
「お前……!」
こんな状況だからか、気持ちが逸るゴヴを制し、ルルがルークの前に出た。
「ねえ、私、前に少しだけヒノトくんと話す機会があったの。その時に言われた……。『レオもルークも、ぶっ倒してでも取り戻す』って……。私、お節介かもだけど、その言葉を聞いた時に、少しだけ不安になった……。仲間同士で……殺し合いになっちゃうんじゃないかって……」
その言葉に、ルークは静かに振り返る。
「遅くなったことは悪い。でも俺……思い出したんだ。殺し合いになることはない。でも、俺がこの手で殺さなければならない奴がいるんだ……」
「それって……この帝国にいる……アザミ……」
ルルの問いを遮るように、また一人の影がその言葉を遮り、その姿に、全員の戦闘の動きが止まった。
「彼が狙っているのは、アザミではないよ」
「貴方は……シルフ・レイスさん……!!」
シルフ・レイス。
元はキルロンド王国の騎士団に所属し、魔族戦争では四天王の一角を倒し、生きた伝説と謳われた。
しかし、倭国にて、『エルフ族とキルロンドのハーフ』と知られていたシルフの正体は、『エルフ族と魔族のハーフ』と露わになり、同時に、魔族軍 セノ=リュークに加担しているとして、キルロンドから追放された。
「ルークくん、彼が狙っているのは……」
そして、シルフ=レイスは、
「三王家、僕の父、アダム=レイスだ」
今回、エルフ族長自らが討伐隊長を務める、全ての元凶にして最大の相手、三王家 アダム=レイスの実子だ。
「皆さん! 今、ここにいる兵士たちは洗脳によるものでも、幻覚によるものでもない! アダムの闇魔法により、強制的に戦闘意欲と魔力が底上げされ、頭が混乱しているような状態です! この戦いで死者を出せば、それこそアダムの思う壺なんです! ここで、シールダーが要になります! 草魔法使いのエルフ族を中心にバリア破壊後、気絶させた後に闇魔法で封印してください!!」
「シルフさんは……参加されないんですか……?」
ルルの問いに、シルフは少し俯きながら、ルークの肩に手を置く。
「僕は……彼とアダムの下に向かう……。恐らくアイツには……族長殿だけでは……勝てない……!」
「シルフさん、貴方が寄りたいと言うからここに立ち寄ったんだ。早く行こう」
「あ、あぁ……そうだね……」
“転移魔法・ワープデュオ”
シルフはルークの肩を掴んだまま、その場から転移魔法で二人同時に消えてしまった。
「嵐のようだったな……」
「でも、勝ち筋は見えた……。この戦いには、草魔法は必須なんだ……! 私たちも、早く前線の戦いに加わりましょう! ゴヴ、シルフさんが言っていたことだけど、シールダーが要らしいわよ! 気張りなさい!」
「ルル……お前、本当に何があったんだ……?」
「ふん! なんにもないわよ!!」
ゴヴは、ルルの成長していく面を垣間見て、唖然とする中で、改めて気合を入れ、戦場を見渡した。
「俺だって……負けていられない! この三姉妹の隣に立ち続けてやる……!!」
そうして、ニアを含めたフレア三姉妹と、ゴヴ・ドウズは、前線の混戦へと足を踏み入れた。
キラ・ドラゴレオ/クラウド・ウォーカー/ニア・スロートルの貴族院パーティ、草魔法使いのエルフ族と協力し、兵士一人を撃破。
ララ・フレア/ルル・フレア/モモ・フレア/ゴヴ・ドウズの平民パーティ、ニアの救援、及び、ルーク・キルロンドの参入により、兵士一人を撃破。
残る兵士は、あと五人。
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