入り乱れる混戦状態が続く中、三つのパーティと、三人のエルフ帝国軍兵士が相対していた。
「まさか、俺たちが共闘することになるとはな……!」
ニタリと笑みを浮かべるロス・アドミネ率いる、アズール・ウォール、グロス・ラドリエ、ファイ・ソルファの、元SHOWTIMEパーティ。
「足を引っ張るんじゃないぞ」
眼鏡を上げながら、バチバチと拳を光らせるキャンディス・ウォーカー、リゲル・スコーン、シャマ・グレア、アイク・ランドの、元風紀委員パーティ。
「貴様らの手を借りるまでもない」
小柄な身体にロングソードを構えるキース・グランデ、ユス・アクス、イーシャン・ブロンド、リューシェン・ブロンドの貴族院パーティだった。
そして、兵士を囲うように、二人のエルフ族の訓練生たちも、じわりと汗を滴らせながら武器を構えていた。
相対する兵士は、それぞれ、炎・水・氷のバリアを纏っていた。
全員は目を合わせ、瞬時に行動を始める。
「それぞれの反属性は理解しているな! 私たちは氷のバリアを破壊する!!」
そう言いながら、リゲルと共に動くキャンディス。
「当たり前だ! 指示すんな!!」
水バリアの兵士の下には、ロスとアズール。
「黙ることもできないのか、お前たちは」
そして、静かに炎バリアの下に、キースとユスの二人が移動した。
全員、考えていることは一致していた。
『一刻も早くバリアを破壊し、草魔法との反応で兵士を気絶させる……!!』
しかし、一つのパーティだけ、考えもしなかった誤算を生じてしまった。
「コイツ…… “凍結” しない……!!」
それは、氷使いのキースと、水使いのユスで、普段なら相手の “凍結” を狙い、強力な一撃を喰らわせる編成なのだが、闇魔法により押し出された魔力が漏れ出し、炎バリアを張る兵士は、常に炎を纏った状態になっていた。
(今の状況じゃ、イーシャンとリューシェンの炎攻撃もバリアの前に無効化される……クソッ……!!)
そして、
バゴッ!!
大きな音を立て、キースの手にしていたロングソードは粉砕されてしまった。
「しまった……武器が……!!」
キースの目の前に、強力な炎魔法が迫る。
ゴォッ!!
“水魔法・氾濫”
「お前は……アイク……!!」
「大丈夫ですか……キースさん……!!」
アイクが倭国で会得した『水魔法・氾濫』は、相手の攻撃を跳ね返す魔法だった。
「お前……自分のパーティは……!?」
「シールダーには、キャンディスさんが居てくれていますし、僕は水属性なので、万が一にも相手の氷魔法で凍結されてしまえば、足を引っ張ってしまうので……!」
「それでも……パーティには、お前には役割があるだろう!! それを容易く別の場に行くなど……!」
アイクは、攻撃を返し切り、キースに振り返る。
「その固執!! もう、やめませんか!?」
「……!?」
突然のアイクの勢いに、キースは目を丸くする。
「キースさんは、貴族院の中でも元王族のキラさんに並ぶエリートです……。キースさんをそこまで強くしたのは、その芯の強さかも知れません……。でも、今僕たちがしているのは戦争であって、四対四と決められたルールの中で戦う試合じゃないんです……!!」
アイクの言葉に、キースの視界は歪む。
『こんなに小さい子が産まれてきた。我が家は強力な一撃でここまで名家を貫いてきたのに……』
『お前は身長がないんだ!! もっと鍛えろ!!』
『お前……その大剣……その齢で持てるのか……? これは一家の安寧が見えてきたぞ……!』
産まれたその日から、ずっと言われてきた言葉。
身体が小さいこと。
この魔法世界で身体の大きさはあまり重要視されることはないが、我が家は違った。
貴族院代表、元王族のドラゴレオ家が貴族院に来る前、グランデ家が貴族院の顔役だった。
それを成していたのは、圧倒的な力だった。
「最初は古木から始め、徐々に枝から丸太に変え、ひたすら振るってきました。僕は前線で戦えます、父上」
ガッカリされ続け、それでも直向きに腕力を鍛えた。
魔法学校に入学しても、貴族院学寮に入学しても、ひたすらに大きな剣だけが、自分の相棒だった。
『いつになったらドラゴレオ家に勝てるんだ!! いつも負け越してるじゃないか!! お前、貴族院のツートップと呼ばれて満足しているんじゃないのか!!』
「お言葉ですがお父様……ドラゴレオ家は兄弟でパーティを組んでいますし、二人とも元王族の……」
『同じ貴族院学寮の同級生だろう!! 言い訳をするな!!』
「キースさん!! キースさん!!」
アイクの声に、ふと我に返るキース。
「す、すまない……」
「ふはっ、平民に言われっ放しだな! 貴族院のエリート様が!」
そこに現れたのは、ニタニタと笑みを浮かべ、余裕綽々な顔を見せるロス・アドミネ。
ロスも貴族院出身の為、魔法学校時代に面識があった。
「お前までパーティを離れて……!」
しかし、ロスはくいくいと指を差し、キースの言葉を遮った。
「既にバリアが破られている……!?」
「ああ、風魔法はほぼ全てのバリアに相性がいい。だが、俺の風属性も、お前の氷属性も、草魔法とは反応しない。だから、気絶させんのは任せてきた」
「お前も……アイクと同じで、パーティを軽んじてまで、共闘しろと説教をするのか……」
しかし、ロスはキースの言葉を無視し、アイクの背を叩く。
「おい! 周囲の水魔法使い! 一気にぶつけるぞ!!」
すると、ロスの掛け声に、周囲の水魔法使いは自分たちの持ち場を直様離れ、炎のバリア破壊に魔法を撃ち始める。
「キース、お前のしけた面なんか見たくねぇんだよ。パーティどうこうとか、今は関係ない。お前の戦いたいように戦えよ」
“風豹拳・風纏”
ゴォォォッ!!
炎バリアの兵士が水魔法に苦戦を強いられる中、ロスは瞬時にバリアの元へ行き、全身に風を纏わせる。
「な、なんだ……あの攻撃は……!! 魔力を溜めているわけではない……。周囲の風を凝縮させている……!?」
その溜めている間にも、バリアはみるみる削れていく。
「喰らいやがれ!!」
ゴッ!!
最後に、凝縮された風の拳をバリアに叩き付けると、炎バリアは粉砕した。
「キース!!」
ロスの掛け声にキースはハッとする。
その瞬間、キラのパーティが既に駆け付けていた。
「よう、キース。なぁに、邪魔なんてしないさ。これを貸してやりに来ただけだ」
それは、キラが持って来ていた倭国製の斧だった。
「お前のやり方、俺は嫌いじゃない。でもな、だからこそ変わる時なんじゃねぇか? お前は俺たち兄弟のライバルとして、張り合っていてもらわなきゃ困る」
キラの言葉に、キースはゴクリと喉を鳴らせ、その斧を手に取った。
『グランデ家の戦い方は、生涯変わらない!!』
「うるっせぇよ……」
そして、キースは斧を掲げて飛び上がる。
「なっ……! あの魔力は……!!」
「親父はもう消えろ!! 俺は今までのグランデ家よりも強くなる!! ただのキース・グランデだ!!」
“氷鷹・絶対零度”
ゴォン!!
突如、巨大な氷塊が出現し、バキバキと地面に叩き付けながら、兵士を氷の中に封じ込めてしまった。
「そうさ、キース。自分の戦い方は曲げなくていい。だがな、俺も学んだんだ。強くなる為には、今の状況に適応し続ける力も大切なんだと……!!」
“風豹拳・ロストスマッシュ”
「俺は、歩みを止めねぇぞ!! ソル!!」
ゴォッ!!
ロスは、巨大な氷をそのままぶっ叩き、キースの氷魔法と風魔法の “拡散” を起こし、そのまま兵士を気絶させた。
「何故だ……。コイツらは、エルフ帝国遠征中、倭国遠征に行っていたはず……。それなのに……どうして……」
「意地で限界突破しやがった! ガッハッハッハ!! 流石は俺のライバルたちだ!!」
キースとロスは、草魔法との反応無しで、兵士一人を撃破させてしまった。
「どうして、精神崩壊の魔力増強が出来ているんだ!?」
残り兵士、四人。
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