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えっ?
「何を言ってるの?」
いつものソファに力なく座る海が虚な瞳で私を見つめる。
「俺を海智さんと呼び従順で大人しい奈緒と海と呼びハキハキと溌剌とした奈緒の二人の記憶があるんだ。記憶・・・というか、長い夢を見たんだ」
前回の私は海を海智さんと呼んでいた。
その時の記憶が海にもあるんだろうか?迂闊なことは言えないから黙っていることにした。
「奈緒とこのソファで寝ていた日、あれは俺が睡眠薬入りのワインを飲んだんだな。正直に言うと奈緒が飲んでいなくて良かったって思ってる」
「今更ね、弥生を抱くために共謀して薬を盛っていたくせに」
黙って聞いていようと思っていたのに、あまりにも身勝手な偽善に言葉がでてしまった。
「そうだな」
「それで?」
「夢の中の奈緒は2年以上睡眠薬を飲まされて少し精神的に不安定になっていた、そのことに気づいていたが、やめることが出来なかった」
「飲まされたって、まるで他人事のようね。そもそもそれをしていたのはあなたでしょ。それほどまでに弥生を愛していてやめられなかったって、とんだメロドラマだわ」
すまない・・・かすかに聞こえるくらいの声で謝った。
「俺は、この10年の間一度もあの人を好きだった事はないよ」
「ずっと諦めていた。でも、奈緒と一緒に暮らして諦めたくないと思った、だが、どうすれば抜け出せるのか答えを見つけることが出来ないまま今日になったんだ」
「弥生を愛してないの?」
「ああ、むしろ憎んでいたかな」
「それならどうして」
あの人と初めて会ったのは進路のことで三者面談をした時だった。
あの頃、親父の秘書をしていたあの人が親父の代わりに学校に来たんだ。
それから、何かしらの行事にはあの人が来るようになって、特に俺も気にすることなく事務的に接していた。
ところが、親父があの人と再婚して一緒に住むようになって1週間ほど経った頃、その・・・一人で処理をしようとしていた所にあの人が部屋に入ってきて、焦ってごまかそうとしたがあの人がニコニコと微笑みながら、すでに硬くなっていたものを咥えたんだ。
あの頃、彼女はいたけど身体の関係なんか無くて初めて他の人にシテもらい、その気持ち良さを知った。
部活もやめて発散する場所がなくて、成績まで落ち始めた頃に知った快楽にのめり込んだ。
あの人はほぼ毎日、口で抜いてくれてそのうちそれだけでは物足りなくなって、誘われるがまま抱くようになったんだ。
俺にとってはあの人は他人だし、身体を重ねることにはなんの障害も無いように思った、そして高校生の俺は親父の嫁を寝とっているという背徳感に興奮した、さらにあの人は子供ができる心配はないからとゴムをつけなくてもいいと言っていたから、何処でもやれた。
親父が帰宅するまで、キッチンやリビング、玄関のドアの近く。
高校生の俺にとって、あの人はただヤレる人だった。
彼女を家に呼んだ時、あの人の歪む顔を見て興奮した。でもあの日を境に彼女は俺の元から去った。
あの人が何かしたのかもしれないが、あの頃はヤレない彼女はどうでも良かった。
大学に入って、好きな人が出来て付き合うことになったが、あの人に会わせたら高校の時のようになるかもしれないと隠れて付き合っていた。
彼女を初めて抱いた時、もうあの人を抱けないと思ってもうやめようと伝えたら、親父に今までのことを伝えると言われ、その時になって初めて自分がしてきたことを悔いたよ。
結局、彼女の存在はあの人にバレて何か圧力をかけたようで俺の元から去っていった。
その後も、あの人に隠れて付き合っても直ぐに彼女は去っていった。
そして、全てを諦めようと思った事件が起きた。
会社に入って2年になった頃、後輩の子と付き合うようになった。家庭的で、笑顔が可愛くて一緒にいると癒された。
彼女の部屋に泊まることも多くなっていたある日、荒れた部屋の片隅で彼女は蹲っていた。
俺が近づくと悲鳴をあげて泣き出した。
その姿は顔は殴られて腫れ上がり、着衣もボロボロだった。
しばらくすると、彼女は二人の男に強姦されたこと、動画を撮られたことを話し始めた。
俺はそれでも彼女が好きだったから、何があっても一緒にいようと伝えたのに、彼女は会社もやめて、町からもいなくなってしまった。
喪失感で身体を動かすのもやっとだった俺に、あの人が「浮気はほどほどにね、本気になったら“彼女“は不幸になるかも」と言ったんだ。
それから俺は誰かを愛することを諦めたんだ。
後は、親父に知られたくなくてあの人に言われるまま抱いていた。
家の建て替えの時に、親父が俺が結婚した場合を考えて分離型の二世帯住宅を建てるといいだして、俺に一人で住むようにと話をしてきたときにチャンスだと思った。
ところが、あの人があの扉をつけることに固執したんだ。
あの扉によって、分離型といっても繋がっていることと同じになり、勝手に家に入ってきては言われるがまま抱き続けた。
ある時、あの人が子供が欲しいと言い出した。
自分では産めないから、大人しくて騒ぎ立てることのなさそうな女性と結婚して子供を作り、そのあとはある程度のお金を渡して追い出せばいいと言い出した。たしかに一度も結婚をしないのは世間体もあることだし、それでもいいと思った。
あの人には逆らえないのだから。
神山に大人しくて見栄えのする子が居たら紹介てくれと伝えた数日後、奈緒との見合いが決まった。
でも実際、見合いをした奈緒はとても大人しいとは言えなかったが、強烈に惹かれた。
二人が巡り会うことが決まっていたかのような、一緒にいるべき人なのだと強く感じたんだ。
でも、あの日
この記憶に重なる違う記憶を感じるようになった。
夢の中の奈緒は、お見合いの日に自分の意見など言わず、ただ微笑みながら頷いている。
結婚前からこの家に一緒に暮らし始め、結婚した後も、自分から何かを発言することはなかった。
それでも、家庭をよく守ってくれて子供を永遠を産んでくれた。
永遠・・・・あの日、寝言で言ったのはやはり永遠のことだったんだ。
永遠が生まれると、あの人はどんどん大胆になっていき怖かった、三人の生活はとても穏やかで優しい日々だったから。壊したくなかった。
「そんなことを言って、薬を盛って享楽にふけっていたんでしょ」
薬を飲ませていてはダメだと分かっていた。
だけど、それ以上に薬を飲ませないとこの三人の生活が壊れることが怖かった。
あの日が来るまで、こんな歪な状態でも三人の生活は続くと思っていたんだ。
「永遠はどうなったの?」
コメント
1件
うわ…第23話、重かった…🥀 海智さんの過去が明かされて、切なくて苦しかった。 義母との関係、薬の話、彼女たちの行方…全部がつらくて、でも目が離せなかった。 「永遠」のことを聞いた奈緒さんの最後の問い、心に刺さったよ。 この歪な関係がどうなるのか、すごく気になる…。 続き、静かに待ってます🌙
長月~kugatu~
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