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5 - ――桃の癒し、偽りの笑顔

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2025年07月21日

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 ――桃の癒し、偽りの笑顔





館の朝。

天窓から差し込む陽光が、六色のドレスをふわりと照らしていた。


少女たちは今日も中央ホールに集まっていた。

初兎の記憶に触れた昨日から、誰もが少しずつ変わっていた。

寄り添い合う距離感、言葉の重み、沈黙のやさしさ――

まるで、ゆっくりと“家族”になっていくようだった。


「本日は、桃の間にご案内いたします」


青年の穏やかな声が響いた。


ふと、皆の視線が一斉に、ないこへと集まる。

桃色のドレスに身を包んだ彼女は、ふわりと笑って頷いた。


「ふふっ、じゃあ、ないこの出番だね」


その笑顔は、いつものように明るくてやさしい。

でも、初兎は眉をひそめた。


「……その笑い方、なんやろ。ちょっと、怖いわ」


「え、こわい〜? ないこ、可愛い系なのに〜?」


「そういうとこや。無理してへんか?」


いふが口を挟むと、ないこは一瞬だけ目を伏せた。


「……行ってきます」


そう言って彼女は、扉の前に立った。



扉の向こうに広がっていたのは、おしゃれな街の風景だった。

高層ビルが並び、ブランド店やカフェが軒を連ねる都会の街並み。

街頭には大きな広告が流れ、制服姿の学生たちが行き交っている。


「え、なんか今までと全然ちがう」


初兎がぽつりと呟いた。

確かに、雪の町や教会、古びた団地とはまるで違う、華やかさが漂っていた。


だが。


「……あれが、ウチ?」


いふが指差した先には、中学生くらいのないこがいた。

綺麗な制服、整えられた髪、ブランドもののリュック。

その姿はまるで、誰もが羨む“理想の女の子”だった。


「……なんか、モデルさんみたいやな」


「人気者やったん?」


初兎が問いかけると、現在のないこが小さく笑った。


「うん。あの頃の“ないこ”は、いつも人気者だったよ」


記憶が進む。

ないこはクラスの中心にいた。

男女問わず誰にでも好かれ、先生にも可愛がられ、SNSでは“天使”と呼ばれていた。


『ないこちゃん、すごいね』『かわいい〜』『何食べてるの?』


スマホの画面には無数の「♡」が並んでいた。


「でもね」


ないこは笑顔のまま、語る。


「全部、演技だったんだ」


一瞬、時が止まったような感覚に包まれた。


「……え?」


りうらが呟く。


「ないこって、ずっと笑ってるじゃん? 優しくて、明るくて、誰にも嫌われないでしょ。

でもそれ、本当の私じゃないの。私がそう“演じてた”だけ」


場面は夜の自室に切り替わる。

白いベッド、整った勉強机、香水の並んだ棚――

その中心で、ないこがひとりスマホを握りしめていた。


『ないこって、調子乗ってない?』『あの笑い方、うざくない?』『リア充すぎて無理』


画面に流れるのは、匿名の書き込みだった。


「ウチな、あのころ、ずっと思ってた。

“完璧じゃないと、誰にも好かれない”って」


ないこの声が震えていた。


「間違えるのが怖かった。

一度でも変なこと言ったら、バカにされて、置いてかれて、

“あの子、思ってたより普通だね”って言われるのが……何より怖かった」


画面のないこが、ふっと笑う。


『わかる〜、マジで最高だった〜♡』


それはどこまでも“作られた笑顔”だった。


「ないこちゃん……」


ほとけがそっとつぶやく。


「私、本当はもっと無愛想で、声も低くて、趣味もオタクっぽいし、

休みの日なんてずっとアニメ観てた。

でも、それを見せたら、誰にも見てもらえない気がして――」


そこで、ないこは言葉を切る。


「だから、私は“誰かに好かれる自分”しか見せなかった。

でもね、気づいたら、どれが“本当の私”なのか分からなくなってた」


画面の中のないこが、鏡に向かって囁く。


『ないこちゃん、今日もかわいいね。……ウソだよ』


その瞬間、景色が揺れ、少女たちはホールへと戻された。



沈黙が流れる。

ないこは、静かに笑っていた。


「……ほらね。つまんないでしょ、こんなの。

“家庭が複雑でした”とか、“貧乏でした”とか、そういう話じゃないの。

ただ私が、見栄っ張りなだけ」


その言葉に、初兎がゆっくり近づいた。


「なぁ、ないこ」


「うん?」


「今のあんたが、ほんまの“ないこ”やで。泣きそうで、強がってて、それでもちゃんと自分で立っとる。

ウチはそんなあんた、めっちゃええと思う」


「初兎ちゃん……」


ほとけが、手を差し出す。


「見せてくれてありがとう。演じてることも、本当の自分が分からなくなったことも……ぜんぶ、勇気がいることだよ」


りうらも、小さく頷く。


「完璧じゃないってことを、わたしたちはちゃんと知ってる。

でも、それを受け入れるって決めたの。私たちは“仲間”だから」


そしていふが、ぽんとないこの頭を撫でた。


「せや、あんたはもう、ひとりちゃうねんで」


「みんな……」


ないこは、ふわりと涙をこぼした。

その涙は、まるで桃色の花びらのようにやさしく、胸を打った。



その夜、少女たちはホールで小さなピクニックをした。

キッチンで焼いたパンと紅茶、キャンドルの火。

まるで、遠い昔に忘れた“放課後”が、ここに戻ってきたかのようだった。


「やっぱないこは、なんやかんやでええ子やな」


「も〜いふちゃん、それ褒めてるの? ディスってるの?」


「どっちでもええやん。ウチら、もう家族みたいなもんやろ」


少女たちの笑い声が、館の廊下を包み込んでいく。


そして、その夜の終わり。

黒のドレスの少女――悠が、月明かりの中で独り言を呟いた。


「……やっぱり、あんたたちと出会わなきゃよかった」


その瞳に浮かぶのは、涙か、怒りか、それとも――




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