テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
目が覚めた頃には、空の色はすっかりオレンジ色になっていて。
夕焼けのチャイムが、静かに鳴り響いていた。
視線を少しずらすと、ベッドに寄りかかって眠っているまなとの姿が目に入る。
体は少し楽になっていて、
起き上がれなくもないけれど——
もう少しだけ、この時間に甘えることにした。
まなと side
目を開けると、辺りは薄暗かった。
「あー…寝落ちてた。」
小さく息をついて、軽く体を伸ばす。
それから〇〇の方に目を向けると、
布団を抱きしめたまま、規則正しい寝息を立てていた。
「……よかった、まだ寝てた。」
ぽつりと呟いて、少しだけ肩の力を抜く。
そのとき、〇〇のスマホが震えた。
静かな部屋に、やけに大きく響く音。
起こすのも気が引けたけど、画面に表示された名前を見て、少しだけ迷う。
「〇〇、電話きてる。たぶん、お母さん。」
軽く肩を揺らしながら、優しく声をかける。
『んー……まなとが出ていいよ……』
寝ぼけた声でそう返される。
こうなったらもう起きないのは分かってるから、抵抗せずにスマホを手に取った。
「もしもし。」
寝起きのせいで、少し低い声が出る。
〈あれ?まなとくん?〉
「はい、まなとです。〇〇、家の鍵忘れたみたいで。」
軽く笑いながらそう伝えると、
〈そうなの?ごめんね、迷惑かけちゃって。
まだ帰れそうになくて、もう少しだけ居させてもらっても大丈夫かな?〉
「大丈夫です。〇〇、まだ寝てるんで。
そんなに急がなくても大丈夫ですよ。」
〇〇のお母さんは忙しくて、
こうして家に来ることも、昔から珍しくなかった。
〈けっこう体調悪そう?〉
「寝る前はだいぶしんどそうでしたけど、
今は——」
視線を落とす。
「……気持ちよさそうに寝てます。」
そう言いながら、顔にかかった髪をそっと払った。
〈ならよかった。迷惑かけちゃって申し訳ないけど、よろしくね。〉
「気にしないでください。何かあったら連絡します。」
通話を切って、静かにスマホを置く。
『いまの、お母さん……?』
起きたばっかで、少し乱れた髪の毛と垂れている目で聞いてくる。
「お母さんだったよ、まだ帰るの時間かかるって。」
『だよね、だと思ってた。』
少し寂しそうに笑って、呟く〇〇はなんだか
いつもより弱々しくて。
「ねつ、まだありそう?」
そう聞きながら、〇〇の頬に手を当てる。
『つめたっ、…まなと相変わらず手冷たいね。』
「おれが冷たいのか、〇〇が暑いのかわからんね。」
あえて軽く返す。
その方が、今の空気にはちょうどいい気がしたから。
『まなとが冷たいんだよ。冷え性なの?』
「〇〇は子供体温だもんね。」
悪戯っぽくそう聞いてみると
『こどもじゃないし…!』
なんて言いながら拗ねたようにそっぽを向く。
予想通りの反応すぎて、思わず吹き出しそうになる。
でも ここで笑ったらもっと拗ねちゃうから、
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけ。」
『ゆるさないよ、熱あるからってなにしてもいい訳じゃないんよ!』
そう言いながら、おれの肩を叩いてくる。
けど、熱のせいかその力は驚くほど弱くて。
「それって全力で叩いてるの?」
気になって聞いてみると
『けっこう全力、
……なに力が弱いとでも言いたいの?』
「ううん、いやあってるんだけど、」
言い訳するにもできなくて、思った通りのことを口にしてしまう。
『やっぱり、もう知らないもん。 』
そう言って、逃げるように布団に潜り込んでいく。
「……はいはい。」
小さくため息をつきながら、 その膨らんだ布団を見る。
さっきまで見えてた顔が隠れるだけで、
少しだけ、距離ができた気がした。
「もう少し寝とき、まだ時間かかるらしいし。」
そう言っても、返事はない。
ただ、布団が少しだけ動いて——
中で小さく丸くなってるのが分かる。
「……ほんと、子どもやな。」
聞こえないくらいの声で呟く。
でも、その言い方はさっきよりずっと優しかった。
時計に目をやると、もう21時を回っている。
思ったより時間が経っていて、
部屋の中は、すっかり夜の空気に変わっていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
613