テラーノベル
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エレナの顔から、血の気が引いていた。
「薬湯が変わったのは、いつから?」
「数か月前でございます……。王妃付きの医師が調合するようになってから、陛下は眠る時間が異常に長くなりました」
「なるほどね。父上が眠っている限り、王妃派はいくらでも“陛下のご意向”を捏造できるわけだ」
「私は……ずっと、何もできませんでした」
悔しそうに、エレナは唇を噛む。
「お側にいながら、陛下をお助けすることもできず……」
「君は今、僕をここへ連れてきてくれた」
レオンは小さく首を振った。
「それだけで十分だよ」
首を振り、もう一度だけ父の手を握る。指先に、薄く光を宿した。体内に残る魔力の流れを、確かめるためだ。
「……っ」
かすかに、国王の呼吸が乱れた。浅く、不規則な息。
(駄目だ。弱りすぎている)
流れが悪いどころではない。
「本当なら、治癒魔法で身体を労わりながら毒を抜くべきなんだろうけど」
悔しげに息を吐き、懐から一本の小瓶を取り出す。淡い金色の液体が、瓶の中で静かに揺れていた。
「残念ながら、僕には治癒魔法は使えないからね」
「それは……?」
「睡眠草の作用を、一時的に弱める中和薬だよ」
レオンは小瓶を見下ろした。
「毒を完全に消せるわけじゃない。けれど、濁った魔力の巡りを少しだけ良くする効果がある」
「解毒薬では……ないのですか?」
「うん。完全な解毒薬は、毒を抜くぶん、かなり体力を削る」
レオンは小瓶を見下ろした。
「今の父上には、負担が大きすぎるんだ。だから、一滴だけ。飲ませすぎれば、今度こそ身体がもたない」
エレナは、両手で小瓶を受け取った。
「私が……必ず」
「無理はしないで。見つかりそうなら、すぐに捨てていいからね」
「いいえ」
そう言って、小瓶を胸元に抱いた。その声は震えていたけれど、瞳に迷いはない。
「前王妃様に救われた命です。今度は、私が陛下をお助けします」
「……母上は、人を見る目があったんだね」
その時、外の廊下から足音が近づいてきた。見張りだ。エレナが、はっと顔色を変える。
「殿下、お急ぎください。次の見回りが参ります」
「また来るよ、父上」
返事はない。そしてエレナに導かれ、隠し扉の闇の奥へと姿を消した。
***
翌朝。早朝の寝室には、まだ王妃派の医師の姿はなかった。エレナは、昨夜レオンから預かった中和薬を取り出す。
栓を抜くと、淡い金色の光が、朝の薄闇の中でかすかに揺れた。慎重に瓶を傾ける。
ぽたり、と。金色の雫が薬湯に落ちる。
器の中で淡い光が一瞬だけ広がり、すぐに消えた。エレナは国王の身体をそっと支え、薬湯を少しずつ口元へ運ぶ。
こぼさないように。むせないように。慎重に、慎重に。
しばらく、何も起きなかった。やはり、だめなのか。そう思った、その時だった。国王の指先が、わずかに動いた。
「……レ、オン……」
かすれた声が、落ちる。
「陛下……!」
閉じられていたまぶたが、ゆっくりと開いた。濁っていた瞳に、ほんのわずかな光が戻っている。
「レオンは……」
消え入りそうな声だった。
「王子様は、王城へお戻りです」
「そう、か……」
国王の目尻が、かすかに震えた。
「戻った、か……。
「レオンを……」
浅い息の合間に、国王は力を振り絞る。
「レオンを……呼べ……」
コメント
1件
ああ、ついに国王が目覚めたんですね……! エレナが震える手で中和薬を飲ませる場面、本当にハラハラしました。レオンが「無理しないで」と言いながらも信頼して託したのが伝わってきて、二人の絆がじんわり沁みました。父王の「レオンを呼べ」という最後の一言、胸が熱くなりました。続きが気になります!
柊トワ
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