《彼女の㊙️思考回路》
「………眠らせた……?どうやって」
「、そこまで聞いちゃう?」
そして彼女は、小指を僕の首に指差した。
「こうやってやるんだよ」
ー②ー
「ん…………………」
僕はゆっくりと起き上がった。
机で寝ていたせいか、くっきりと頬に跡が残ってしまった。
(やっぱり寝不足かな……)
そのまま、六限目が始まった。
「おい、■■■、…やっと起きたか…」
夕斗が、目の前でため息をついた。
「お前、昼休みから五限目まで、ずっと寝てたんだぞ…?」
「…………あ、そうだ…夕斗なぁ、お前転校生があんまり可愛いからって、どさくさに紛れてついていくとか、流石にストーカーすぎるだろ~、」
「…。………やっぱり寝ぼけとるなぁお前。目ぇ覚ませよ~」
「、何で?」
「何でって……そりゃあお前さぁ、………」
「転校生なんて、こんな田舎の学校に、いるわけ無いじゃん」
「は、?」
(……確かに、そんな気がしてきた………教室も静かだし……)
「はは」
夕斗は鼻で笑って、前を向いた。
(夕斗、僕のちょうど前の席だったっけ…?)
…
(なんか、変な夢をみていたみたいだ)
———-下校時刻になり———-
僕は夕斗と並んで歩き、ふざけながらゆっくりと下校していた。
タッタッ…………
「あれ…?」
突然、目の前から、見覚えのある長髪の女が歩いてきた。
(何処かで……見たような………?)
思い出そうとした途端、喉の辺りが、ズキンと傷んだ。
(う…風邪でもひいたかな…)
「ちょっと僕、今日は早めに帰るわ」
夕斗に手を振って別れ、一人、走り出した。
(やっぱり、なんか見覚えが…)
回り道をし、真相を突き止める為に、女が歩いていた、さっき通った道へ走った。
はぁ、はぁ
疲れながらも、何故か、必死になって探し回っていた。
(いた…!)
まるでストーカーさながらの行為に、自分自身でも、嫌悪を感じたほどだったが、見つかったことで、なぜだか、安堵を感じていた。
「す、………すみません」
彼女は、ゆっくりと振り向いた。
「どうしましたか?」
まるで見知らぬ人を見るかのような、その瞳の奥には、どこか歓喜の表情があるようだった。
「いや………ひ、人違いでした……」
容姿に気圧され、思わず僕は声を漏らしてしまった。
「そう」
目の前の女は、小指を僕の首に向かって、指した。
「あたり」
「はっ」
目を覚ますと、そこには、白い天井があった。
起きあがろうとしたその時、同年代らしき女が、呼び止めた。
「もう起きたの。君は朝起きるとき、結構早く起きれる人なんだね」
「え…?」
言っている意味がわからず、ぼぅっとしていると、女がこちらに歩いてきた。
「もう少しで終わるからね」
僕の右腕には、無数の点滴の針が刺さっていた。
「な、何だこれ…」
動かそうと、腕を上げてみたが………
動いたのは、左腕だけだった。
右腕は、麻痺したかのように、全く動かなくなっていた。
「僕の体に、何をしたんだ?」
「……………」
女は、ただただ黙って、何かを待っている様な素振りを見せた。
そして、「ちょっと待ってて」と言い、その場をあとにしていった。
(なんなんだよ…)
見覚えのある女の顔に、僕は深くため息をついた。
その瞬間、
痙攣したかのように、
僕は
、
助けて
お姉ちゃん
「おー! 実験は成功だね」
「うん!ありがと、おねぇちゃん…!」
僕は、ある日、姉と自由研究をしていた。
【何故、蝶は飛べるんだろう?】
内容は、割りばしの先端に、紙をつけ、蝶の飛び方を再現して、研究してみようというものだった。
「私も、ちょうちょみたいに、飛べたらいいのにな」
「ちょうちょみたいに?」
「…うん」
姉は、その整った容姿に、寂しげに笑みを浮かべた………
全て思い出した
カノ ン ……………、嘉音は、………僕だ
「おはよう」
僕は目を開けた。
窓から漏れる眩しい日差しのなか、ゆっくりと目を覚ました。
「今日も、晴れてるね~」
目の前には。
9ヶ月年上の姉の顔があった。
ー■■■ー
「待ってよ、待ってってば…」
僕は、姉の後ろを、一生懸命足早に歩いた。
「早くしないと、入学早々、遅刻するよ!」
元気な姉の名前は、時鉈 楓と言った。
そして、僕の名前は…
時鉈………
「お~い、嘉音~!」
「うわ、悪い、夕斗」
「結構待ったんだぞ~、休みなんかと、心配したやん」
「ごめん」
「はは」
夕斗は、白い歯を見せて、元気に笑った。
「まさか、おんなじクラスで、前後の席になるとはねぇ~」
「うん」
元々容姿の良い姉は、入学したてだとしても、周りからの視線は、尊敬の目で溢れていた。
———-下校———-
「暑いなぁ…」
姉は、女子にも関わらず、胸元のシャツをパタパタとさせて、暑そうにぼやいていた。
「下品だぞ~」
僕は細い目で、姉を見た。
「そ?」
姉は気にしていないかのように、そっけなく返事をした。
「アイス、買ってきてよ」
「は、なんで僕が。せめてジャン負けだろ?」
「お、やるぅ?」
「うん、!」
じゃーんけーん…………
「負けたぁ」
僕は、姉の開いた手を見て、自分の握った手を、悔しそうに見つめた。
「そんじゃ、放課後、買ってきてねん♪あ、ソフトクリームね。チョコとバニラ混ざったやつ」
「はいはぁい……」
気力の無い声でそうこたえると、僕は家に帰るなり、コンビニへ向かった。
キキーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!
ドン
そこから、記憶が消えていた
「嘉音、嘉音………!!!………!!!」
「かのん、○ノン、■ノ■!!」
「■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
病室から、寂しげな少女が、僕を静かに見つめ、去っていった。
———-×××———-
「お姉ちゃんお姉ちゃん!」
「ん?なあに?嘉音?」
「僕、お姉ちゃんの近くにいると、なんでか分かんないけど、落ち着くの」
「…、そうねぇ~」
少女は悩む様な素振りを見せた。
しばらく考え込んだあとに、続けた。
「お姉ちゃんにはね~、みんなを眠らせちゃう[ちから]があるのよ?」
そう言って少女は、嘘っぽくはにかんだ。
「カノン………嘉音………!!!!」
重かった瞼が、重力をなくし、ぱっと開いた。
「………、!!!!!!!!!!!、よ、良かったぁ~っっ………………!!!」
僕の姉は、滝のような涙を流しながら、弾けるような笑顔を見せて、僕を抱き締めた。
「嘉音たら、あれから半年も目を覚まさなくて……もう、医者も、ダメだって………良かったぁぁぁっ!」
「お、お姉ちゃん……」
……僕は、記憶の狭間にでも、いたのだろうか。
しかし、この夢のような夢物語は、
今でも、はっきりと覚えている……………。
完