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「これまで渡したお金で貯めている分は、もちろんそのままですし、二人の部屋にある持ち物は持ち出してもらっていい。ここにあるものはいらないと言うなら、それでも構わない。明日には、ふた部屋の改装業者が入るからそこで処分してもらいます」
「……業者?」
「はい、手配済みです」
「いつの間に……?」
「大門様との見合いの話は他社を巻き込んでの迷惑だったわけです。私はこれまで、会社に関係ないところであなた方が何をしていてもいいと伝えていました。それを承知していたにもかかわらず、今回のことがあったわけですから、十分に準備は出来ました」
2日だけよね……?
ご主人様と源田さんの会話を聞きながら、私は思い返した。
「中園のひと声で動く人間、会社、そんなのは列を作って待っていますよ。今すぐにだって改装出来るくらいだけれど、あなたたちが、身ぐるみ剝がされたような形で明日から困らないように荷物を持って行っていいと言っている。しかもご丁寧に引っ越し業者まで手配済みだと」
きっと頭の中でぐるぐるといろんなことを考えて言葉にならない遥香と、荷造りしなきゃ…と腰を浮かす源田さんは、家を出ることで頭が一杯なんだよね。
そんな単純なものではないと、私が思い出させてあげる。
「奥様と遥香様、これから周囲の目など大変なことも多いと思いますが、どうぞお元気で頑張ってください。私も今日ここを出ますから、同じ日に再出発ですね」
「っ……真奈美ぃ…っ、誰のせいで大変なことになっていると思っているのっ⁉アンタのせいでしょ?」
「元凶はアナタの嘘です。アナタの汚れて腐った魂が、何のためらいもなく放った嘘……それで人生がめちゃくちゃにされた私たち家族……どうぞ、その思いの一部を経験されて魂が少しでも磨かれるといいですね。そうでないと……現世から地獄行きですよ?」
「真奈美さんは、ここを出る必要ない」
「そうだね」
篤久様とご主人様の意外な声に私は驚き、遥香はスマホを持った腕を振り上げた。
「おーっと、どこまでも暴力的だね」
投げようとしたスマホを持つ手を西郷先生に止められた遥香は
「誰だって、嘘つくことくらいあるでしょっ⁉」
と、私に向かって怒鳴る。
でももう私は彼女がこの先の苦難を思い出しただけで十分だった。
私の言葉は遥香に……遥香の魂には届かないからもう何も言う気はない。
「真奈美さんは“嘘”と言ったけれど、あれは嘘でなく犯罪行為です。虚偽告訴等罪とか虚構申告罪というものです。虚構とは、事実ではないこと…つまり、事実ではない犯罪や災害を公務員、警察に告げると軽犯罪法第1条第16項に違反することになって虚構申告罪に問われる。実際には、当時の年齢とアナタの特定時期などの捜査状況が分からないのでこれ以上のことは言えませんけれどね」
そうだね……弁護士先生が職務中に発する言葉には気をつけなくちゃならないもの。
遥香が今から罪に問われることはない。
当時13歳だったことと、事件からの年数も経ち時効だ。
「事件に時効はあっても、世間の目とか噂って引きずるんです…」
「そういう事件をたくさん見ているので、真奈美さんの気持ちはよく分かります」
こういう風に誰かにきちんと話すことはなかったけれど、事件というものに慣れた先生になら言えると思ったのかもしれない……私は無意識に声を漏らしていた。
「引っ越ししたって、噂が追いかけてくる……父は転職を繰り返さないといけないし、母も噂を耳にし続けて……小さい私に言えずに心に留めすぎて病みました…」
「うん、想像出来てしまうから、僕も苦しい話だね……」
「すみません……」
「構わないですよ。こんな日に言わないと、真奈美さんも言う機会がないでしょう」
「そうですね…人は優しくて、そして怖いです。優しいんだけど、保身に走るから……私たち家族のような目に遭うと批判的な方へ行く人が大多数になって襲い掛かってくる…それは大人ですけれど。子どもは一人でだって“犯罪者の子どもは学校に来るな”とか平気で指さして大声で言いますから」
「でも、真奈美さんもお母さんの様子が分かっていると、家でそれを言えないよね…言えなかっただろう…」
西郷先生でなく、篤久様がそう言って私の肩をさすった。
コメント
7件
真奈美ちゃんほんとによく耐えて頑張ったと思う
真奈美ちゃん今までよく頑張ったね🥲
先ずは怪我を治そう。医者行きましょうね🤗傷害事件被害者ですから。 ちょっとお家に住まわせてもらって色々考えて。 んー、でも、真奈美ちゃんのご飯を食べたい男二人が居るので逃がしてもらえないかも?だけどねー😍🥰