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テラーノベル(Teller Novel)
短編集 byひな

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第11話

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2024年03月25日

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ぼくたち二人で。

ぼくは、知ってる。

かほちゃんが、がんばって走っていたことを。

かほちゃんは、毎日、毎日、グランドを走っていた。

高く高くのびたひまわりと、大きな太陽。真っ青な空。

その真ん中で、かほちゃんは走っていた。

学校が始まるのは、八時。

かほちゃんは、朝の七時からずっと、走っている。

ぼくは、かほちゃんのがんばりを知っている。だって、ずっと応援してきたから。

今日もぼくは、かほちゃんを応援する。


「ヤッスー、今日も、タイムはかるのおねがいね」

みじかいポニーテールをゆらしながら、かほちゃんが笑顔で言った。

「はあ~い」

ぼくは、ストップウォッチをスタートさせた。

かほちゃんが、地面をける。

あっという間に一周してしまった。

「はあ、つかれた。」

タイムは、十五秒。ぼくにはわからないけど、それはまだまだらしい。

「まだ十五秒かぁー。まだまだだね。ヤッスー、ちょっと休憩しよっか。」

ぼくはうなずいて、かほちゃんとくつばこに戻った。

かほちゃんとぼくは、陸上部に入っている。

朝練は、水・木・土・日だ。今日は月曜日。朝練はない。

だけどかほちゃんは、走っている。

かほちゃんは、足がはやい。

ぼくはそうでもないけど、かほちゃんは、陸上部の中で、三位くらいに足がはやいと思う。

「お茶飲もうか」

ぼくとかほちゃんが、お茶を飲んでいると、陸上部の先輩四人がきた。

「あんたたち、なにやってんの?」

ながーいポニーテールの先輩が言った。かほちゃんが、

「走っていました」

と言った。ぼくも、

「かほちゃんは~、がんばって~、れんしゅ~したから~、大会でさせてあげて~」

と、言った。先輩が顔をしかめる。

「はあ?果歩は目ぇ見えないだろう。そんな奴が大会できるわけない。」

かほちゃんがうつむいた。ぼくは、

「目が~、見えなくても~、はしれるよー」

というと、「その喋りかたうぜー」と言って、ぼくをつきとばした。

ぼくは、痛くて泣いた。

かほちゃんが、「ヤッスーをいじめないで・・・」

と言った。

「はあ?お前たちは、見学でもしとけ」

と言い、先輩たちは、教室にもどってしまった。

かほちゃんは、目が見えない。

でも、それでも走れる。大会にでれる。

だって、陸上部で、三位にはやいんだもん。

なのに、なんで先輩は、ダメなんて言ったんだろう・・・

となりを見ると、かほちゃんも泣いていた。

「目が見えないから大会にでれないなんて、くやしい・・・」

ぼくはどうしていいかわからなくて、ただ、かほちゃんの背中をさすってやった。


ー一週間後ーー

あれ以来、かほちゃんは、朝走らなくなった。

それだけじゃない。

部活にも、でなくなった。

かほちゃんのいない部活は、楽しくなかった。

ある日、顧問の先生が、部員に言った。

「なんで大野が部活にきてないんだ?」

先輩たちは、だまっていた。

ぼくは、理由がわかる。

ーかほちゃんは、先輩たちに、悪口を言われて、これなくなったんですー

言おうとしても、なかなか口をひらけなかった。

「大野のタイムはすごくいい。なのになんで急に来なくなっちまったんだ?」

先輩たちは、ずーっとだまっている。

「大野は、大会にだそうと思ってたんだけどなあー・・」

ぼくは、その一言にびっくりした。

「せんせー、なんで果歩が大会にでるんですか?」

先輩が言った。

「なんでって、タイムがいいからだよ。なんか文句あるか?」

先輩が小さく舌打ちをしながら、くびを横に振った。

「楠原。大野に、大会にでるから、練習しとけって伝えてくれ。家、隣だろ?」

ぼくは、先生のことばに、小さくうなずいた。


ーー放課後ーー

ぼくは、かほちゃんの家のまえに立っていた。

かほちゃんは、もう学校にも来ていない。

ぼくは大きく息をすって、インターホンをおした。

「・・・」

少しだけ開いたドアの向こうで、かほちゃんがぼくを見ている。

「あのさ、せんせーがぁ~、かほちゃんー、大会に~、だすって~。せんせーがいったから~、まちがいないよ~またあしたかられんしゅーしよ~」

かほちゃんが、小さく口を開いた。

「でも・・・目の見えないわたしは・・・どうやって走ればいいの・・・?」

ぼくは、大きく微笑んだ。

「だいじょーぶ。」


ーー大会当日ーー

知的障害のある男の子と、目の見えない女の子が、二人で走っていた。


ぼくとかほちゃんは走れる。

二人なら走れる。


ぼくたちは、一つになる。


風になって、走ってゆく。


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