「あ、若井おはよー。」
練習スタジオの休憩室にて、一番に来たと思ったら涼ちゃんが先に来ていた。
「おはよ、涼ちゃん。ちょうどよかった。はい、これ。」
ソファーに座る涼ちゃんの横に座り、紙袋を渡す。
「なにこれ?」
「バレンタインにチョコ貰ったからね。一応お返し。」
「あぁ!」
あの日は大変だった。
元貴が浮気していると涼ちゃんが勘違いし大騒動。結果、誤解は解けてめでたしめでたしだったのだが、元貴にチョッカイかけた(つもりはないだろうが)アイドルはその後スキャンダルが発覚し活動休止に追い込まれた。
(元貴が何かやった・・・?)
とは思いたくなかったが、タイミングが完璧だったので疑わずにはいられなかった。
「ありがと、若井。」
「いや、先に謝っとくわ。涼ちゃんから貰ったのすっかり忘れてたから、コンビに寄って買ってきた。」
「ううん。お返し貰えると思ってなかったし。ありがとう。」
紙袋の中身はスコーン二つと大きめのチョコクッキー。
「今時ホットスナックの所にこういうのあるんだね。ギャグで唐揚げ棒買っていこうと思ったら焼き菓子あったからそっち買ってきた。」
「このクッキー去年流行ったよ。当時どこ行っても買えなかったな。」
「そういえば元貴には結局チョコあげたの?」
「あ・・・あぁ、まぁうん・・・。」
モゴモゴとはっきりしない涼ちゃん。
あぁ、なるほどね。
「チョコじゃなくて涼ちゃんをあげたんだ?」
「うぇっ?!」
驚く涼ちゃんの顔は次第に赤く染まっていく。
面白くてついからかいたくなる。
「あれでしょ?所謂仲直りのエッーー。」
「言わなくていい、言わなくていい!」
涼ちゃんが慌てて両手で俺の口を塞ぐ。思いの外力が強く、ソファーに押し倒された。
「むーっ、むーっ。」
「マジで!言わない?!」
コクコク頷けば、そっと手を外す涼ちゃん。
「仲直りエッチをし。」
「もー!!!」
再び口を塞がれる。
いや、今度は鼻も塞がれて息できない。
バシバシと涼ちゃんの腕を叩いてギブの意思を伝える。
上に乗っかる涼ちゃんは頬を膨らませて
「マジで!言・わ・な・い?」
反抗の意思がないことを示すためにハンズアップして頷く。
涼ちゃんはやっと手を離してくれた。
その時
「おいすー。」
休憩室に入ってきた元貴は俺たちを見て固まった。
「「あ・・・。」」
俺と涼ちゃんは自分たちの体勢に気づく。
いや、タイミング最悪やん。
「浮気だ・・・。」
元貴の言葉に、涼ちゃんは慌てて俺の上から降りて元貴に駆け寄る。
「ち、違うんだよ!元貴っ。」
「・・・・。」
元貴はそのまま無言で休憩室を出て行った。
「・・・若井・・・どうしよう・・・。」
アニメのように大粒の涙を零す涼ちゃん。
「どうしようって言われても・・・。多分大丈夫じゃない?」
だって、休憩室出て行くとき元貴の口元緩んでたもん。
多分、涼ちゃんいじめて楽しんでんでしょ。
面倒くさいなぁ、このバカップル。
「涼ちゃん、スコーン二つあるから元貴と半分こしてきたら?」
ついでに仲直りエッ・・・いや、まだ朝だからそこまではないと思うけど
「多分自販機のところあたりにいると思うから。」
「う、うん・・・。」
「食べられておいで。」
「食べられる?」
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