私は目を閉じながら、しばらく恭吾さんの体温を感じていた。
「ごめん……こんなことして。月城さんに叱られるね」
恭吾さんは、笑顔だった。
少しホッとした。
「本当にごめんなさい。恭吾さんはいずれ会社のためにトップに立つ人。だから……素敵な奥様を見つけて、その人と幸せになってもらいたいです」
「そうだね。ありがとう……。いつかそんな日が来ればいいけど。しばらくは無理そうかな。ああ、もう行かなきゃね。穂乃果ちゃんを早く送らないと月城さんが心配するだろうから」
恭吾さんは1度眼鏡を少し動かしてから、きちんと元の位置に戻した。
本当に眼鏡が良く似合う知的なイケメンさん。
こんな素敵な人に大事に想ってもらってたなんて……夢みたいだ。
私は店を出て、恭吾さんの車で送ってもらった。
清潔感のある車内。
車の中ではうちの和菓子屋の話をしたり、他愛もない会話をして笑った。
恭吾さんって……こんなにもよく笑う人なんだ……
考えたら、私は恭吾さんのことを何にも知らない。だからこそ、今日、色々話せたことはとても良かったと思えた。私は、正直に悠人と一緒に住んでることを恭吾さんに伝え、マンションの前まで送ってもらった。
「一緒に暮らしてるなんて、本当に月城さんがうらやましいよ」
「……ごめんなさい」
「あっ、いや、困らせるつもりじゃなくて、つい心の声が出てしまっただけ……。じゃあ、また」
恭吾さんとお別れの時。
わざわざ車から降りて見送ってくれてる。
お互い笑顔で手を振った、何だかほんの少しだけ切なくなった。
恭吾さん……
こんな私を好きでいてくれて、本当にありがとう。
恭吾さんには絶対に幸せになってもらいたい。
心からそう願わずにはいられなかった。
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