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「む――――ん……」
数週間後、幸福寺の本堂でコユキは満足気な笑みを浮かべていた。
御本尊の横には、ズラリと並んだ、七つのフィギュアが威容(いよう)を醸し出している。
そうだな、順に呼んで行こうか、折角だしね、てへ。
左から、
神速のオルクス(グリゴリ トウ オルクス)
強襲のモラクス(エピドロミ トウ モラクス)
鉄壁のパズス (スクリラ トウ パズス)
改癒のラマシュトゥ (テラペイア トウ ラマシュトゥ)
虐殺のアジダハーカ (スコトーノ トウ アジダハーカ)
破壊のシヴァ (シントリーヴィ トウ シヴァ)
蹂躙(じゅうりん)のアヴァドン (カリンマ トウ アヴァドン)
漸(ようや)く集まった、オルクス君の弟妹(きょうだい)を前に、感極まったコユキは、いつもより少し大きめの声で問い掛ける。
「みんな! アタシの家族を取り戻す為に力を貸してちょうだい! どうかな? おっけい?」
「「「「「「「おっけい、でございます。 マラナ・タ!」」」」」」」
「ありがと♪ じゃあ、善悪も帰ってきたし、アタシ達も居間に行こうか?」
コユキの言葉通り、善悪の運転する軽バンは先程駐車場に入っていった、善悪自身もそろそろ玄関に着く頃合だろう。
スプラタ・マンユの七人は、器用に大日如来の足元から提げられたロープを使ってスルスルと降りて、コユキの後を追っていく。
茨城県霞ヶ浦でのアジ・ダハーカ奪還の後、『馬鹿』対策方法が確立された。
お蔭で、これまでの苦労が嘘だったんじゃないかと感じられる位、残る二柱(ふたはしら)の回収はスムースに済ませることが出来ていたのだ。
アジ・ダハーカは一般に良く知られている通り邪竜であり、ヴリトラの別名が示すまんま暴君、いわゆる乱暴者、やんちゃである。
しかし、悪巧みが得意なお蔭、と言う訳でもないが、スプラタ・マンユの中では比較的頭が切れる存在でもあったようだ。
まあ、日本人に馴染み深い別名では、阿修羅明王(あしゅらみょうおう)ともいわれている位なので賢いのも頷けるが……
今までのメンバーが当然の様に聖女は敵! と決め付けて来ていた事に、疑問を持ったらしい。
そして、オルクス達四人が、コユキ達に懐柔(かいじゅう)されて一緒に過ごしているのでは? とシヴァ及びアヴァドンに自らの仮説を話した、らしい。
この仮説を聞いた二人は、アジ・ダハーカの提案を受け入れる事にしたそうだ。
流石は、シヴァはルドラ、アグニ、インドラの異名を持ち、日本では吉祥天(きっしょうてん)と呼ばれる、高位霊的存在である。
一方のアヴァドンも、ゲームなんかの影響で食欲過多の食いしん坊みたいに思われているが、神としての尊称は、誰でも知ってるあの『アポロン』である。
頭は良いのである!
そんな三柱(みはしら)が次にぶち当たったのは、『馬鹿』状態をどうするか、この一点であった。
熟考を重ねる弟達にアジ・ダハーカが、魔界に残った三柱の中での年長者らしく提案した。
自分が実験台になると……
その提案した『馬鹿』対策はこうであった。
まず、食欲とか繁殖欲、生存欲のような単純な本能だけに支配された野生動物を依り代に顕現する。
勿論、無垢な野生動物では当然魔力過多になってしまい、文字通り、爆ぜて、しまう。
そうなら無い為に、周辺の同種に次々と魔力を分け与える事で現世(うつしよ)に顕現し続ける、今回の場合は、霞ヶ浦に山のように潜み暮らす『青大将(あおだいしょう)』がその対象であった。
そうして、自身の魔力を極限まで減らした上で、『馬鹿』とは対象的な、現世一の知恵ある生き物、ニンゲンに憑依し、回復していく魔力は、その都度、近隣の野生動物に惜しみなく与えていく。
これが、現状で考えうる最善の『現世顕現法』であると、アジ・ダハーカはシヴァとアヴァドン、二人の弟に語ったのであった。
二人も納得し、全魔力を傾倒し、アジ・ダハーカの首尾を見守る事にしたそうだ。
その結果は、以前にご紹介した通りであった。
多少、コユキが気が付くまでに時間は要した物の、ほぼアジ・ダハーカの狙い通りであったと言えよう。
なにより、確保されたアジ・ダハーカ(今はキングギ○ラのフィギュア)が、今度はこちら側で、事の次第を説明してくれるのだ。
それによって、山形に顕現したシヴァも、山口に現れたアヴァドンも、思った以上の容易さでこちらの陣営に迎える事が出来たのであった。
良かった良かった。