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坂を降り、トンネルをくぐり城壁の外へ出ると、風がジャケットを左右に広げた。ボスポラス海峡がマルマラ海に混じり合って終わっている。海は水平線で空と接していた。
人影がまばらな岸辺のベンチに二人は座った。
「実は、ここに来るのは二度目なんだ」
旅人はそう言った。声のトーンから、青年は直感した。旅人はガラタ橋からずっと、ここを目指していたのだと。
「僕は地球を一周して、今またここに座っている」
旅人の声は物静かだった。青年は旅人の目を見た。中心が黒く、周りが焦げ茶の瞳は潤んでいた。
太陽が雲から顔を出した。黒ずんだ海の色が、急に青く浮かび上がった。護岸の縁に貼り付くフジツボが光る。青年は頭を下に垂れると、自らの影の中に、色褪せた靴が地面のひび割れを踏んでいた。