鈍い頭痛と、喉の奥に残る渇きで目を覚ました。
カーテンの隙間から朝の光が差し込み、昨日までの赤い照明が嘘のように消えている。
バイブや手足に巻かれていた金属の枷は外されていたが、皮膚には赤黒い跡が痛々しく残っていた。
——夢じゃなかった。
その事実が、心臓を強く締め付ける。
身体を起こそうとした瞬間、背中や腰に走る鈍い痛み。微かな吐息が横から聞こえてきた。
「……起きた?」
振り返ると、椅子に腰掛けた藤澤がこちらを見つめていた。
カップから立ち上る湯気と、落ち着いた声。
昨夜の狂気を孕んだ支配者と同じ人物とは思えないほどの穏やかさだった。
「……なんで……俺……」
掠れた声を絞り出すと、藤澤は立ち上がり、歩み寄ってくる。
「昨日のこと、全部覚えてる?」
低く囁かれ、鼓動が早鐘を打つ。
——忘れられるわけがない。
目隠し、鎖、バイブ、首を絞められながら絶頂に堕ちていった感覚。
「俺が……望んだわけじゃ……」
必死に否定しかけたその瞬間、藤澤が口角を上げた。
「違うだろ。お前、自分で言ってたじゃん。『支配されたい』って。全部、盗聴で聞いてたし」
心臓が凍るように冷えた。
「……っ……」
声が出ない。
藤澤の手が頬に触れ、優しく撫でる。
「だから俺は、ただ叶えてやっただけ。お前の願いを、現実にしたんだよ」
冷たいはずの言葉が、胸の奥では甘く響いてしまう。
怖いのに。
逃げたいのに。
安堵してしまう。
「GPSも盗聴も、この先もずっと続ける。お前がどこにいても、何をしてても、全部俺が見てる」
「やめて……」と震える声が漏れる。
でも、本当に「やめてほしい」のか。
自分でも答えられない。
「俺は……」
言葉が途切れ、唇が震える。
藤澤は満足そうに目を細め、元貴を抱き寄せた。
「これでいいんだよ。お前は俺の檻の中で生きればいい」
胸に押しつけられた耳に、規則正しい鼓動が響く。
昨夜の狂気を知っていながら、その音に安らぎを覚える自分が、もう完全に逃げ場を失っていることを示していた。
「元貴は俺なしじゃ生きられない。……でも安心して。俺もお前なしじゃ、もう生きられないから」
支配と依存。
狂気と優しさ。
その境界線に囚われたまま、元貴は目を閉じた。
外の世界はもう関係ない。
紅い檻の中こそが、自分の生きる場所なのだから。
END
コメント
2件
終わっちゃった〜!今回もいいお話で終わりましたな〜リクエスト答えてくれてありがとうございます!(´▽`)またいつかリクエストするかもしれないですね〜