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 深夜0時を過ぎた繁華街を、俺は一人で歩いていた。1ヶ月ほど前、あちらから請われて付き合いだした恋人にいきなり呼び出されたからだった。

「なんでこんな時間に呼び出すんだよ…」

 正直、家で作業がやりたかった。

 相手にもそう言ったが、まるまる無視されて今に至る。

「彼なら…こんな思い…せずに済んだかな…」

 俺には今の恋人と付き合う直前まで年下の生意気な恋人がいた。

 クルクルと変わる表情が可愛くて…でもいざと言う時はちゃんと男らしく守ってくれるような人だった。

 でも、友達からスタートして付き合うようになって数年…彼への気持ちがよく分からなくなった。あとは、彼に愛されているという自信がなくなってしまった。

 そこから、口論になりいつの間にか別れることになっていた。

 とはいえ、仕事では顔を合わせることもあるので、完璧に関係が切れた訳では無いのだが…。

「でも、りぃちょくんはモテるし…」

 俺じゃなくていいよね…そう誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

 別れて、他の人と付き合ってわかった。

 彼がどれだけ俺を尊重してくれていたのか…。

 大事にしてくれていたのか…。

「はぁ…今日は何時に帰れるのか…」

 ため息をひとつついて、目的地の店へ入っていった。

「お!来たかキャメーおせーよ」

「こんな時間に呼び出されて来ただけありがたく思ってよ」

「かわいくねぇの。やっばお前つまんねぇな」

 何を言ってるんだろうかこの男は…。自分が呼び出しておいてこの言いよう…さすがに腹が立った。

 1度座りかけた席から立ちあがり、帰ろうとすると恋人に腕を掴まれた。

「何帰ろうとしてんだよ!」

「つまんないっていうからいなくていいのかなって」

「はぁ?お前ふざけんなよ!」

 腕を振り上げられ、次にくる衝撃に備え体を固くした。

 でも、いくら待っても衝撃は来ず、閉じていたまぶたを恐る恐る開いた。

 すると、恋人と俺の間に見慣れた白髪頭が見えた。

「ねえ、何してんの?」

「お前にはかんけーねぇだろ!俺のもんだ離せ」

「ねぇキャメさん…ほんと?」

「なに…が?」

「キャメさん、こんな奴のものなの?」

 不安そうな悲しそうな目でこちらを振り返るりぃちょくん。

 ずっと触れたかった彼が目の前にいる…。

 もう気持ちを誤魔化すことが出来なくなっていた。

「さっきまではそう…だった…」

「なんだよさっきまではって!」

 俺の言葉を遮って大声を出す恋人を、りぃちょくんはキッと睨んだ。

「お前、ちょっと黙れよ」

「俺の事を大事にしないやつとは一緒にいられない」

「俺と…別れてくれ」

 やっとの思いで言葉にすると、恋人はさらに殴りかかってこようとした。

 それを片手で制したりぃちょくんは、恋人の腕を後ろに回して抵抗できないようにした。

「恋人に手をあげようとするやつにキャメさん渡せるかよ」

 そういうりぃちょくんの顔は少し苦しそうだった。

「さぁキャメさん、出るよ」

「うん…」

 りぃちょくんに手を引かれ店を出ると、ごめんと小さい声で謝って結んでいた手を離されてしまった。

 今…今、声をかけなければもうそばに行けないかもしれない。

 そう思った俺は、りぃちょくんの腕を掴んで路地の人気のない所へ向かった。

「どうしたの?」

 そう訪ねる彼の声は相変わらず優しい。

 この優しさに気づけなくなっていたなんて…。

 過去の自分を殴りたい気分になっていた。

「りぃちょくん…」

「なに?」

「俺と…つきあってください」

「え?」

「俺…分かったんだ。りぃちょくんだったから幸せだったんだって」

 そこまで一気に言って、深呼吸をした。

 りぃちょくんは固まって何も言わない。

 ダメかもしれない…そう思ってももう止まらない。

「わがままばかりでごめん。でも…好きなんだ」

「っ…もう…ダメだと思ってたのに…」

 泣きそうな声でそう言われ、思いっきり腕を引かれて彼の腕の中にすっぽりとはいった。

 久しぶりの彼の匂いに包まれ、俺は胸が苦しくなるほどの幸せを感じていた。

「もう…逃がさないからね…」

「うん。もう逃げない」

「ずっとずっと一緒だよ?」

「うん。ずっといっしょ」

「愛してるよ」

「うん。俺も愛してる」

 俺たちはどちらからともなく唇を合わせ、離れていた期間を取り戻すかのように互いを求めあった。

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