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「じいちゃん」
「はいはい、ここにいます。」
のそっと布団から起きてきた巨体が支度をし始める小さな背中に話しかける。
貿易期間の長さと比例して夜を共にする時も長くなった。もう17世紀に入る。
「、、、そうだ蘭さん。近頃海上が物騒だと通報を受けたのですが、、、守ってくれているのでは?」「あーっと、、」
「はぁ、こちらでもできる限り対応しますがそちらも御国を守ってくださいよ?」
「はいはい」
英蘭戦争に負け、力が無くなり衰退したとは言い出せなくなった。アメリカ独立戦争が起き、イギリス領から独立したことによって海上封鎖が行われた。オランダはアメリカを支援したことでイギリスから宣戦布告されたのだ。
オランダ領も現在のインドネシアのみとなった。
「じいちゃん」
こう呼べるのもあと何回であろう。
長崎の出島内にはためいているあの国旗はいつまで見ることができるのだろうか。
「はいはい。今度は━━━━━」
頬をガっと捕まれ強引に接吻される。
離れようと手を肩にガタガタと押すが、中々離れない。息切れする頃にやっと離れ、ギュッと今まで1番強い力で抱きしめられる。
「Vaarwel.」
「え、、?」
マントをガっと勢いよく椅子から取り去り、港へと向かう。その後を急いで着いていくが、早すぎる。
「あれ日本さん?どうされ、」
「すみません!あとで、、」
一度も振り返ることなく港へ着き、部下と話をしている。どうやら焦ったような顔つきで部下は喋っているがオランダはいつもと変わらない。話し終わったのかサッと船へ乗っていく。
叫んでもあの人は振り返らない。
手も振らない
ただ背中を向けるだけ。
力が抜けたように膝から崩れ落ちた。後ろから大阪や長崎が走ってきている音がする。
船は逃げるように出港していく。長く生きていればなんとなく分かってきた。
もうきっと会えないのだろう。
1人残された港に2人が駆け寄り肩を支える。
それでも涙は止まらなかった。
暫くオランダ商館にいたものの、江戸で騒ぎが起きたらしく、長崎を離れることにした。
駕籠(かご)に乗る直前、長崎がふっと現れすぐにお辞儀をする。
「帰ってきましたらすぐに知らせます。」
「はい。頼みますね」
「これよりこの国は我らフランス帝国の直轄領とする!」
そう宣言したのは英雄ナポレオン。
街中が騒がしい中、オランダは1人物陰からその景色を眺めていた。
英雄ナポレオンにより、オランダは世界の歴史から一時姿を消すこととなる。この時に建国されたオランダ王国は短命となっているが、この時点でオランダの衰退はとっくにはじまり、オランダの栄光は他国へと奪われる。
1808年8月
江戸にいる日本にある電報が届く。そして『その国の化身』が舞い降りたとも報告された。
それが『誰』とは書かれていなかったが、日本は急ぎで長崎へと向かった。
オランダ商館へ着くと、長崎とその世話係のような者数名が頭を抱えるような仕草をしながら話をしていた。やがて、駕籠が見え長崎が寄ってくる。
「日本さん!」「長崎さん」
「実は、来たとはオランダさんのことではなく、」
「とにかく、化身のことは私に通してください。」
「はい、こちらへ。」
今まで楽しい足取りでしか通らなかったこの廊下をこんな焦る様な形で通るとは思いもしなかった。ガラッと戸を開けると、確かに同じ金髪だけれども髪は立てていない不揃いで小柄な男性がいた。その男は何かを飲んでいたが次第にこちらに寄ってきた。
「Hello.」
「、、、長崎さんは席を外しておいてください。」
「久しぶりですね。何百年ぶりでしょうか?」
「そうだなぁざっと100年は経ってるだろうな」
「なぜ今頃?」「別に」
素っ気ない返事とこちらを見定めるような目。
欧州はこんなものだと思っていたとしても、未だに慣れない。
「菊。もう一度やり直そうじゃないか?」
「、、、なぜ?日本国には蘭国、清国があります」
「だから?」
「貴方、、」
「貴方なんてそんな、『アーサーさん』だろ?」
《蘭船を装った英船 出島内の人間に危害
英国の化身あり》
不正入港をさせたということで出島の責任者は処罰させられたと聞いた。この気持ちをなんと表そうか?
負けじと言い返すのに呆れたのか、言論の末にイギリスは日本を壁へと追い詰める。
「まぁ別に今はしなくてもいいけどよ。後で思い知ることになるだろうよ。」
「どういう意味でしょうか?」
「お前の頭で考えてみろ。国だろ。」
スっと離れ戸へ向かう。
「どこへ?」
「帰るんだよ。別に今回は興味本位だしな」
「なぜ今回来たのですか?」
「理由がいるのかよ?」
いつの間にか外に出て追いかけてしまっている。それでも進む足が止められない。
「国はその国の民によって全てが変わる」
人差し指でおでこをツンと跳ねられニヤリと笑う
「よく覚えとけ」
颯爽と船へ乗船していく。
触れられたおでこを両手で隠しながら赤面を止めることはできなかった。
「なんなんだよ、、」
一方イギリス船
「祖国。」
「お前らなぁ、せめて装う完璧ぐらいはしろよな!?無駄に責められたんだから、」
「へへっすみません!」
「、、、家に帰ったら次は工場勤務か?」
「えぇまぁ。三男が生まれたもので。」
「、、、、そうか。」
羽織っているコートを椅子に掛け、船の仕切りに体重をかけてため息をつく。
そこを見かねた召使いが近づく。
「、、、古き初恋の人との再開は?」
赤面し、汗をかきながら慌てる。
いやー、それは、などと言い訳を連ねるが部下が集まってきたのを皮切りに喋り出す。
「、、、、いつか俺のものにするよ」